33曲目
『ミクが生きているかもしれない』
確証なんて全くない。でも、僅かでも可能性があるのなら、その為に時間を費やす事を俺は躊躇わない。俺はミクに救われた。今度は俺が救う番だ。
「初音、すまない。君のPをするのは、もう少し待ってくれないか」
「…… 悠麻くんならそう言うと思ったわ」
「ミクちゃん、見つかるといいね」
「ああ、必ず見つけ出すさ」
「頑張って…… 」
進む道が決まった俺は、担任に進路希望を提出し、それに向けて猛勉強をした。初音は卒業後歌い手として、悠也は親父さんのコネで警察学校へ行く。俺は、専門学校へ通いながら、親父の第零でフルダイブ技術の研究を続けた。そして……
-3年後-
『今週のMステーションはなんと地上波初登場!! 初音未来さんです!歌っていただく楽曲はオリジナル楽曲で『教えて☆魔法のライセンス』です!それでは、どうぞ』
「きゃあぁぁぁ!始まりましたよ!未来ちゃんの初放送! 」
「っせーな!別にここで観なくてもいいだろが! 家に帰ってからにしやがれ! 」
「リアタイする事にこそ、意味があるのでs…… あいたっ! 」
ドヤ顔で語る小春の頭に隼人のゲンコツが飛ぶ。
「んな事よりも準備はまだなのかよ」
「もう少しだ」
「本当に大丈夫なの? 」
「ああ、シュミレーションは何度もしてきた。全て問題ない。心配するな、未来」
「あの、未来ちゃん。よよよ良かったら後でサインを…… 」
「…… もう一発喰らいたいらしーな!! 」
「ヒィィィ」
「サインくらい後でいくらでも書いてあげるから、ほら、今は目の前の事に集中して」
「はいいい! 」
今日は、いよいよダイブギアの実験の日だ。ミクが居なくなってから実に3年、時間はあっという間に過ぎた。それでもパソコン内のミクのネクタイは、今も変わらずそこに在り続けている。
「さあ、そろそろ始めようか。2人とも、準備はいいか」
「ああ、いつでも行けるぜ」
「はいっ! 」
「悠麻くん…… 気をつけてね」
そう言って初音は俺の手を握った。
「そ、それでは接続シーケンスを開始します」
「脳波パルス受信、信号変換開始」
「リ〇クスタート!なんつって」
などとふざけながら俺は目をつぶった。感覚としては、よくあるVRゲームにログインするような感覚だった。
「データ転送開始、転送率……10、20、30…… 」
次第にパソコン内にアバターが形成されていく。
「悠麻くんのアバター、特徴捉えてて可愛い」
「できるだけ当時の姿を再現して3Dモデリングしました」
「転送率……100パーセント。オールグリーンです」
「…… 」
「…… 」
「なんで動かねぇんだ? 」
「システムは全て正常に稼働しています! 何か問題が?! 」
…… 声が、聞こえる。誰かが、俺を呼んでいる。俺はその声に呼び起こされ、ゆっくりと目を開けた。辺りを見回すとそこには、いつも画面越しに見ていたデスクトップと同じ風景が広がっていた。ここはいつもミクが過ごしていたリビングだ。奥には玄関のようなドアがり、左右にもそれぞれドアがある。中央にはテーブルが置いてあり、壁掛のテレビと、テーブルを挟んで反対側には大きなソファーがある。ミクはよくそのソファーに横になってテレビを観ていたな。
「…… 君!…… 悠麻君!! 」
背後からの声に気が付き振り向くと、そこには大きなモニターが浮かんでおり、そのモニターの向こうで心配そうな顔を浮かべる初音と小春の顔がデカデカと映し出されている。それに驚き俺は尻もちを着いた。
「悠麻君!」
「うわっ!!…… ってて」
「聞こえますか?神城さん! 」
「見えってかコラ! 」
「……ああ、聞こえる、見えているさ」
「っしゃあ! 」
「良かったああ! 」
「とりあえずは成功したみたいだな」
初音は握った俺の手を額に当て、安堵した様子で膝を落とした。なるほど。ミクはいつもこんな感じで俺と話していたのか。
「気分はどうですか? 」
「ああ、酷く頭が痛い。それと、まるで船酔いでもしたかのように吐き気がする」
「ちょっと待ってくださいね。えっと…… よし! これで…… っと」
「神城さん。今からコンソールの説明をしますね」
「ああ」
「ベースはうちの会社でやってるVRMMOのインターフェースをそのまま移植してます。なので左手でスワイプをしてみてください」
言われるがまま俺は何もない空間を、縦に左手で上から下にスワイプをした。すると、メニュー画面が現れた。
「あのゲームと全く一緒だな」
「そうです」
「その中のアイテムインベントリに、先程酔い止めの薬を入れておきましたので、実際にゲームで使う様に使用してみてください」
インベントリを開き、酔い止めの薬を選んで使用した。すると、先程までの酷い船酔い状態は完全には治ってはいないが少しはマシになった。
「ふぅ」
「どうですか? 」
「少しはマシになったな。…… まさかダイブする度にこの苦痛を味わわないといけないのか」
「うーん、原因は分かりませんけど、そうなりますね。『回線酔い』とでも言いましょうか。大丈夫、すぐ慣れますよ」
「慣れたくはないもんだな」
「では、肝心のミクちゃんのネクタイの入手方法を説明しますね。手順を間違えると消滅してしまう可能性があるので慎重に」
そう言って小春にアイテムの入手方法を教わる。と言っても某ゲームとやり方は一緒だ。
① そこら辺にあるものを拾うor触れる。
② その状態でメニュー画面を開き、キャプチャーを選択。
③ キャプチャー可能な物であればアイテムインベントリに収納される。
ざっとこんな感じだ。一度インベントリに入ってしまえばデータ化が出来るので解析も可能だそうだ。
「よし、大体把握した。早速だがミクの部屋へ行ってみるか」
「気をつけてください!奥の扉は不用意に開けないでくださいね! 」
「あそこは? 」
「今はローカルエリア接続なのとファイアウォールで守られているから大丈夫だと思いますが、その扉の先はオープンネットワークに繋がっています。一歩外に出てしまえば何処へ飛ばされるか分かりませんよ」
「それは怖いな。じゃあこっちの扉か」
俺はもうひとつのドアへと向かうと、モニターから見ている初音達からは見えなくなった。
「悠麻君が映らなくなっちゃった」
「そんな時はっと…… よし、これで視点が神城さんの背後を追従するようになりましたよ」
「なんかゲームの画面みたい」
『TPS視点か。考えたな。それじゃあ、開けるぞ』
俺は、ミクの部屋のドアをゆっくりと開けた。しかし、少し開けた所で一瞬俺は止まった。
「えっ」
「どうしたの? 」
「い、いや。何でもない」
戸惑う気持ちを抑えつつ、部屋の中へと入っていく。右側の奥の方には例のベッドがあった。そして画面越しで見てる時は気付かなかったが左側には化粧台があった。その化粧台を見た時、俺は再び立ち止まり、涙を流した。




