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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
27/55

#27 愉しい先輩とのデート

 このままベッドインするのではないかと思うくらい甘い雰囲気が流れたタイミングで、ピザが来た。僕は内心ホッとしながらピザを一切れ食べた。


「う、うんっ! 美味しいっ! 先輩も食べてください!」


 僕はそう促すと、秋武(あむ)先輩は「うん。そうだね」と若干残念そうな顔をした後、ピザに蜂蜜をかけた。


「さとるくん、あ~ん!」


 すると、いきなり一切れを僕に向けて来たのだ。ドギマギしてしまったが、蜂蜜のピザも食べてみたかった(というのを言い訳に)ので、一口いただくことにした。


「……うまっ!」

「ほんと? どれどれ……」


 秋武(あむ)先輩は僕が食べた所と同じ位置に口を付けた。これはまさに間接キス――いや、あまり考えないでおこう。それとは関係なしにここのピザは美味しかった。先輩の顔も幸せで満たされていた。


「うぅ〜ん♡ 最高♡ さとるくんのも欲しいなぁ〜?」


 先輩は僕の食べかけのピザに視線を注いでいた。目には目を間接キスには間接キスを――もう周りの目も気にせずに差し出した。


「先輩、あーん」

「あぁ〜む♡」


 彼女は嬉しそうに一口頬張ると、ハムスターみたいにモゴモゴさせながら両眼を見開いた。


「美味しいですか?」


 僕が味の感想を聞くと、先輩は親指を立てた。その所作が一瞬だけど可愛らしく思った。



 心ゆくまでディナーを堪能した僕達はイルミネーションが綺麗な並木通りを歩いていた。カップルや外国人観光客などが思い出に残そうとベストポジションを探していた。


「私達も撮ろう!」


 秋武(あむ)先輩は白い息を吐いて僕に抱き寄せた。いつの間にかスマホを前に出していた。


「はい、いくよーー! 笑って!」

「あ、は、うん……」


 僕は先輩とかなり密着しているからか、ドキドキしていた。キャラメルとチーズの香りが僕の脳内をさらに沸騰させた。パシャッと物静かなシャッター音は周りの喧騒にかき消されていて、撮影が終わった事に気づかなかった。


「どれどれ……おぉ、いい感じに撮れてるじゃん! どう?」


 秋武(あむ)先輩は嬉々とした表情を浮かべて僕にスマホの画面を見せてきた。覗き込むと、先輩の寒さで頬と鼻が赤くなっている顔と僕の緊張で顔が強張っているツーショットが写っていた。


「う、うん、いいんじゃないですか?」

「んん〜? その反応だと、いまいちって事だよね? じゃあ、もう一回!」

「え? ちょっと!」


 僕の承諾も得ずに先輩は再び僕を近づけさせた。今度はさらに密着していて、コート越しであるにも関わらず、彼女の温もりを感じていた。


「はい、笑ってーー!」

「あ、アハハハ……」


 緊張がさらに割増になり、ぎこちない笑顔で撮られてしまった。先輩が再び写真の出来を確認すると、「まぁこれでいっかな。待ち受けにしよーー!」とスマホを弄った。


「じゃあ、次はカラオケにでも行く?」

「いいですね! 僕、初めて行きます!」

「え? そうなの? 叔母さんとは来ない?」

「うーん、忙しいので……」

「そっか。じゃあ、今日はさとるくんのカラオケデビューだ! いいね、いいねぇ!」


 秋武(あむ)先輩の幸福に満ちた顔と喋る度に出る雪のように白い息を見ていると、ふと叔母が出ていたドラマでこういうシチュエーションがあった事を思い出した。あと、美智子さんのも。


 二人は仲良くやっているのだろうか。電源を落としたからどれくらい通知が届いているか不安だった。でも、今はあまり深く考えず、目の前にいる先輩とのデートを楽しむ事にした。



 偏見だけど、カラオケというものはクラスの一軍や二軍達が集ってどんちゃん騒ぎするものだと思っていた。なので、僕みたいな根暗ボッチには相応しくない――いや、それどころか忌避(きひ)していた。


 しかし、今は秋武(あむ)先輩と一緒なので胸を張って入店する事ができる。先輩は普段から利用しているのか、慣れた様子で歌う時間などを決めていた。


 僕は先輩に付いていくがまま個室に入った。大体想像通りの見た目だった。


「よっしゃーーー! 何歌う?」


 秋武(あむ)先輩はコートを長めのソファの上に投げ棄てると、デンモクを操作していた。僕はつい先輩のセーターの山なりに目が行ってしまい、心臓がドラムを叩いていた。


「さとるくんは何歌う?」

「い、いえ、僕はその……音痴なんで」

「えー、そうなの? でも、私だけしかいないから歌ってもいいじゃん」

「え、でも……」

「私、音痴でも全然平気だから」


 先輩が真面目な口調で言われたら、歌わない訳にはいかなくなった。取り敢えず、童謡を選んで歌ってみると、先輩が腹を抱えていた。


「ちょっと! 笑わないって……」

「いやいや、ふふふ、ちが、違うの! だって、あはは……さ、さとるくんが歌うとさ……小学校の音楽の発表会みたいで……」

「……絶対に馬鹿にしてるでしょ」


 僕は少し顔をしかめると、どこにツボが入ったのか、ソファに倒れ込むほど笑っていた。抱腹絶倒の彼女を見ていると、トゲトゲとした気持ちは次第に和らいでいき、僕も釣られて笑ってしまった。


 心の底から楽しい――そう思った。



 二時間ぐらい歌ったり飲んだり騒いだりして楽しい一時を過ごした後、外に出た。


「いやーー、めっちゃ歌ったね!」

「先輩も思ったよりも上手でしたね」

「えー? もしかして下手っぴだと思ってたの?」

「いえいえ、そういう訳では……」

「アハハ、なら、いいけど」


 秋武(あむ)先輩は急に僕の腕を組んできた。


「寄りたい所があるんだけど……いい?」


 彼女は囁くように呟いた。その声は僕の理性を惑わし、怪しい妄想を膨らませた。この時間帯に立ち寄る所は一体どこなのか――好奇心が勝り、「いいですよ」と自然と口が動いていた。


「ほんと?! じゃあ、ラブホへレッツゴーー!!」


 あまりにもデリカシーのない誘導に僕は転げ落ちそうになった。 

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