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深層汚染  作者: 真夜不寝
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15/21

SS「プリン」

 土曜日。

 午前十一時十二分。

 朔は起きた。

 正確には。

 起こされた。

「朔」

「……」

「朔」

「……何」

「お腹が空いた」

 目を開ける。

 天井。

 見慣れた。

 自分の部屋。

 襖。

 開いている。

 そこから真白が覗いていた。

「何時」

「十一時十二分」

「早い」

「昼」

「まだ午前」

「もう昼」

「十一時は午前」

「お腹は昼」

 朔は布団へ顔を戻した。

「冷蔵庫」

「見た」

「何かある」

「ない」

「あるよ」

「卵」

「ある」

「醤油」

「ある」

「水」

「ある」

「食事ではない」

「卵は食事」

「生?」

「焼けば」

「誰が」

 朔は黙った。

 真白も黙った。

「……俺?」

「たぶん」

「寝たい」

「お腹空いた」

「強い」

「何が」

「身体」

 真白は少し考える。

「昨日も空いた」

「毎日空くよ」

「面倒」

「俺に言われても」

「身体、維持費かかる」

「そういう言い方する?」

 真白は自分の腹へ手を当てた。

「昨日、食べたら止まった」

「空腹だからね」

「今日も?」

「多分」

「毎日?」

「死ぬまで」

 真白が嫌そうな顔をした。

「大変」

「今気づいた?」

 朔はようやく起き上がった。

*

 冷蔵庫。

 卵。

 調味料。

 昨日買った麦茶。

 以上。

「本当にないな」

「言った」

「米は」

「ない」

「パン」

「昨日食べた」

「俺のも?」

「知らない」

「二枚あったよね」

「二枚食べた」

「俺のもじゃん」

「名前書いてなかった」

「冷蔵庫に入ってるパンに所有権表示必要?」

「必要だった」

 朔は冷蔵庫を閉める。

「コンビニ行くか」

「コンビニ」

「昨日通った」

「明るい店」

「だいたい合ってる」

「何でもある?」

「何でもはない」

「食べ物ある?」

「ある」

「行く」

 決定が早い。

 靴。

 玄関。

 真白は借り物のスニーカーを履く。

 まだ少し大きい。

 紐を結ぶのに時間がかかる。

「難しい」

「蝶々結び」

「知識はある」

「できない?」

「やったことない」

 しゃがむ。

 結ぶ。

 ほどける。

 もう一度。

「知ってるのにできないの、変」

「そういうもの多いよ」

「朔も?」

「料理のレシピ読んでも料理できない」

「それは違う気がする」

「厳しい」

 三回目。

 結べた。

 真白が見る。

「できた」

「うん」

 反対。

「こっちも」

「自分で」

「今やった」

「じゃあできる」

 真白は少し睨んだ。

 それでも。

 自分で結んだ。

*

 コンビニ。

 自動ドア。

 開く。

 真白が止まる。

「入らないの」

「多い」

「何が」

「物」

「コンビニだから」

 飲み物。

 菓子。

 弁当。

 雑誌。

 洗剤。

 電池。

 傘。

 全部。

 真白は入口で一度全体を見る。

「何を買えばいい」

「食べたいもの」

「分からない」

「じゃあ見れば」

 歩く。

 弁当。

「これ」

「唐揚げ弁当」

「これ」

「パスタ」

「これ」

「おにぎり」

「全部食べ物?」

「だいたい」

 真白が棚を見る。

「多い」

「さっきも言った」

「選べない」

 朔は止まる。

 少し。

 考えそうになる。

 どれが好き。

 何が欲しい。

 本当は何を。

 そこまで浮かんで。

 やめた。

「一周する?」

「一周」

「見てから決めれば」

 真白が頷く。

「そうする」

 一周。

 二周目。

 デザート棚。

 真白が止まった。

「これ」

「プリン」

「知ってる」

「食べたことは」

「ない」

「じゃあ買えば」

 真白はプリンを見る。

 隣。

 別のプリン。

 その隣。

 また別。

「三つある」

「もっとあるよ」

 下。

 上。

 硬め。

 なめらか。

 カラメル多め。

 生クリーム。

 卵濃厚。

 真白が固まった。

「増えた」

「見つけてしまったね」

「違いは」

「食べれば分かる」

「全部?」

「全部買ってもいいけど」

「それは選んでない」

 朔が見る。

 真白は棚を見ている。

 かなり真剣だった。

「これ」

 一つ取る。

 黄色い。

 普通のプリン。

「なんでそれ」

 真白が朔を見る。

「聞く?」

「……」

 しまった。

 反射。

「いや」

 真白が少し笑う。

「黄色かったから」

「理由あるんだ」

「聞いた」

「聞いてない」

「顔」

「そんな顔してた?」

「してた」

 プリン。

 かご。

 入れる。

「それだけ?」

「朔は」

「俺?」

「食べない?」

「じゃあコーヒー」

「食べ物」

「コーヒーは食事じゃない?」

「昨日、朔が言った」

「何を」

「卵は食事」

「コーヒーは違う」

「基準」

「知らない」

 真白がまた少し笑った。

*

 レジ。

 会計。

 真白は横で見る。

「お金」

「うん」

「これで物と交換」

「だいたい」

「この紙に価値がある?」

「その話すると長い」

「なぜ」

「帰ってから」

「逃げた」

「今日は休日」

「関係ある?」

「ある」

 店員から袋を受け取る。

 外。

 久世がいた。

 自転車。

 片手にペットボトル。

 目が合う。

「……」

 朔。

「……」

 久世。

 真白。

 三人。

「お前」

「何」

「女」

「うん」

「誰」

「神代真白」

 真白が言った。

 久世が止まる。

 朔を見る。

 真白を見る。

 もう一度朔を見る。

「説明」

「長い」

「その返しで許されると思ってる?」

「警察も絡んでる」

「余計怖いわ」

 真白が久世を見る。

「久世?」

「え」

「朔の友達」

「なんで知ってるの」

「聞いた」

「俺の何を」

 真白が考える。

「一般人」

「紹介雑すぎるだろ」

 朔。

「間違ってない」

「お前は黙れ」

 久世は自転車を止めた。

 改めて真白を見る。

「久世直哉です」

「知ってる」

「そうでした」

 一拍。

「えっと」

 久世が困る。

 珍しい。

「よろしく」

「よろしく」

 普通。

 あまりにも。

 普通。

 朔は少しだけ笑った。

「何」

 久世が見る。

「別に」

「その笑い方腹立つな」

 真白が袋を見る。

「プリン」

「急に何」

「買った」

「よかったね?」

「食べる」

「報告?」

「多分」

 久世が朔を見る。

「この子ずっとこんな感じ?」

「今のところ」

「お前より会話しやすいな」

「なんで」

「質問少ない」

 真白。

 少し。

 久世を見る。

「なぜ?」

「増えた!」

*

 家。

 三人。

 なぜか。

 久世もいる。

「何で来たの」

「気になるだろ」

「何が」

「全部」

 真白は机の前。

 プリン。

 蓋。

 見る。

「開けていい?」

「自分のだから」

「聞かなくていい?」

「聞かなくていい」

 開ける。

 少し。

 失敗。

 蓋にプリンがつく。

「ついた」

「舐めれば」

「朔」

「何」

「人前」

 久世が笑う。

「御厨さんみたいになってる」

「誰」

「警察」

「警察にも怒られてるの?」

「よく」

「なんで」

「俺も知りたい」

「嘘つけ」

 真白はスプーンを持つ。

 プリン。

 一口。

 止まる。

 二人。

 見る。

「どう」

 久世が聞く。

 真白はしばらく口の中。

 考える。

「甘い」

「うん」

「柔らかい」

「うん」

「冷たい」

「冷蔵庫だから」

「好き?」

 真白が止まる。

 プリンを見る。

 もう一口。

 食べる。

 今度は。

 少し大きい。

「好き」

 短い。

 それだけ。

 久世が笑う。

「よかったな」

「うん」

 真白。

 また食べる。

 カラメル。

 少し。

 眉。

 動く。

「苦い」

「そこがいい」

 朔。

「朔は好き?」

「プリン?」

「これ」

「普通」

「普通」

「嫌いじゃない」

「好きでもない?」

「そう」

 真白が少し考える。

「じゃあ」

 プリンを自分側へ寄せる。

「全部私の」

「最初からそうだよ」

「確認」

「重要」

 久世がペットボトルを飲む。

「なあ」

「何」

「昨日まで何食ってたの」

 真白。

「昨日?」

「その前」

「その前は」

 止まる。

 朔も。

 久世も。

 真白がプリンを見る。

「食べてない」

 久世。

「……そっか」

「身体、なかったから」

「思ったより説明が重い」

 朔。

「慣れるよ」

「慣れたくない」

 真白が三口目。

「久世」

「何」

「プリン」

「うん」

「好き?」

「好き」

「どれ」

「固め」

「固め」

「今度買うなら」

 真白が考える。

「固いのも見る」

「食べ比べだな」

「食べ比べ」

「そういうの楽しいよ」

 真白。

 その言葉を。

 少し。

 考える。

「楽しい」

 まだ。

 よく分からないような。

 でも。

 覚えておくような。

 言い方だった。

 朔は何も言わない。

 プリン。

 黄色。

 半分。

 残っている。

 世界。

 普通。

 外で。

 車。

 走る。

 誰も。

 帰らなきゃ。

 とは言わない。

「朔」

「何」

「明日」

「うん」

「固いプリン」

「買うの?」

「見る」

「買わないかもしれない?」

「分からない」

 久世が笑う。

「いいじゃん」

 真白が見る。

「何が」

「別に」

「なぜ」

「今日は聞かなくていい」

 真白が。

 少しだけ。

 嫌そうな顔をした。

「めんどう」

 朔と久世が。

 同時に笑った。

SS 了


SSは7本ほど書く予定です。

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