32曲目
-S〇GA本社-裏口-
社員用入口の前で待ち合わせをする事になった俺は、免許取り立ての悠也の車(親の)にパソコンを載せて向かった。無茶なお願いをしたにもかかわらず、相変わらず何も聞かずに協力してくれた悠也には頭が上がらない。裏口に着くと、小春と隼人が待っていた。悠也は去り際に一言「何か分かったら教えろよ」とだけ残した。俺に気付いた小春は、小柄な体を精一杯揺らしながら手を振っている。その隣では隼人が腕を組み、足踏みをしながら睨みつけていた。
「あ、神城さん!こっちです」
「ったく、テメーはいっつも遅えんだよ」
「悪い、積み込みに手間取った」
「早くしろ!こんなとこ司さんにでも見付かったらなんて言われるか分かんねーぞ」
「さ、早く行きましょう」
用意してあった台車にパソコンを積み、そそくさとエレベーターへ運び込む。
「とりあえずは、大丈夫みたいだな」
「まさか、内緒にしてるのか? 」
「ったりめーだろ! あの後すぐ第零は解体されてんだ。お前はもう部外者なんだよ」
「神城さん、IDは持ってきましたか? 」
「ああ、一応持ってきたが、部外者である俺のIDなんて使えるのか? 」
「多分、大丈夫だと思います。私達のIDは第零が解体された時に失効しましたが、神代さんのIDはまだ使えると思います」
「どうして?」
「それは__ 」
「説明するより実際使って見た方がはえーだろ。ほら着いたぞ、さっさとかざしてみやがれ」
第零研究室の前へと着き、言われるがままカードをかざす。するとなんの問題もなくロックは解除された。中は特に変わった様子もなく、実験台の上にはライブでミクが入っていたボディが置いてあった。
「これって」
「こいつは武道館で使われてたアイツのオリジナルのボディだ」
「複製体の6体は社長の命令で全て破棄されたが、コイツはまだ残しておけって言われてな」
「父さんの?! 」
小春は持ってきたパソコンと研究室の機材を接続しながら語る。
「社長が、『必要ならば息子を頼れ』って」
「どうして…… 」
「っよし、接続完了!立ち上げますね」
そう言って小春は俺のパソコンの電源を入れた。間もなくして聞き慣れた起動音と共に、接続された巨大スクリーンにミクの部屋が映し出される。ミクが消えた後、何度も確認した画面だ。
「それで、これを俺に見せて一体何を確認したいんだい? 」
しばらく画面を見つめた後、小春が小さく呟く。
「……やっぱり」
「分かるように説明してくれ」
すると今度は研究室内のパソコンを立ち上げ、スクリーンを2分割にしてミクの部屋を表示した。一見両方とも全く同じ画面に見える。
「こっちは、私達が複製した神城さんのパソコンのデータです」
「バックアップした際のデータの容量、書き込まれたログなど、コンマ数バイトまで全く同じです。違いが分かりますか? 」
俺は目を凝らし、二つの画面を隅々まで見比べた。さながら間違い探しの様に。すると、一つの違いに気付く。
「あっ!ここ! 」
そう言ってミクのベッドを指差した。めくれ返った掛け布団に、脱ぎっぱなしのミクのパジャマと、締め忘れたネクタイが俺のパソコンの画面には表示されている。だが、バックアップを取ったパソコンにはネクタイだけが表示されていない。
「そうなんです。私も最初は見間違いかと思ったのですが、ライブの映像を見返すと、確かにミクちゃんはネクタイをしていなかったんです」
「それは俺もよく覚えてる。あいつ寝坊して相当焦ってたからな」
「で、だ。本題は、そのネクタイはお前がアイツにプレゼントでもしてやったのかって事だ」
「いや、あのネクタイはミクが元々着けていた物で__ 」
「やっぱり!! 」
「どうゆう事だ? 」
「と言うことは、神城さんはミクちゃんのアバターデータには何も手をつけていないって事ですよね。つまり、神城さんのパソコンに今も表示されているあのネクタイは、元々ミクちゃんのデータの一部って事です」
「!!! 」
「ここからは仮説ですが、もしミクちゃんのデータが完全に消失してしまったのなら、あのネクタイも一緒に消失するはずです」
「だから、ミクちゃんは消えてしまったのではなく、何処かへ転送され、その転送先でまだ生きているかもしれない」
「あのネクタイが存在する限り、ミクちゃんは何処かで今も存在し続けているかもしれないんです」
「一体何処へ? 」
「それを知るために、あのネクタイの解析が必要なんです」
「だが、あのネクタイのデータは何処にも存在しねえ。にわかにゃあ信じられねぇがな」
「どうにかしてあのネクタイをデータ化出来れば…… 」
「あのネクタイがデータ化出来れば、ミクを探す事が出来るか? 」
「確信はありませんが…… 」
俺は、暫く考えた後一つの結論にたどり着いた。
「わかった。俺が取りに行く」
「え? 」
「は? 」
「テメェ正気か?! パソコンの中のデータだぞ? 一体どうやって取ってくるってんだよ」
「フルダイブ型VR…… 」
「まさか!? VRMMOとかで使われているあの技術ですか? 」
「そうだ」
「ムリですよ!あれはゲームだからサーバーで守られいるんです。普通のパソコンにダイブするなんて聞いた事もない!危険すぎます!! 」
「そうだぜ、それにそんな技術、開発に今後10年はかかるぜ」
「ダイブギア…… 」
「おまっ…… どうしてそれを知ってる!? 」
「あれは社外秘のはずですよ! 」
「この会社が秘密裏に研究しているシステムですよね。あれを俺が完成させます」
「へっ簡単に言いやがる」
「きっと父さんは、俺がミクを探すのを見越してこの研究室の使用権を残してくれたんだ」
「これから勉強して、この研究室でフルダイブの技術を研究する。例え何年かかっても、必ず真相を見つけ出す! 」
「いつまでもそのネクタイが存在してるとは思わねーこった。明日にでも消えちまうかもしれないんだぜ? 」
「そうですよ!もっと別の方法もあるかもしれないじゃあないですか」
「じゃあ二人は別の方法を探してくれ」
「それに!いざダイブしてみても、触れる事も出来ないかもしれない、触れた瞬間に消えてしまうかもしれないんですよ?! 」
「行ったっきり帰って来れなくなるかもしれねーんだぜ? 」
「俺は前にミクと約束したんだ。ミクが居なくなっても、必ず探し出すって。もしかすると、あれはミクの残したメッセージかもしれない」
「例えどんなに薄くても、目の前にミクに繋がる手掛かりがあるんだ!こんなもの見せられて、はいそうですかって諦め切れる訳ないじゃあないか。誰に止められようと、俺はやるよ」
固い決意を表した俺に、遂に二人は折れた。
「コイツはこうなったら聞かねーからな」
「私達も事の真相を知りたいですし」
「小春ちゃん、隼人…… 」
「勘違いすんなよ!俺達はな、プログラマーとしてこの現象を解明したいだけだ。その先でテメェに何かあったとしても知ったこっちゃねーからな」
「二人とも、ありがとう」
こうして、俺達3人で始まった研究は『裏39計画』として、第零研究室で秘密裏に行われていくこととなる。




