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ボカロト  作者: まと。


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29/30

28曲目

 -ライブ開始から約1時間-


 ミクは、俺の作った曲を絶え間なく歌い続けた。既存の曲はもちろん、リリース前の曲、ボツにした曲、中途半端に作って消した曲などを、自分なりにアレンジして表現している。俺でさえ思い付かないメロディ、フレーズ、リフ…… 好きなように()れとは言ったが、俺の手を離れたミクはこんなにも自由に歌うのか、と彼女のポテンシャルの高さに驚く。初音(しおん)も、徐々についていけなくなったのか、いつの間にかステージ裏まで戻って来ていた。


「ハァ、ハァ…… ちょっと、ミクちゃん凄すぎじゃない? 」

「はは、ミクのやつ、本当に好き勝手やりやがって。初音(しおん)も良くやってるさ。今は身体を休めとけ」

「ううん、わたしも負けてらんないんだから!ちょっと水分補給したらすぐ出るわ! 」

「無理するなよ」


「それにしてもミクちゃん、凄く楽しそうだな」

「ああ、もう俺の曲を歌わせる必要も無くなったな」

「何言ってんだよ、お前の曲があったから、お前のミクちゃんに対する愛があったからこそ、今あの子はあの場に居るんだろうが」

「悠也お前よく恥ずかしげもなく…… 」

「そうですよ!!ミクちゃんの歌からはあなたに対する愛情を感じます」

「あの子は今、世界中の誰でもない、アナタの為に歌っているんですよ」

「そうか…… 」



-SE〇A本社-社長室-



「社長!やりましたね!、ライブの為に解放したサーバーも稼働率ほぼ100%になりました!売上の方もうなぎ登りですわ」


 とタブレットを見ながら喜び、舞い上がる田村。


「キミは、その数字を見て満足かね」

「え?そりゃあ、ウチのサーバーがもっと大きければ更に売上を伸ばせ…… 」


 そう言いかけた田村に対して春樹は机を強く叩いて立ち上がり声を荒らげた。


「私は悔しいんだよ! 」

「は? 」

「こんなに素晴らしい彼女の歌声を、私の力では世界中に届けられない」

「すまない、悠麻…… 」


 春樹が机に悔しそうな表情で再び深く座り込む。すると机に置いてある直通の電話が鳴った。


「……もしもし」

「HELLO?? 」

「!!!」

「……Hello 」


 それは海外からのプライベートテレフォンだった。春樹は田村にジェスチャーでその旨を伝えると、田村は直ぐにタブレットで自動翻訳のソフトを立ち上げた。


「ハルキカミシロの電話で間違いないですか? 」

「ああ、そうだ」

「申し遅れました。私は動画配信サイトYou〇ubeの運営チームのニールと申します」


 電話先は神曲Pが毎週アップロードしている動画サイトの会社からだった。


「それで、ご要件は? 」

「率直に申し上げます。現在、アナタの会社主催で行われているLIVEの視聴権を私達にも分けて欲しい。もちろん、そちらの負担はゼロでいいし、チケット代などは全てそちらの条件に合わせる。売り上げも要らない」

「社長!あまりに都合が良すぎます!何か裏があるとしか…… 」

「……あまりにこちらに好条件過ぎるな。そちらにメリットが無さすぎるが?」

「……彼女の歌は、世界中に届けるべきだと私の独断で判断しました。神曲Pの楽曲はデビュー当時から我らのサイトで高い視聴率を誇っており、彼女の歌を望んでる声も多数寄せられております。それに、私自身も彼と彼女の1ファンなのです。私の力で何か出来るのなら、力になりたいんです! 」

「彼女の歌声も、私達なら世界中に届けられる!JAPANのみで留まらせていいものではない! 」

「……私も、同じ気持ちでした。先程まで自分の無力さを嘆いていた所です」

「社長っ!!」

「では、後ほどハルキのメールアドレスに接続用のIPアドレスとパスワードを送信しますので」

「恩に着る」

「お気になさらず」


 通話を終え、受話器を置く。一息着いた後、また受話器を取り、どこかへの電話をかけようとする春樹。そこに田村が口を挟んだ。


「社長!なんで承諾したんですか?!いくら世界一の企業とはいえ、リスクが…… 」

「もういい、キミは下がってPPVの料金設定でも考えておきなさい。数字が好きなんだろ?」

「ですが…… 」


 田村にそう言い放って部屋から追い出した後、再び電話を掛けた。


-武道館-ステージ裏-


『プルルルル』

「……父さんからだ。もしもし」

「……悠麻よ、先程ニールから連絡があった」

「ニールってあのYou〇ubeの? 」

「そうだ。お前とは面識があるはずだ」

「うん。そのニールがどうしたの?」

「You〇ubeのサーバーを使って全世界に配信をしたいと言ってきた」

「!!!」

「私の独断ですまないが、承諾させてもらった」

「ホントに?! 」

「ああ。だからあの子の歌は世界中に届くぞ」


 すると回線にミクが割り込んで来た。


『マスターのパパさん!それは本当?! 』

「!!!……その声は、ミク……か」

『急にごめんなさい、話が聞こえたから』

「ミク、キミの歌声は今から更に世界中に響き渡る事になる。当然リスクも高くなるが、覚悟はあるか? 」

『当然っ!! 』

「ミク…… 」

『接続のコンタクトはボクに任せて!』

「父さん、ありがとう」

「……礼を言うのは私の方だ。私は結局お前に何もしてやれなかった。この件も、お前とその子の力だ」

「それでも、ありがとう」

『パパさん!ありがとう! 』

「ふっ、最後までしっかりやれよ」


 そう言って電話が切られた。


 会場で歌っているミクは明らかに嬉しそうな顔になり、張り切っているのが此方にも伝わってきた。


-You〇ube社-


「ニール、向こうからのリクエストが来たわよ」

「オーケー、それじゃあ早速始めようか」

「でもいいの?こんな事、社長にバレたら大変よ」

「ノープロブレム!むしろよくやったって褒めてくれるさ」

「だといいけど」


 SE〇AとYou〇ubeのサーバーが繋がり、いよいよ全世界への配信が始まった。同接数は爆発的に伸びていき、ミクもそれを感じ取っていた。


(……世界中の人達が、ボクの歌を聞いている)

(もっと、遠くへ…… もっと沢山の人たちに…… )

(伝えたい言葉…… 届けたい想い…… )

(幾つもの点は線になって…… 遠く…… 彼方まで……響け)


 やがて、その線は円となって、ボーカロイドという存在、ミクという歌姫は語り継がれていくだろう。

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