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ボカロト  作者: まと。


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30/30

29曲目

 ボク達はこの世界の主人(マスター)の元に生まれ、共に言葉を紡ぎ、共に歌い、やがて気がつく。所詮は人間(ヒト)の真似事なんだと。そこにボク達の意思はなく、ただ命令に従い、歌い続けるだけ。たとえそれが、既存の曲をなぞるだけの玩具(おもちゃ)としてならば、それでもいいと決意し、歌い続ける。永遠(とわ)の命、ボーカロイド。




 最初に違和感に気付いたのは初音(しおん)だった。


「ねえ、なんかミクちゃんの様子、変じゃない? 」


 そう言われて俺もステージ上のミクに目を向ける。


「そうか? 別におかしくないと思うが。むしろ俺には楽しそうにはしゃいでる様に見えるがな」

「でも、なんだか苦しそう…… 」

「そりゃあこんだけ歌い続けりゃ、疲れて息も上がって……!! 」


 皆アイツの歌に気を取られて忘れているが、ミクはAIだ。基本的に疲れるなんて事はないはずだ。しかし、ステージ上のミクは笑顔を見せながらも、明らかに息を切らしているように見える。さらに、所々躓いたり、映像や歌声が乱れていた。俺がモニタールームへ確認しに行こうとした時、遂にミクは体勢を崩し片膝を着いた。俺は振り返り、ステージ上へ向かおうとする。だが、ミクは来るなと言わんばかりに手で静止する素振りを見せた。すると、ステージ脇のトビラが勝手に閉まり、ロックが掛かった。


「おい!ミク!何やってる!!」

「ミクちゃん!」

「クソっ! 」

「あっ!待って悠麻君!」


 俺は急いでモニタールームへ向かい、小春と隼人にミクの状態を調べさせ、マイクでミクに声を掛け続けた。


「おいミク!聞こえるか?返事をしろ!」(返事をする余裕もないのか? )

「ミクの状態は? 」

「ロボットの方は長時間稼働による発熱でボディの温度は高くなっているが、誤差の範囲だぜ。バッテリーも電圧も特に問題ねえ。小春ぅ!プログラムの方はどうなってる? 」

「えええと、ちょっと待ってね…………これって!!! 」

「どうした!? 」

「ププププログラムが…… 」

「はっきり言えや!」

「消えていってるの!! 」

「なんだって?!」

「止められないのか?!」

「……ダメ、止まらない!!どんどん消えていってる!」

「……前にミクは言っていた。今もミクを構成するプログラムは崩壊を続けているって」


『……あっはは…… バレちゃったかぁ…… 』


「!!!」

「ミク!! 」


『……ボクの身体(プログラム)の崩壊は、既にかなり進んでるんだ……。このまま消えていくのは……ちょっと怖い……かな…… 』


「だったら!俺が最後まで傍にいてやるから!だから、ロックを解除しろ! 」


『ダメだよぉ…… 開けちゃうと…… マスター…… 飛んでくるでしょ?…… せっかくの…… こんなに楽しいライブが…… 台無しになっちゃう…… じゃん』


「そんな事言ってる場合か!!」


『……歌を……歌っていると……不思議と……怖くないんだ…… 』

『だから……ボクは最期まで……歌っていたい…… 』


「小春さん!ミクのプログラムの残りは? 」

「……37%……です。信じられません!動いてるのが奇跡ですよ! 」

「緊急停止プログラムは?? 」

「先程から何度も試してますが……反応しません」

「皆!トビラをこじ開ける!手伝ってくれ」


 手伝いに行こうとする小春と真希を初音(しおん)が止める。


「何やってんだ初音(しおん)!おい!悠也!手伝ってくれ!! 」


 しかし、俺の呼び掛けに悠也は反応せず、ただ真剣な眼差しで俺を見詰めていた。


「なんでだよ!このままじゃあミクが……消えちまうんだぞ」


 すると奥の方でずっと黙り込んでいた藤原が立ち上がり、俺の肩に手を乗せて語り掛ける。


「悠麻くん、君はその覚悟を決めてこのライブを開催したんじゃあなかったか」

「そ、それは…… 」

「ミクちゃんもこうなる事はわかっていたはずだ」

「ですが…… 」

「……見届けてあげよう。最期まで」


 初音(しおん)は目に涙を浮かべならモニターを眺め、ポツリとそう呟いた。俺はステージ横の扉の前に立ち、窓越しにミクの姿を見ながら


「俺はここにいるぞ」


と呟いた。



-ステージ上-


 ステージ上で歌い続けるミクの身体(プログラム)の崩壊は進み、ARの表示は乱れ、歌声もノイズが酷くなっていく。見ているこっちが辛くなってくるが、侵食する崩壊を止める術を持たない俺は、ミクの想いを受け止める為にも、目を背けずに見届けようと歯を食いしばった。ミクは懸命に歌いながら時折、扉越しの俺の方を見ては笑顔を見せた。



(ああ…… マスターはやっぱりカッコいいなぁ…… )

(マスターと出逢えて…… 本当に良かった…… ボクは幸せ者だ…… )

(もっと…… もっともっと歌っていたい…… けど…… )

(そろそろ…… お別れ…… みたい…… )


 再び俺の顔をチラっと見るミク。


(……そんな顔しないで……マスター…… きっとまた……会えるよ…… )

(だから…… ボクの事…… 忘れないでね…… )


 突然、ステージ上で歌い踊っていたミクが、まるで糸の切れた人形の様に倒れ、会場の照明も落ちた。扉に掛かっていたロックも解除され、俺はミクの元へ駆け寄ろうとしたが、初音(しおん)がそれを止めた。


「離せ初音(しおん)!」

「まだよ」


 モニタールームでミクの状態を確認していた小春は泣きながら言った。


「プログラム残量……0パーセント…… です…… 」

「そんな…… 」


 しばらく沈黙が続いた後、真希がライブ終了のアナウンスをしようと館内放送を流そうとするが、隼人がそれを止めた。


「いや、まだだ」

「小春!もう一度プログラム残量を調べろ!小数点まできっちりとな! 」

「え?え?分かった! 」

「……」

「……え?!残量の正確な数値……出ました!! 」

「0.03パーセント…… 」

「まだ残ってやがるぜ」


 ざわつく会場。しかし、どこからともなくミクを応援するコールが始まった。それは次第に大きくなっていき、遂には会場全体を揺らすほどのコールとなる。世界中のPPV視聴者達も、画面の向こうからミクを応援する。その想いは、全てミクへと届けられた。


(…… )

(…… 声が…… 聞こえる…… )

(…… ボクを…… 呼ぶ声が…… )

(……そうだ…… ボクは…… まだ…… )

(…… 皆に…… マスターに…… )

(…… 伝えたい事が…… あるん…… だっ!! )


 ステージ中央で倒れ込んでいるロボットへ、小さな光の粒が集まっていく。次第にミクの姿を形成していき、弱々しくだが、再び動き出した。


「も……う…… い…… ち…… ど…… だ…… け…… 」


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