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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
26/55

#26 先輩と二度目のデート

 僕は秋武(あむ)先輩を選んだ。もしどちらかを断って後々バレたら面倒な事になりそうだからだ。


 けど、それだけじゃない。僕は二人の仲を取り戻すためにある作戦を思いついた。美智子さんと叔母に食事の誘いを応じるフリをして、二人を同じ場所で待ち合わせをする。もちろん、時間帯も同時刻にして。そうすれば、必然的に二人は鉢合わせする事になる。


(我ながら良い作戦だな)


 僕はそう思って駅前の広場(叔母と美智子さんと約束した所とは違う駅)で先輩が来るのを待っていると、早速二人から連絡が来た。


美智子『どうなってるの?! マナちゃんがいるんだけど!』

叔母『どういう事なの、悟?』


 僕は二人に事の経緯を説明した後、『仲良く楽しんで』と添えてスマホの電源を切った。


(さて、この作戦が吉とでるか凶と出るか……)


 出来れば仲良くなって欲しいと思うが、そう簡単にうまくいくのかも分からない。もしかしたら余計に仲が悪くなったかもしれないし、あるいはお互い何も喋らずに帰ったかもしれない。


 もしそういう展開になってしまったら僕は家に帰ったらこっぴどく叱られるだろう。叔母の鬼のような顔を想像して震えていると、懐かしい声が聞こえてきた。


「さとるくぅ〜〜〜ん!!!」


 秋武(あむ)先輩と対面するなり、挨拶もまともにしないまま抱きつかれてしまった。


「ちょっ、ちょっと! 急に苦しっ!」

「んん〜〜♡ いいじゃないか〜! 久しぶりの再会だからこんな事しても〜〜!」

「い、いや、そういう事じゃなくてですね……」


 僕は周りの視線が気になって仕方なかった。帰宅ラッシュの時間帯だからか、サラリーマンや家族連れなどがゾロゾロと駅の方に歩いている。僕らの光景に視線だけ送っているのもいれば、微笑ましく見る者、あとは憎しみが込められた眼差しで睨みつける者もいた。


 それに先輩が羽織っているフワフワのコートから漂うキャラメルみたいな甘い香りが僕の神経を高ぶらせていった。


「せ、先輩っ! 早くしないと! 予約の時間、迫っていますよ!」


 僕がそう言うと、秋武(あむ)先輩は「だね。寒いしイチャイチャは中に入ってからもできるよね♡」と瞳を妖しく光らせた。


「残念ですが、個室ではなく普通のテーブル席にしてあります」

「えーー?! なんで?!」

「個室にしたら良からぬ事をするでしょ」

「えー、まぁ、うん……」

「やっぱり」


 先輩はしょげていたが、急に何か思いついたように顔を上げた。


「まぁ、いいや。案内して、さとるくん」


 立ち直るのが早いなと内心思いながら予約したお店に向かう事にした。



 僕が予約した場所は美味しいイタリアンのお店だった。内装も余計な飾りのないシンプルな色合いで、落ち着いた空間だった。すでにほぼ満席状態で、客層は女性やカップルが多い中、不自然にカウンターの二席だけ空いていた。


 ウェイターが僕らを席まで案内してくれた。メニューを差し出すと、今日の日替わりのピザを教えた後、スマホのQRコードで注文するようにと説明して去っていった。


 カウンターの前ではシェフがピザの生地を伸ばしたりトマトソースを塗ったりしていた。そして、熱々の窯から香ばしいピザが出てきた。入り口に入った瞬間からチーズ良い香りがしてきたが、キッチンの近くだとより一層香ってきて、たちまち僕の腹が訴えてきた。


「うーん、良い香り……確かに個室だとこの絶景と匂いは堪能できないわね」


 秋武(あむ)先輩はそう言ってコートを脱いだ。着ていて気づかなかったが、彼女は白のセーターを着ていた。当然プロポーションの良さを強調させるかのように山なりが僕の瞳を捉えて離さなかったが、すぐにメニューに視線を戻して理性を保たせた。


「ふふふ……なに食べよっかな〜?」


 先輩は僕の視線に気づいたのか、艶っぽく笑った後、QRを読み取ってスマホを(いじ)った。


「ここはセットがお得なんだね」

「はい。夜だとピザ二枚とサラダとデザートとドリンクが付くんです」

「二枚も?! 食べれるかな」

「口コミだと、そんなに大きくなくてペロッと食べれちゃうそうでうですよ」

「ふーん、じゃあ、大丈夫かな……おっ、クワトロフォルマッジあるじゃん。これにしよっ〜! さとるくんは?」

「僕は……王道のマルゲリータにします」

「いいね、いいね! 二枚目は……うーん、カニクリームピザかな」

「僕はコーンクリームで」

「おっけ。飲み物は何にする?」

「オレンジジュース!」

「アハハ、さとるくんらしい。じゃあ、ピンクグレープフルーツにしよっ!」


 そんな会話をしながら注文を取った。先に飲み物が来たので、互いの再会を祝して乾杯した。料理を待っている間、お互いの近況を話す事にした。


「新しい場所、どう? 仲の良い友達とかできた?」

「うーん、あんまり」

「そっか……さすがに私みたいなナイスバディな子はいないだろ〜? 後輩くぅ〜ん?」


 先輩は片手を頭の後ろに回して胸を張るという古き良きグラビアのポーズで僕にアピールしてきた。僕はオレンジジュースを一口呑んでから、「確かにそうですね」と返した。


「彼女とかはできたの?」

「いいえ、できる訳ないじゃないですか」

「へぇ、そっか。彼女いないのか。へぇ、へぇ、ふーん……」


 秋武(あむ)先輩は嬉しそうに口角を上げていた。


「先輩の方はどうなんですか?」

「彼氏? できるわけないじゃない」


 先輩は両手で振ってジュースを一口呑んだ。


「どうしてですか? 先輩でしたら簡単に……」

「はぁ、分かってなぁ、後輩くぅ〜ん」


 秋武(あむ)先輩は溜め息を吐いたかと思うと、急にグイッと顔を近づけた。公衆の面前でキスでもするのかと緊張がはしったが、そのまま僕を見つめるように言った。


「彼氏にするはずだった子が転校しちゃったからだよ」


 先輩は艶っぽい声で僕に吹きかけた後、花魁(おいらん)が日本酒をあおるようにジュースに喉を潤していた。僕は先輩の意中の相手が自分だと気づくのはそう遅くはなかった。

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