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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
21/55

#21 先生の許されない趣味

「な、ななな何を言っているんだ!」


 山岸先生は明らかに動揺していた。


下山(しもやま)は生徒の一人であって決してそういう感情を抱いている訳ではない」

「ほんとかな〜?」


 秋武(あむ)先輩は大袈裟に首を傾げていた。


「じゃあ、なんで一緒に登校してたんですか〜?」

「それは下山が無事に学校まで行けるように私が……」

「それだけですか?」


 先輩は何か掴んでいるのか、山岸先生の理由を跳ね除けるように問い詰めていた。これには先生も続けようとしていた言葉を飲み込み、ジッと見つめていた。長いようで短い沈黙が流れ、木枯らしが吹いたかと思うと、秋武(あむ)先輩が口を開いた。


「私、知ってるんですよ。あなたの趣味」


 この言葉にどういう真意が含まれているのか分からなかったが、先生の心に深い衝撃を与えるほどだったようで、彼女の両眼が振り子時計のようにあっちこっちに揺れていた。


「なっ、はぁ……うっ……どういう事だ?」

「それはあなたの心がよく知っている事じゃないですか?」

「し、知らない! 分からない!」

「そうですか……じゃあ、ハッキリと言っておきます」


 知らぬ存ぜぬの一点張りの教師に腹が立ったのか、秋武(あむ)先輩の語気が強くなった。


「先生……体育時間にこっそりさとるくんの私物の匂いでマスターベーションしていますよね」


 この発言に先生だけではなく僕も動揺してしまった。つい手に持っていたお弁当を落としてしまった。その物音が向こうまで聞こえてしまったのか、二人とも僕の方を見ていた。


「さ、さとるくん?!」

「下山……」


 まさかのご本人登場に驚愕する二人だったが、僕は慌てて落ちたもの回収すると急いでこの場から離れた。


「待って! 待ってくれ!」


 山岸先生は僕を呼び止めようとしていたが、そんな声を振り切るように走った。



 お昼ご飯をまともに食べられないまま五時間目を迎えてしまった。授業中は上の空だった。秋武(あむ)先輩の言葉が脳裏にくっついて離れなかったからだ。


 山岸先生がまさか僕の事をそう思っていたなんて。それも好意的よりもさらに過激な性的な眼差しで。一歩間違えれば教育委員会で訴えられそうなレベルだ。


 でも、どうして僕なんかに。他にもイケメンやマッチョなど、女子達が黄色い声を上げる生徒はたくさんいる。なのに僕を好きなんて――この瞬間、僕の脳内である恐ろしい仮定が生まれた。だが、すぐに否定した。そして、自分を責めた。


 その心の(わだかま)りが抜き取る事ができないまま終礼になった。山岸先生は普段通りの表情で明日の連絡をしていたが、僕とは一切目を合わさなかった。


 終礼が終わると、僕は急いで帰り支度をした。鞄を持って教室を飛び出そうとした時、山岸先生に呼び止められてしまった。


「下山、少し話がしたいんだけどいいか?」

「……すみません。今日は大事な用事があるので失礼します」


 もちろん、そんな急用はないのだが、今は先生と二人きりで話したくはなかった。山岸先生は「五分だけなんだ。いいだろ?」と引き留めようとしていたが、僕は「失礼します!」と逃げるように帰った。


 僕は何かから追われているかのように全力で駆けて行った。もうすぐ正門を潜り抜けると思った。


「さとるくん!」


 背後から急に呼び止められ、僕はその甲高い声に足が止まってしまった。ゆっくり振り返ると、秋武(あむ)先輩が僕を見ていた。その眼差しはいつもの揶揄うような表情とは違い、保護者的な眼差しだった。


「大丈夫? 何か……あったの?」


 先輩がそう尋ねた瞬間に僕の緊張が一気に解けて、「話を聞いてくれますか?」と声を上ずらせながら言っていた。



 僕と秋武(あむ)先輩は横並びで歩いた。自分から話をすると切り出したはいいものの内容が内容だけに緊張のせいか、うまく舌がまわらなかった。


 しかし、それを代弁するかのように先輩が「昼休みの時の話をしたいんでしょ?」と切り出してくれた。


「……はい」


 僕は静かに頷いた。すると、先輩は「そっか」とだけ返した。また沈黙が続き、僕が住むマンションまでやってきた。


「ドアの前まで見送らせて」


 秋武(あむ)先輩がそう言うので、僕は「いいですよ」と頷いた。そのまま流れるようにエレベーターに入りボタンを押す。何度も入っているからか、だいぶ緊張はしなくなった。


「大丈夫?」

「はい、平気です」


 そんな短い会話の後、エレベーターのドアが閉まり、上昇した。


「さっきの話の続きなんだけどさ……」


 いきなり秋武(あむ)先輩が話し始めた。狭い箱の中に緊張感が漂った。


「……山岸先生が僕の事を……その……好きってことですよね」

「うん。あと、さとるくんの私物を性愛玩具にしていたことも」


 かなりセンシティブな言葉が出たので、僕は次に出る言葉を押し込まれそうになった。が、降りる階に着くまでに話をつけたいなと思っていたので、黙っている暇はなかった。


「それは本当ですか?」

「うん、証拠もあるよ。写真だけど……見る?」

「……お願いします」


 口の中が乾いているからかうまく言えなかったが、先輩はすぐにスマホを取り出して弄っていた。


「ほら、これ」


 秋武(あむ)先輩が見せていたのは、誰もいない教室だった。机の上に着替えがある事から、僕らは体育の授業をしているのだろう。その中に山岸先生がいた。僕の隣の席で僕の学生服に臭いを嗅ぎながら股を弄っている様子がありありと写し出されていた。

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