31曲目
-数日後-
あの日のライブは世界中に衝撃を与え、様々な記録を打ち立て、塗り替えた。
日本全国7箇所同時ライブの動員数は歴代のアーティストの中でも断トツでトップを取り、その日の興行収入は、世界でも歴代10位に入るほどだった。(チートみたいなもんだが)
また、PPVの同時接続数でも過去最大となり、ギネス記録に認定された。文字通り、ミクの名は歴史に刻まれたのだ。
そして、ミクが最後に歌った曲は、誰が付けたか『消失』というタイトルで切り抜かれ、その再生数は今なお伸び続けている。
あの日以降、新たなボカロPは出てこなくなった。皆分かっているのだろう、どんなにいい曲を作っても、ミクには勝てないと。既存のボカロP達は次々と活動を辞めていき、遂にはMステのランキングから神曲P以外のボカロPの名前は消えた。
ライブの最後にステージ上に飛び出してしまった俺は、てっきり正体がバレて学校や親父の会社に迷惑がかかるのではと危惧したが、ライブの映像に俺の姿は写っておらず、会場にいた人達にも何も見えていなかったらしい。どうやらあの瞬間、咄嗟にミクが映像やゴーグルに加工を施してくれたのだろう。全く、最後まで俺の事気にかけやがって……
逆に初音はあのライブをきっかけに一気にブレイクし、ミクの意志を継いで歌い手として活動をし始めた。
ミクの入っていたボディと俺のパソコンは第零研究室へ運び込まれ、小春と隼人がデータの痕跡を徹底的に調べているが、中身はまるで最初から何も入ってなかったかのように真っさらだという。小春はずっと「ありえないっ!」を連呼して隼人に怒られているらしい。
俺はと言うと、流石にミクを失ったショックから暫くは部屋から出れなかった。でも、ミクと約束したんだ。だから、これからはちゃんと学校へ行き、人と関わりながら生きて行こう、と。
-2024年-4月8日-am7:00-
「朝だよー起きてーマスター! 起きないと遅刻しちゃうぞー!! 」
俺はその声に驚き、ベッドから転げ落ちた。
第零で隅々まで調べ尽くされたオンボロPCは、やっぱり家に持って帰りたかったので、持ち帰ろうとするのを必死にしがみついて離さない小春から引き剥がし、俺の部屋まで持って帰ってきてたのだが、そのパソコンからの音声だった。俺は寝ぼけ眼で這いつくばりながらデスクまで行き、パソコンのスクリーンセーバーを解き、肩を落とす。
「……そんな訳ないよな。ったくタチの悪いイタズラ仕掛けやがって」
「……そっか、今日から新学期だったよな。分かってるよ、お前との約束、守らないとな」
それは、ミクが残した「がんばれ」と言うメッセージの様に俺の背中を押した。
高校3年になり、皆が次々と進路を決めていく中、俺はまだ将来の進路を決めかねていた。担任に呼び出された俺は、進路指導室で話をする事になった。
「うちのクラスで進路が決まってないのは後はお前だけだぞ」
「お前は将来何がしたい?」
「将来…… ですか」
「……すまないが、お前の事少し調べさせてもらったよ」
「!!!」
「中学の頃まではお前には立派な夢があったらしいじゃないか」
「誰がそんなことっ…… 」
「別に恥じることじゃない。夢を持つ事は素晴らしい事だ」
「音楽関係の学校も紹介してやれる。どうだ、やってみる気はないか?」
「僕は、もう音楽には…… 」
「ボーカロイド?とやらのブームも終わりつつある。これからはまた人間のアーティスト達の時代がくるだろう」
「歌がダメでも作曲とか、何か楽器をやるのもいい。今からでも遅くは____ 」
「もう少しだけ、考えさせてください」
今の俺はミクなしで音楽をやっていく気にはなれない。なんて言える訳もなく、逃げるように、話の途中で席を立った。教室を出ると、廊下で悠也と初音が待っていた。
「お、早かったな。どうだった? 」
「悠麻くん、進路は決まった? 」
「それが、まだ…… 」
「まあ焦んなくてもいいさ。ゆっくり考えてけ」
「ああ。……!!というかお前、担任に俺の過去の事しゃべったな!? 」
「ん?ダメだっかたか? 」
「別に止めてはいないが、人のプライバシーをペラペラと話すのは感心しないな」
「悪かったって」
「さっ帰りましょ」
「っ!わりい俺教室に忘れ物したわ!先帰っててくれ」
そう言い残し、悠也は教室へと走っていった。
初音と二人での帰り道、ちょっと気まづい空気の中、初音が口を開いた。
「ねえ、悠麻君」
「なんだ」
「私ね、卒業したら歌い手として活動していく事にしたの」
「大学には進まないのか? 」
「うん」
「私、ミクちゃんに託されたんだ。『次はアナタ達だ』って」
「これから、人間の時代が来る。その時に、恥ずかしくないような歌を歌いたい」
「でもね、私一人じゃ不安なの」
「だから悠麻君!私の、プロデューサーになって! 」
「え?俺が……か? 」
「まだ進路に迷ってるんでしょ? 」
「そうだけど…… 俺はもう、音楽は…… 」
「私、悠麻君の作る曲が歌いたい。ミクちゃんだってきっとそれを望んでる!」
「あなたの作る曲は、例えボカロの時代が終わっても皆の記憶に残っていくわ」
「少し…… 考えさせてくれ」
「分かったわ」
そう言って初音と別れ、一人家路に着く。帰り道、いつもならスマホの中のミクと他愛もない話をしながら帰っていた。しかし、スマホを覗いてももうミクの姿はない。ぼーっとスマホを眺めながら歩いていると突然、知らない番号から電話がかかってきた。
「うわっ!!」
「知らない番号…… 誰だろう。もしもし」
『もしもし!神城悠麻さんですか? 』
「その声!! 小春ちゃん?! 」
「お久しぶりです」
「どうした? 」
「率直にいいます。ミクちゃんの入っていたパソコンを持って第零研究室まで来てください! 」
「どうして? 」
「確認したい事があるんです」
「今更何を確認するって言うんだ。散々調べ尽くした挙句、ミクはもう居ないって結論に至ったじゃあないか」
「それに、俺はもうミク無しで____ 」
「もし、ミクちゃんがまだ生きてるとしたら? 」
「!!!」
「どうゆう…… 事だ? 」
「それを確認する為に、あなたのパソコンがもう一度必要なんです」
「わたしやっぱり諦めきれないんです。あの日のミクちゃんの消失には不可解な点がありました。その謎を解くためにも、神城さん、あなたの力が必要なんです」
電話を切った後、家に帰りながら俺は悩んだ。俺はもう、ミクに頼らないで生きていくって決めんだ。そう決めたはずなのに。そんな事言われたら、希望を持っちまうじゃないかよ…… でも、
『もう一度、ミクに会いたい』
その気持ちに負け、俺はパソコンを持って再びS〇GA本社へと出向く。




