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ボカロト  作者: まと。


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28/30

27曲目

 ミクが一曲を歌い切ると、会場は一瞬静まり返り、少しの間があった後、思い出したかのように歓声が上がった。その歓声は全てがステージ中央に立っているミクに向けられたものであり、徐々に大きくなりまるで会場全体を地鳴りの様に揺らすほどだった。


(ハァ……ハァ……すごい……この、全身に突き刺さる様な歓声……)

(あの時とは比べ物にならない程に……心地いい…… )


「あの、えっと……は、初めまして。『ミク』です」

「その、ちょっと寝坊しちゃってゴメンナサイ」

「今日はボクの為にこんなに沢山来てくれてありがとう」


 流暢にMCを始めるミクに、観客たちは驚くが、ミクの事をまだ作り物だと思い込んでいる。


「すげーな、まるでホントに喋ってるみたいだ」

「去年までのSE○Aのライブとは比べもんにならないぜ」

「しかしよく作り込まれているな」


 ステージ袖でスタンバイしている初音(しおん)は両方の頬を手のひらで叩き、気合いを入れた表情をして再びステージへと駆け出した。


(私だって負けないんだからっ!! )


 一方ステージ裏では、何とかコントロールを取り戻そうと試行錯誤しているメンバー。そこにミクからの応答が入る。


『皆さん、心配掛けてごめんなさい』


「!!!」


 俺は隼人の装着しているヘッドセットを奪い、ミクに返事をした。


「あっちょっ!てめコラ!何しやがる」

「ミク、体は大丈夫なのか?!」

『あ、マスター!うん、お陰様でしっかり休めたよ』

「どうなってるの?ステージ上ではミクちゃんはMCを続けてるのに」

『今は並列思考で皆さんと会話してます。それに他6会場とも並列思考でライブ中だよ』

「凄いな…… 」

「ちょっとアナタ、早くコントロールを戻しなさい!さもないと- 」


 そう言いかけた佐藤のマイクを手で遮り


「お前の好きな様に()ってこい!ミク!」


 と伝えた。


「貴方何言ってるか分かってるの?!こんな事がバレたらタダじゃすまないのよ?」

「大丈夫ですよ。下手にコントロールを戻すよりも、ミクに好きなようにやらせた方がいい。それに、ハッキングや邪魔が入るかもしれない」

「それはそうだけど…… 」

「いざとなったら緊急停止プログラムだってある。大丈夫、ミクを信じてください」

「……わかったわ」


 佐藤にそう言い聞かせると、佐藤は不満そうな顔をしながらその場を離れテーブルに戻り、ノートパソコンを広げ足を組んで座った。


「しっかしこれじゃあ俺たちもお役御免だな」

「どーせなら私達も楽しんじゃいましょうよ!」

「ああん?バカが何寝惚けたこといってやがる!テメーはアイツが暴走しねーように見張ってなきゃなんねーだろうが」

「しょぼん…… 」


 パソコンの画面を見た佐藤は、驚いた様子で再び立ち上がり、俺の所へやってきた。


「どうしました? 」

「売り上げが……伸びてるわ。まだ、たった1曲歌っただけなのに…… 」

「まだまだこんなもんじゃあないですよ」


 各会場のチケットは次々に売れていき、ここ武道館では、キャパシティを120%まで引き上げても、ついに完売をした。


 -再びステージ上-


 ミクに駆け寄る初音(しおん)。彼女は専用のカラコンを付けることでミクのARを見ることが出来る。


「ミクちゃん!」

初音(しおん)さん」

「やっぱり来てくれた」

「遅くなってゴメンなさい」

「ううん、大丈夫だよ」

「じゃあ、ここからは全力で行くよー」

「うんっ!」


 ミクと未来、二人は互いに高め合いながら会場を盛り上げていく。まるで伝え合うように、初音(しおん)はミクに人間(ヒト)の感情を、ミクは初音(しおん)にボーカロイドの無機質さを。


(すごい…… ミクちゃんに引っ張られて、どんどん私も上手くなっていくのが分かる…… 声が張れる、足が軽い、表現が止まらないっ!! )


(初音(しおん)さんはやっぱり凄いや…… ボクの力をどんどん吸収して、迫ってくる…… ボクには出来ない、人間(ヒト)を惹きつける魅力、迫力、気迫。悪いけど、ボクも学ばせて貰うよっ! )


「置いてかれないように、しっかり着いてきてね! 」


 その言葉は、一見すると観客に向けて放たれた言葉に聞こえるが、初音(しおん)には自分に向けてだと直ぐに理解した。


 ぶつけ合い、まるでステージの上で競い合っているかの様な、そんな凄まじさを感じさせるステージに、会場のボルテージもどんどん上がっていく。もう、誰も初音(しおん)の事を攻める奴なんていなくなっていた。


-SE〇A本社-社長室-


 ライブの映像に釘付けになっている春樹の元へ、再び田村がドアをノックもせずに慌ただしく入ってきた。


「社長!大変です!!」

「…… 」

「…… 」

「田村君、社長室に入る時はノックをしろと先程も言ったと思うが? 」

「……すみません。ですが、コレを見てください! 」


 そう言うと田村は一台のタブレットを春樹に見せた。


「PPVの売り上げが爆発的に伸びていて、このままいけば現在のサーバーの許容量を超えてしまいます」

「彼女のライブを観れば、こうなる事は分かっていたはずだが」

「そ、それは… 」

「すぐに我社の全サーバーをLIVEのPPV用に切り替えたまえ」

「し、しかし、それではうちの主力であるMMOサーバーも停止する事に… 」

「何か問題でもあるのかね」

「い、いえ… 」



-MMORPGサーバー内-


    『緊急メンテナンスのお知らせ』


『これより10分後に緊急メンテナンスを行います。プレイヤーの皆様は、速やかにログアウトをお願いいたします』


「なんだなんだ?」

「おいおい、今レイド中だぞ」

「あと少しだったのに」

「この会社が事前の告知無しに緊急メンテなんて珍しいな」


 S〇GAの保有するサーバー全てで稼働中のサービスを止め、その全てをライブの為に開放すると、直ぐに接続がはじまった。みるみるうちに同接数が増えていく。


 各会場の周辺では、チケットが買えなかった人達が少しでも彼女達の歌声を聞こうと、会場の周りに集まり出し、漏れ出る音を聴いていた。その様子はテレビでニュースになるほどだった。


 アクシデントはあったものの、無事にライブは動き出し、観るものを、聴いたものを次々と魅了していく。


 ステージ上を縦横無尽に走り回り、とても楽しそうに歌う二人を見て俺は、この夜が永遠に続けばいいのに…… と思った。

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