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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
32/55

#32 最高の三人旅

 どうにか乗り込んで座席を見つけた僕達は席に腰をかけた。僕を含めた三人ともマラソンをしてきたかのように息が荒れていた。


「あの、もしかして……」


 すると、座席にいたサラリーマンが彼女達の正体を見抜いて声をかけてきた。しかし、サングラスを取り殺気だった彼女達の眼差しを見た途端、急に声を奪われてしまったかのように正面を向いていた。


 電車のアナウンスが流れ、窓の景色がゆっくりと動き出した。しばらくは気まずい沈黙が流れた。叔母と美智子さんは怒りにも悲しみにも近いような感情だった。僕はどうにか慰めようと、話しかけたりはせずにスマホでやり取りした。


『叔母さん、怪我はない?』


 通知に気づいたのだろう。叔母は僕の方をチラッと見た後、手早い指使いで動かしていた。


『大丈夫よ。智は?』

『僕も平気。でも、買った弁当を置いてきちゃった』


 すると、叔母が驚いたようなキャラクターのイラストのスタンプを送ってきた。そのあまりにも滑稽な姿に思わず噴き出しそうになった。


『ちょっと、二人でコソコソ何やってるの?』


 ここで美智子さんがやって来た。前日に三人のグループを作っておいたので、僕らのやり取りを見ていたらしい。


『駅弁、落としちゃったの?』

『はい。警備員呼ぶために』

『あ、智くんが呼んでくれたんだ! ありがとーー!』

『ありがとう! 智!』

『いえいえ、それにしても凄いファンの数だったね!』

『そうね。でも、中にはミッちゃんに触ろうとしてきた馬鹿もいたけど』


 叔母が乱暴な言葉を使う時は余程怒っている時だった。それは美智子さんも同じで『あいつ、私の脚を触ってきたのよ?!』と怒りのイラストと共に投稿された。


『でも、二人とも無事で良かった』

『まぁね。もしかしたらネットニュースになるかも』

『今のうちにマネージャーに連絡した方がいいかな』

『事を荒げたら、記者達がわんさか来るよ』

『うへー、それは嫌』

『まぁ、電話が掛かってきたらにするか』


 その呟き以降、二人のやり取りが急に大人しくなった。どうやら早くもマネージャーの方から連絡があったらしく、しばらく険しい顔をして指を素早く動かしていた。


 僕はその様子をチラチラと見ながら予め用意しておいたペットボトルのジュースを取り出して一口飲んだ。



 ようやくやり取りが終わったのか、二人とも疲れたような溜め息が出ていた。


『はぁ、帰ったら色々と面倒な事になりそうね』

『やっぱ、そっちも? たぶん事務所も色々と言わないといけないかもね』


 僕は割って入ろうか迷ったが、三人の所でやり取りしているという事は僕に見せても構わないという意味だと思うので、参入してみた。


『かなり事態が大きくなりそうですか?』

『うん。うわーー! せっかくの旅行なのにブルーだわーー!』

『まぁ、今はそういうのを忘れて旅行を楽しみましょう!』


 叔母の提案に僕も美智子さんも『賛成!』と表現したイラストを送った。



 最初はとんでもないトラブルが起きてしまったが、それ以外は問題なかった。観光客達は叔母と美智子さんを見ても声をかけようとはしなかった。もしかしたらあの騒動の映像がネットで拡散されているのかもしれない。


 なので、僕らは変な神経を使わずに楽しむ事が出来た。しかし、だからといって油断はできないため、行列が並ぶような有名な所は僕が請け負った。


 最初に食べたのは串に刺した海鮮焼とビールで、二人とも目的地に着くまでの間、飲まず食わずだったからか、夢中になって食べていた。ビールはさすがに一杯だけに留めておいて、それ以外はその土地の名物であるソーダーとかを飲んでいた。


 食べ歩きはとても楽しかった。途中、グルメロケをしているクルーがいたので慌てて路地裏に逃げたりしてやり過ごしたりと、他では味わえないようなスリルを体験した。


 グルメの他にも絶景を堪能した。が、二人とも花より団子らしくオーシャンビューが広がるカフェに行って特大のパフェを楽しんだ。


 けど、食べ過ぎたら旅館のご馳走を堪能できなくなるので、海岸を散歩したり、小さな丘の上まで登山したりした。もちろん、絶景の前で写真撮影をした。


 僕は旅行がこれほどまでに楽しいものだと思ってもみなかった。もちろん、学校では修学旅行とかはあったけど、あれとは全く違った自由気ままな旅だった。しかも愛する叔母と美智子さんも一緒にいるからなお幸福に感じた。



 時間はあっという間に感じ、もうチェックインの時間になった。旅館までは送迎してもらう事になった。もしそうでなかったら、食べ歩きでアルコールは飲まないだろう。


 優しいおばさんの運転手に乗せてもらって、山の方まで上がっていった。僕達は今日食べた海鮮焼や絶景の話で盛り上がっていた。運転手はそれを微笑みながら見守っていた。


 旅館まではそう時間はかからなかった。建物は地主が住んでそうな木造の屋敷だった。外観だけを見た限りでは老舗独特の雰囲気が漂っていたが、中を入ってみると新築かと思うくらい綺麗だった。どうやら内装をリノベーションしているらしく、トイレやお風呂も最新のものだと運転手が言っていた。


 それなのに僕達以外は客はいないらしい。いや、貸し切りにしたって言っていたから当然だと思う。


 玄関前ではすでに仲居や女将が出迎えていた。さすが老舗だけあって気持ちの良い挨拶をしてくれた。


 チラッと口コミを見てみたが、この旅館で働く従業員がどれも美女揃いみたいだ。確かに見渡す限り、モデル並みの顔立ちとスタイルを持っていた。特に女将は叔母と美智子さんにも引けを取らないぐらい胸が着物から盛り上がっていた。


 僕はその魅惑的な要素も口コミの評価が高いのだろうと思った。

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