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叔母ラヴァー  作者: 黒風月
さとる編
12/55

#12 高校の先輩と遭遇

 大通りに出て駅前のショッピングモールを目指した。普段は人が多すぎて嫌になるくらい鬱陶しい人混みだけど今日ほど心強く感じることはなかった。


 ふとスマホの画面を見てみると、叔母から何件もの着信が来ていた。急いで通話のボタンを押して連絡した。


「もしも……」

『さ、智?! どうしたの?! 大丈夫なの?! 何があったの?!』


 鼓膜が破れそうなくらい叔母の鬼気迫る声が脳内に響いた。僕は歩きながら事情を説明すると、『今どこにいるの?』と聞いてきた。


「駅前のショッピングモールに向かっているところ。そこの方が安全かなって」

『そうね。確かに……警察には私の方から連絡するから、智はそこで待ってて。私もすぐに向かうから』

「うん、ありがとう」


 僕は通話を切って、急いで駅前の大通りを走った。念のため振り返ってみると、赤髪の女性の姿はどこにもいなかった。けど、油断せずに警戒しながら歩いていった。



 ショッピングモールに着いて、ようやく一息つく事ができた。休日だからか、大勢のカップルやファミリーなどが楽しそうに歩いていた。


 すぐに叔母に着いた事を報告すると、向こうも着き次第連絡すると返してきた。


(取り敢えず、なるべく人が多い所にいながら叔母が来るのを待つか)


 僕はそう思いながら館内をグルッと回る事にした。もちろん、周囲の警戒を怠る事はしなかった。相手は神出鬼没だ。いきなり目の前に現れるかもしれない。


 それにしても、彼女は一体何者だろうか。叔母のストーカーだったら芸能人だし居てもおかしくないと思うのだが、あの女性は明らかに僕を狙っていた。


 でも、どうして? 何のために。


 そういえば、彼女は『独りぼっちで寂しいよね? ママが慰めてあげる』ような事を言っていた。もしかして僕の事を『子供』だと思っているのか。だとしても、どうやってあのマンションのセキュリティを突破したんだ。


 元々ここに住んでいるのかな。でも、今まであんな人、見た事ないし……。ふとコンビニの帰りに誰かの視線を感じた事を思い出した。


 もしかしてあの時僕を発見して付けてきたのかな。そして、僕がエントランスのドアを開けて閉まり切る前にこっそり中に入って……なんて事もあり得るかもしれない。


 あぁ、まさかこんなホラー映画みたいな経験をするとは思わなかった。映像を見ている時よりも何十倍も怖く感じた。


 そんな事を考えながら通りにあった輸入品専門店のお店の香りが僕の心を落ち着かせてくれた。自然と足は店内に向かれ、無料で飲める紅茶を片手にお菓子を物色していた――その時だった。


「さとるくぅ〜〜ん?」


 里芋みたいにねっとりとした声が背後から聞こえてきた。ゆっくり振り返ると、ポニーテールの赤髪の女性が立っていた。


「うわぁああああ!!!」


 僕は声を上げた瞬間、無意識にその人物に紅茶をかけてしまった。


「あっつ?! ちょっと、いきなり何すんのよ?!」


 その女性はハンカチを手に取ってワンピースにかかった紅茶を拭き取っていた。


「あー、もうっ! お気に入りの服が台無しじゃない! どうしてくれるの?!」


 ここでようやく現状を飲み込む事ができた。どうやら僕は人違いをしてしまったみたいだ。それによく見たら、赤髪の女性ではなく、赤いシュシュを付けたポニーテールの女子だった。


 白のワンピースの胸の異常な膨らみ具合から、彼女は僕の一つ上の先輩である山手秋武(やまて あむ)だと分かった。


秋武(あむ)先輩……?」

「そうよ! ねぇ、これ、どうしてくれるの?!」


 先輩は眉毛を釣り上がらせていた。完全に激怒していたので、僕は「弁償するので許してください!」と頭を下げた。


「いいよ♡ 早速デートだ、後輩くん!」


 急に態度を急変させて腕を組んだかと思えば、やたら胸を押し付けて歩き出した。


 僕は叔母と待ち合わせをしないといけなかったが、一人でいるよりは安全だから別にいいかと納得した。



「じゃーーん! どう?」


 秋武(あむ)先輩はグラビアアイドルがやりそうなポーズで試着している服を見せてきた。


 驚くほど大胆に空いた胸元に視線が行ってしまいそうだったが、彼女のハニートラップである事は前から知っていたので、顔を集中して見ながら「もう少し露出を控えた方がいいと思います」と冷静にアドバイスした。


「えー、男の人はこういうのが好きなんじゃないの?」

「全てが好きと思ったら大間違いですよ」

「さとるくんは好き?」

「うーん……」


 一瞬叔母や美智子さんが秋武(あむ)先輩と同じ格好している光景が頭に浮かんだが、すぐに首を振って「ぜ、全然っ!」と否定した。


「そっか。じゃあ、他のにするね……」

 

 秋武(あむ)先輩は残念そうな顔をしてカーテンを閉めた。


「あの、先輩」

「なぁ〜に?」

「今日はどうしてここに?」

「妹のプレゼントを買いにぃ〜!」

「あぁ、確か一個下にいましたっけ。誕生日なんですか?」

「いや、違うよ。最近、元気がなくてさ……お姉ちゃんとして何か力になれないかなと思ってさ……」


 へぇ、性に奔放(ほんぽう)だけじゃなくて、妹思いな一面もあるのか。だから、生徒会の副会長を任されているのだろう。彼女の仕事ぶりも書記の僕から見てもかなり出来ていると思う。


「さとるくんは今日は何しに来たの〜?」

「え? えーと、僕も買い物しに……」

「ふーん、そっか」


 秋武(あむ)先輩はそう言ってカーテンを開けた。ピンクを基調とした可愛らしい丈の長いスカートだった。


「じゃあ、次は何か食べに行こっか」

「え?」

「美味しいケーキがあるんだよね〜! 行こいこっ!」


 先輩はそう言って店員を呼ぶと、試着した状態でお会計を済ませた。


「あ、あれ? ここは僕が……」

「いいの、いいの! さとるくんにはカフェでおごってもらうから!」


 彼女はウインクして僕の手を引いた。

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