#29 先輩からの告白
声をかけようとした瞬間、急に先輩がこっちを見てきた。一瞬覗きをした事を怒られるのではないかと肝を潰したが、秋武先輩がニヤリと笑ったかと思えば急に腕を掴まれてしまった。
「先ぱいあっ?!」
僕はなす術もなく浴室に入れられてしまった。そして、入室して数秒で僕の口内は彼女の舌に占拠されてしまった。しばらく絡め合った後、お互い口づけを止めて見つめ合った。
「はぁはぁ……好き」
僕は本能で思った事を口にした。その愛の呟きを先輩は聞き逃さなかった。
「今、なんて言ったの?」
秋武先輩はわざと僕の口から直接言うように誘導していた。僕をジッと見つめていたが、瞳奥が静かに燃えていた。僕の次に出る言葉を待ち望んでいるのがヒシヒシと伝わっていた。
「好きです……先輩の胸」
僕は叔母の顔が浮かび、一番に愛している人を裏切ってはいけないという感情が僕の浮気心を制した。すると、先輩は「そっか」と瞳が暗くなり、視線を下にした。僕は彼女が心底残念そうに思っているのが分かった。
「好きなのは胸だけ?」
「いいえ」
僕は小さく首を振った。
「先輩とデートをした時、本当に彼女になったような気がして……」
「別にごっこなんかじゃなくていいじゃん」
秋武先輩の瞳が潤んでいた。
「今、この瞬間、私の彼氏になったっていいじゃん。私もさとるくんの彼女になりたい。今すぐに。正直、卒業する前に彼氏にすればいいやと思ってた。だけど、さとるくんが転校しちゃって遠く離れちゃった時、凄く後悔した。もっと早く告白すれば良かったって。次、いつ会えるかも分からない。だから……だから、お願い。私の彼氏になって」
先輩の今の表情に揶揄いの要素はなかった。本気で本心で僕に告白しているのだ。僕の頭の中で叔母の顔が再び現れた。僕は叔母が好きだ。でも、先輩も好きだ。
僕はどうしたらいいのだろう。叔母の恋人になるのは現実的には不可能だ。でも、先輩とならできる。今日一日、今までにないくらい楽しかった。先輩と食事をした時もイルミネーションで写真を撮った時もカラオケで歌った時も――心の底から楽しいと思った。叔母とディナーに行ったり、観覧車に乗った時と同じくらいのときめきを感じていた。
今まで気づかなかったが、僕は叔母と同じくらい秋武先輩の事が好きなんだ。だから、僕の答えは――。
「僕の彼女になってください」
一切言葉を詰まらせる事なく、自分の想いを彼女にぶつけた。秋武先輩は石にでもされたかのように硬直していた。
すると、彼女の両肩が震えていた。瞳から涙がこぼれ落ちて、しゃっくりしていた。
「嬉しい」
僕らは少しの間、見つめ合った。愛の視線の混じり合いを楽しんだ後は、互いの唇を密着して艶めかしい音を立たせた。




