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深層汚染  作者: 真夜不寝
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17/21

SS「青いカーテン」

 真白の部屋には、何もなかった。

 正確には。

 布団。

 小さな机。

 警察から一時的に借りた衣類。

 それだけ。

 朔は襖の前に立って中を見る。

「何かいる?」

 真白は床に座っていた。

「いる」

「何が」

「私」

「そうじゃなくて」

「聞き方が悪い」

「榊原先生みたいになってきたな」

「誰」

「知ってるだろ」

「知ってる」

「じゃあ何で聞いた」

「少し面白かった」

 最近。

 こういうことをする。

 誰に似た。

 考える必要はない。

 多分。

 ろくでもない。

「部屋」

 朔が言う。

「何か欲しいものある?」

 真白は周囲を見る。

 畳。

 壁。

 窓。

「ない」

「ない?」

「困ってない」

「まあ」

 生活できなくはない。

 しかし。

 何もなさすぎる。

 借り物の布団。

 借り物の服。

 空っぽの壁。

 本人は気にしていない。

 朔は少し考える。

「カーテン」

「何」

「ない」

 窓。

 薄いレースだけ。

「夜、外から見える」

「見られる?」

「多分」

「嫌?」

「俺じゃなくて」

「私?」

「うん」

 真白は窓を見る。

「嫌かも」

「じゃあ買うか」

「どれ」

「店で」

「また多い?」

「多い」

「嫌」

「見る前から」

*

 ホームセンター。

 久世もいた。

「何で俺まで」

「車」

「便利屋じゃないぞ」

「知ってる」

「扱いが便利屋」

 真白が後部座席から言う。

「久世」

「何」

「便利」

「お前まで!?」

 朔は助手席で笑う。

「人気だな」

「お前の教育だろこれ」

「教えてない」

「自然発生の方が怖いわ」

*

 カーテン売り場。

 真白。

 止まる。

「多い」

「言った」

「多すぎる」

 白。

 灰色。

 青。

 緑。

 花。

 線。

 柄。

 遮光。

 防炎。

 断熱。

 洗濯可。

「カーテンに機能多すぎだろ」

 久世が言う。

「布では」

 真白。

「人間は布にも性能を求める」

 朔。

「文明」

「雑な説明」

 真白は一枚ずつ見る。

 白。

「病院」

「分かる」

 久世。

 花柄。

「多い」

「何が」

「花」

「柄だからな」

 黄色。

「明るい」

「うん」

「落ち着かない」

 灰色。

「朔の服」

「悪口?」

「事実」

 青。

 真白が止まる。

 濃い。

 暗い青。

 ほとんど紺。

 手で触る。

「これ」

 朔が見る。

「青?」

「うん」

「好き?」

 真白はすぐには答えない。

 布。

 見る。

 触る。

「多分」

 久世が横から覗く。

「いいじゃん」

「なぜ」

「部屋に合いそう」

「部屋見たことないだろ」

「お前の家なら大体想像つく」

「失礼」

「物ないだろ」

「ある」

「本と紙だろ」

「物」

「分類が雑」

 真白は青い布を持ったまま。

 別の青を見る。

 少し明るい。

 さらに別。

 灰色に近い。

「どれ」

「好きなの」

 朔が言う。

「それが分からない」

 久世。

「最初に止まったのでいいんじゃない?」

 真白が見る。

「最初」

「一番最初に自分から触ったやつ」

 青。

 暗い。

 真白はそれを見る。

「これ」

「決まり」

 朔。

「サイズ」

 三人。

 止まる。

「測った?」

 久世。

「……」

「お前」

「窓って大体同じでは」

「違うわ!」

 真白が朔を見る。

「使えない」

「二回目」

*

 結局。

 家へ戻った。

 測った。

 もう一度店へ行った。

「人類、窓の寸法まで個体差あるの面倒だな」

 朔が言う。

「お前が測ってないだけ」

「規格統一すれば」

「建築業界に言え」

 真白は後ろで。

 少し笑っていた。

*

 夕方。

 取り付け。

 脚立。

 久世。

「右」

「どっち」

「お前から見て」

「俺から?」

「もういい」

「説明が」

「黙って持て」

 真白は下から見る。

「久世」

「何」

「怒ってる」

「お前の同居人のせい」

「よくある」

「もう把握してるの嫌だな」

 レール。

 フック。

 布。

 最後。

 青いカーテン。

 下ろす。

 部屋。

 少し。

 暗くなる。

「おお」

 久世。

「部屋っぽい」

 朔も見る。

「確かに」

 真白は。

 何も言わない。

 窓へ行く。

 布を触る。

 閉める。

 開ける。

 また。

 閉める。

「何してる」

 朔。

「私の」

「カーテン?」

「うん」

「そうだね」

 真白は部屋を見る。

 布団。

 机。

 青いカーテン。

 それだけ。

 でも。

 朝とは。

 違う。

「変」

「何が」

「何もなかったのに」

 青。

「一つあると」

 少し。

「他も欲しくなる」

 久世が笑う。

「始まったな」

「何が」

「生活」

 真白が見る。

「生活」

「物増えるよ」

「嫌」

「でも欲しいんだろ」

 真白は黙る。

「何欲しい?」

 朔が訊く。

 真白。

 考える。

「コップ」

「あるよ」

「朔の」

「共有で」

「嫌」

「即答」

「私のがいい」

 久世が朔を見る。

「いい傾向じゃん」

「そう?」

「知らんけど」

「適当」

「一般人枠なので」

 真白が少し考える。

「色」

 朔。

「何色」

「青」

「また?」

「同じがいい」

 青いカーテンを見る。

「暗い青」

「じゃあ明日」

「買う?」

「見に行けば」

 真白が頷く。

「見る」

 久世。

「また俺?」

「車」

「便利って言うなよ」

 真白は少し。

 間を置く。

「助かる」

 久世が止まった。

「……ならいい」

 朔。

「ちょろい」

「黙れ」

 カーテン。

 閉じる。

 外。

 見えなくなる。

 部屋の中。

 三人。

 青。

「朔」

「何」

「入る時」

「うん」

「今度から」

 真白が襖を見る。

「声かけて」

 朔は少し止まる。

「分かった」

「勝手に開けない」

「はい」

「久世も」

「俺!?」

「来るから」

「そんな頻繁に来ねえよ」

 真白は。

 自分の部屋を見る。

 狭い。

 何もない。

 でも。

 カーテン。

 欲しいと思った色。

 閉じたいと思えば。

 閉じられる。

 入ってほしくない時は。

 言える。

「私の部屋」

 小さく。

 言う。

 朔は聞こえた。

 でも。

 何も言わなかった。

 久世も。

 珍しく。

 黙っていた。

SS 了

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