SS「青いカーテン」
真白の部屋には、何もなかった。
正確には。
布団。
小さな机。
警察から一時的に借りた衣類。
それだけ。
朔は襖の前に立って中を見る。
「何かいる?」
真白は床に座っていた。
「いる」
「何が」
「私」
「そうじゃなくて」
「聞き方が悪い」
「榊原先生みたいになってきたな」
「誰」
「知ってるだろ」
「知ってる」
「じゃあ何で聞いた」
「少し面白かった」
最近。
こういうことをする。
誰に似た。
考える必要はない。
多分。
ろくでもない。
「部屋」
朔が言う。
「何か欲しいものある?」
真白は周囲を見る。
畳。
壁。
窓。
「ない」
「ない?」
「困ってない」
「まあ」
生活できなくはない。
しかし。
何もなさすぎる。
借り物の布団。
借り物の服。
空っぽの壁。
本人は気にしていない。
朔は少し考える。
「カーテン」
「何」
「ない」
窓。
薄いレースだけ。
「夜、外から見える」
「見られる?」
「多分」
「嫌?」
「俺じゃなくて」
「私?」
「うん」
真白は窓を見る。
「嫌かも」
「じゃあ買うか」
「どれ」
「店で」
「また多い?」
「多い」
「嫌」
「見る前から」
*
ホームセンター。
久世もいた。
「何で俺まで」
「車」
「便利屋じゃないぞ」
「知ってる」
「扱いが便利屋」
真白が後部座席から言う。
「久世」
「何」
「便利」
「お前まで!?」
朔は助手席で笑う。
「人気だな」
「お前の教育だろこれ」
「教えてない」
「自然発生の方が怖いわ」
*
カーテン売り場。
真白。
止まる。
「多い」
「言った」
「多すぎる」
白。
灰色。
青。
緑。
花。
線。
柄。
遮光。
防炎。
断熱。
洗濯可。
「カーテンに機能多すぎだろ」
久世が言う。
「布では」
真白。
「人間は布にも性能を求める」
朔。
「文明」
「雑な説明」
真白は一枚ずつ見る。
白。
「病院」
「分かる」
久世。
花柄。
「多い」
「何が」
「花」
「柄だからな」
黄色。
「明るい」
「うん」
「落ち着かない」
灰色。
「朔の服」
「悪口?」
「事実」
青。
真白が止まる。
濃い。
暗い青。
ほとんど紺。
手で触る。
「これ」
朔が見る。
「青?」
「うん」
「好き?」
真白はすぐには答えない。
布。
見る。
触る。
「多分」
久世が横から覗く。
「いいじゃん」
「なぜ」
「部屋に合いそう」
「部屋見たことないだろ」
「お前の家なら大体想像つく」
「失礼」
「物ないだろ」
「ある」
「本と紙だろ」
「物」
「分類が雑」
真白は青い布を持ったまま。
別の青を見る。
少し明るい。
さらに別。
灰色に近い。
「どれ」
「好きなの」
朔が言う。
「それが分からない」
久世。
「最初に止まったのでいいんじゃない?」
真白が見る。
「最初」
「一番最初に自分から触ったやつ」
青。
暗い。
真白はそれを見る。
「これ」
「決まり」
朔。
「サイズ」
三人。
止まる。
「測った?」
久世。
「……」
「お前」
「窓って大体同じでは」
「違うわ!」
真白が朔を見る。
「使えない」
「二回目」
*
結局。
家へ戻った。
測った。
もう一度店へ行った。
「人類、窓の寸法まで個体差あるの面倒だな」
朔が言う。
「お前が測ってないだけ」
「規格統一すれば」
「建築業界に言え」
真白は後ろで。
少し笑っていた。
*
夕方。
取り付け。
脚立。
久世。
「右」
「どっち」
「お前から見て」
「俺から?」
「もういい」
「説明が」
「黙って持て」
真白は下から見る。
「久世」
「何」
「怒ってる」
「お前の同居人のせい」
「よくある」
「もう把握してるの嫌だな」
レール。
フック。
布。
最後。
青いカーテン。
下ろす。
部屋。
少し。
暗くなる。
「おお」
久世。
「部屋っぽい」
朔も見る。
「確かに」
真白は。
何も言わない。
窓へ行く。
布を触る。
閉める。
開ける。
また。
閉める。
「何してる」
朔。
「私の」
「カーテン?」
「うん」
「そうだね」
真白は部屋を見る。
布団。
机。
青いカーテン。
それだけ。
でも。
朝とは。
違う。
「変」
「何が」
「何もなかったのに」
青。
「一つあると」
少し。
「他も欲しくなる」
久世が笑う。
「始まったな」
「何が」
「生活」
真白が見る。
「生活」
「物増えるよ」
「嫌」
「でも欲しいんだろ」
真白は黙る。
「何欲しい?」
朔が訊く。
真白。
考える。
「コップ」
「あるよ」
「朔の」
「共有で」
「嫌」
「即答」
「私のがいい」
久世が朔を見る。
「いい傾向じゃん」
「そう?」
「知らんけど」
「適当」
「一般人枠なので」
真白が少し考える。
「色」
朔。
「何色」
「青」
「また?」
「同じがいい」
青いカーテンを見る。
「暗い青」
「じゃあ明日」
「買う?」
「見に行けば」
真白が頷く。
「見る」
久世。
「また俺?」
「車」
「便利って言うなよ」
真白は少し。
間を置く。
「助かる」
久世が止まった。
「……ならいい」
朔。
「ちょろい」
「黙れ」
カーテン。
閉じる。
外。
見えなくなる。
部屋の中。
三人。
青。
「朔」
「何」
「入る時」
「うん」
「今度から」
真白が襖を見る。
「声かけて」
朔は少し止まる。
「分かった」
「勝手に開けない」
「はい」
「久世も」
「俺!?」
「来るから」
「そんな頻繁に来ねえよ」
真白は。
自分の部屋を見る。
狭い。
何もない。
でも。
カーテン。
欲しいと思った色。
閉じたいと思えば。
閉じられる。
入ってほしくない時は。
言える。
「私の部屋」
小さく。
言う。
朔は聞こえた。
でも。
何も言わなかった。
久世も。
珍しく。
黙っていた。
SS 了




