第十話 場所がない
午前九時十一分。
県警本部。
黒瀬は報告書の一行を見ていた。
《対象呼称:ましろ》
「これでいいのか」
朔が横から見る。
「何が」
「表記」
「ひらがな」
「本人がそう言ったんだろ」
「音だけ」
「なら勝手に字を当てるな」
黒瀬はペンを置く。
「珍しく警察の方が慎重ですね」
「珍しくは余計だ」
向かいには御厨。
その隣に玲奈。
澪も呼ばれている。
榊原は少し遅れて来るらしい。
机の上には、昨夜から今朝までの記録が並んでいた。
「名字らしい音は」
黒瀬が澪を見る。
「分からない?」
「はい」
「一文字も?」
「何か言ってた気はするんですけど」
「何となくでも」
「やめた方がいいと思います」
澪が言う。
「私がそれっぽい音を言ったら、それが残りそうなので」
朔が見る。
「慎重」
「伊東君に言われたくない」
「確かに」
黒瀬は報告書へ戻る。
「じゃあ現時点では《ましろ》だけ」
「本人が選んだ呼び名なら」
玲奈が言う。
「少なくとも、こちらから別の名前を足す必要はないと思います」
「人として扱う?」
朔が訊く。
玲奈は少し考えた。
「呼び名を尊重することと、人間だと断定することは別です」
「人じゃない?」
「それも決めてません」
「ずっと決めない」
「決める材料がないので」
「正しい」
黒瀬が言う。
「名前がついたから住民票が生えるわけじゃない」
「住民票」
朔が少し笑う。
「急に現実」
「こっちは現実の仕事してるんだよ」
「怪異担当なのに」
「だから余計にだ」
黒瀬は別の紙を出す。
「名前よりこっち」
昨夜からの事案。
帰宅行動。
十九件。
前日より少し増えている。
「また増えた」
「内容が変わってる」
御厨が資料を示した。
「昨日までは、自分が帰ろうとするケースが中心でした」
「今日は?」
「誰かを帰そうとする人が出ています」
朔が顔を上げる。
「帰す?」
「一件目」
御厨が読む。
「六十代男性。深夜、自宅の玄関を開けたままにして、靴を何足も並べていた」
「誰の」
「本人にも分からない」
「何て」
「『帰ってくるから』」
次。
「三十代女性。空き部屋に布団を敷いて、食事を二人分用意していた」
「誰か来る?」
「『帰す場所がないと困るから』」
次。
「大学生。駅のベンチに毛布と飲料水を置いて回っていた」
「何で」
「『帰れない人がいる』」
朔は資料を見る。
「誰が帰れないかは」
「全員、説明できていません」
静かになる。
澪が口を開く。
「ましろ?」
誰もすぐには答えない。
「可能性はある」
黒瀬が言った。
「ただし決めつけるな」
「はい」
「昨日まで《帰りたい》だったものに、《帰してやりたい》が混ざり始めてる」
朔は報告書を見る。
帰る。
帰す。
一文字。
違う。
「ましろは」
朔が言う。
「ずっと帰す側だった?」
玲奈が見る。
「どういう意味ですか」
「みんなに帰る場所を見せてた」
「そう見える場面はあります」
「自分は?」
誰も答えない。
朔も。
答えがあるとは思っていなかった。
*
午前十時二十八分。
榊原が到着した。
「遅い」
朔が言う。
「大学が休講でも、教員が休みになるわけではありません」
「何してたんですか」
「書類」
「現実」
「あなたも提出してください」
「何を」
「先週締切のレポート」
「……」
久世がいれば笑っていたと思う。
「怪異」
「免罪符にはなりません」
「警察」
「なおさら証拠が残っています」
「逃げ道がない」
「帰りますか」
朔が黙る。
榊原も。
一拍。
「今のは」
「先生から言った」
「失言でした」
黒瀬が頭を押さえる。
「お前ら、言葉を雑に使うな」
「すみません」
榊原が素直に謝った。
少し珍しい。
資料を読む。
「帰す側、ですか」
「どう思います」
澪が訊く。
「考え方としてはあり得ます」
「母?」
朔。
「その話は昨日で十分でしょう」
「打ち切られた」
「一つの枠組みに居座ると、別のものが見えなくなります」
榊原は資料を机へ置く。
「ただ」
指先で一枚を押さえる。
「他者を帰す場所として機能している存在に、自分自身の帰還先があるとは限らない」
「家そのものは家に帰れない」
朔が言う。
榊原が見る。
「悪くない比喩です」
「珍しく褒められた」
「比喩だけです」
「撤回が早い」
澪は資料を見ている。
「家というより」
「何」
「入口かも」
「入口」
「帰るための境界」
澪は少し考える。
「駅とか門とか、そういうもの」
「本人はそこを通れない?」
「分からない」
朔が頷く。
「それでいい」
「何が」
「水城が分からないって言うの」
「まだ気にしてる?」
「ちょっと」
榊原が二人を見る。
「一つだけ」
「はい」
朔。
「彼女に直接確認しよう、とは考えないでください」
「……」
「今、考えましたね」
「少し」
「やめてください」
「でも本人のこと」
「だからです」
榊原の声は静かだった。
「名前を自分で選ばせたことと、答えを要求することは違います」
「要求は」
「あなたの場合、聞くだけでも圧になる可能性がある」
朔は黙る。
昨日。
待った。
ましろ。
返事。
「分かりました」
御厨が朔を見る。
「今のは録音しましたからね」
「そこまで信用ない?」
「はい」
「即答」
*
午前十一時四十七分。
朔は県警本部の廊下を歩いていた。
飲み物。
トイレ。
戻る。
それだけ。
一人で行かせることに、御厨は最後まで少し嫌そうだった。
「建物の中ですよ」
「あなたの場合、それで安心できないんです」
と言われた。
否定材料がない。
洗面台。
水。
顔を上げる。
鏡。
自分。
後ろ。
白。
朔は振り向かなかった。
「……」
鏡の中。
ましろ。
立っている。
白い服。
長い黒髪。
輪郭は昨日より少し濃い。
でも。
顔はまだ。
見るたびに微妙に違う。
「ましろ」
――はい。
返事。
朔は鏡を見る。
「出てくる場所、そこなんだ」
――ここ。
「ここ県警だけど」
――ここ。
「俺の後ろ?」
ましろが首を傾げる。
質問。
やめる。
朔は口を閉じる。
昨日。
聞きすぎるから。
榊原。
直接確認するな。
「……」
ましろ。
見る。
――帰る。
朔の手が止まる。
「誰が」
聞いてから。
しまったと思う。
ましろは答える。
――みんな。
「みんなを帰す?」
――帰す。
「……」
報告。
玄関。
布団。
駅の毛布。
繋がる。
「ましろは」
止まる。
聞かない。
でも。
ましろの方が続けた。
――わたし。
自分を指す。
――帰る。
少し。
――ない。
朔は鏡を見る。
「ない?」
――帰れない。
最初の朝。
駅前。
白い女。
帰りなさい。
どこに。
答えられなかった。
今なら。
少し。
違って聞こえる。
「帰す場所はあるのに」
朔が言う。
ましろ。
頷く。
「自分が帰る場所はない?」
――場所。
ましろが胸へ手を置く。
――ない。
朔は黙る。
聞くな。
そう言われた。
でも。
これは。
質問ではない。
たぶん。
「じゃあ」
言葉が出る。
「作ればいいんじゃない」
ましろが動きを止めた。
朔も。
「あ」
遅い。
――作る。
「……」
――場所。
「うん」
――わたし。
「自分の」
――わたしの。
鏡。
白くなる。
朔の背中が冷える。
「待って」
――場所。
「今のなし」
――作る。
「ましろ」
――わたしの。
鏡の奥。
広がる。
洗面台が消える。
壁。
床。
白。
「ましろ」
――場所。
音。
遠く。
家。
扉。
いくつも。
開く。
知らない玄関。
学校。
病室。
畳。
海。
食卓。
全部。
鏡の中。
重なる。
「……まずい」
朔は後ろへ下がる。
ドアを開ける。
廊下。
白い。
違う。
県警本部。
まだ。
ある。
「御厨さん!」
返事。
ない。
「御厨さん!」
遠く。
「伊東さん?」
来る。
足音。
御厨。
角を曲がる。
「何ですか」
「俺」
「はい」
「多分やった」
御厨の顔が変わる。
「何を」
背後。
鏡。
ひび。
入る。
音。
ではない。
でも。
全館の照明が。
一度。
白く。
消えた。
*
午後零時三分。
県警本部の三階で、異常が発生した。
廊下の窓が、一時的に別の場所を映した。
会議室のドアを開けると、誰も使っていない和室が見えた。
給湯室の蛇口からは水ではなく、海の匂いがした。
階段の踊り場。
そこには。
存在しない玄関。
靴。
子供用。
男物。
女物。
何十足。
並んでいた。
触れる前に消えた。
警察官の一人は、廊下の先に実家を見た。
別の一人は、亡くなった祖父の部屋。
別の一人は。
「何もないところ」
そう答えた。
「何もない?」
玲奈が訊く。
「白くて」
警察官は言う。
「静かで」
「安心しました?」
「……はい」
その返答に。
朔は少し寒くなった。
会議室には黒瀬、御厨、玲奈、榊原、澪、朔が集まり、今度は全員が普通に座っていた。
普通ではない話をしている。
「説明しろ」
黒瀬。
「鏡にましろがいました」
「そこから」
「みんなを帰すって」
「それで」
「自分は帰れないって」
「それで?」
朔は少し言いにくい。
「場所がないって」
「それで?」
「……作ればいいって」
黒瀬が目を閉じた。
御厨も。
「言いましたね?」
「はい」
「質問しないようにって」
「質問では」
御厨が見る。
「今そこ争います?」
「争いません」
「なら続けろ」
黒瀬。
「ましろが、自分の場所を作るって」
「言った?」
「多分」
「多分じゃ困る」
「『わたしの場所』『作る』とは」
「それで現象が始まった」
「はい」
黒瀬は机を指で叩く。
一回。
二回。
「なぜ言った」
朔は少し考える。
「場所がないって言ったから」
「だから作れと?」
「……はい」
「実験したかった?」
「違う」
「何が起きるか見たかった?」
「違います」
「じゃあ何だ」
朔は鏡の中のましろを思い出す。
帰す場所。
ある。
自分の場所。
ない。
「かわいそうだと思った」
静かになる。
自分で言って。
少し。
嫌になる。
「たぶん」
玲奈が朔を見る。
「そこは『たぶん』なんですね」
「……はい」
「でも、知りたいからではなかった?」
「今回は」
玲奈は頷いた。
黒瀬が言う。
「善意なら安全だと思うな」
「はい」
「お前の言葉で現象が変わる可能性がある以上」
少し止まる。
「励ますのも、提案するのも、入力になる」
朔は黙る。
「でも」
澪が口を開く。
黒瀬が見る。
「何だ」
「ましろが自分の場所を欲しがること自体は」
少し。
「悪いことなんでしょうか」
「分からん」
黒瀬は即答した。
「欲しがることは止めない」
玲奈が続ける。
「ただ、その場所をどう作るかは別です」
朔が見る。
「どういう意味」
「ましろが《家》を知らないとしたら」
「はい」
「何を材料にすると思います?」
朔は答えられない。
榊原。
「他人の帰りたい場所」
玲奈が頷く。
「今まで受け取ってきたもの」
母親。
学校。
病室。
海。
団地。
食卓。
数え切れない。
「全部?」
朔。
「可能性はあります」
榊原が答える。
「自分の場所を作ろうとして」
澪が小さく言う。
「みんなの場所を混ぜる?」
「それでは」
榊原は言う。
「結局、自分の場所にはならないでしょうね」
朔は目を閉じる。
また。
やった。
相手に。
何かを。
「伊東さん」
玲奈。
「はい」
「今、自分を責めて終わらせないでください」
「終わらせてない」
「顔が終わらせようとしてます」
「顔で分かる人多い」
「分かりやすいので」
黒瀬。
「反省会は後だ」
「はい」
「現象が続いてる」
モニター。
県警本部の監視映像。
一階。
二階。
三階。
時々。
画面が白く飛ぶ。
その一瞬だけ。
違う部屋。
違う家。
違う場所。
映る。
「大学は」
御厨が訊く。
「今のところ変化なし」
「街は?」
「帰宅行動がまた増え始めてる」
「人数」
「二十六」
朔が見る。
黒瀬。
「倍」
「そうだ」
「俺が」
「因果はまだ決めるな」
黒瀬が遮る。
「ただし、お前が何を言ったかは全部記録しろ」
「はい」
「省くな」
「はい」
「格好悪い部分も」
「はい」
「そこだけ返事いいな」
「怒られてるので」
*
午後一時二十七分。
ましろは。
どこにもいなかった。
鏡にも。
窓にも。
監視カメラにも。
その代わり。
場所だけが増えていた。
三階の廊下。
一瞬。
昭和の団地。
地下駐車場。
一瞬。
砂浜。
取調室。
一瞬。
子供部屋。
どれも。
数秒。
長くても十数秒。
誰かにとって。
懐かしい。
場所。
「これ」
朔がモニターを見る。
「人によって見えるの違います?」
「違う」
御厨。
「同じカメラ映像を全員が確認しています」
「じゃあ外に出てる」
「少なくとも記録には」
玲奈。
「昨日より一段階進んでますね」
澪が別のモニターを見る。
「でも」
「何」
朔。
「どの場所にも、人がいない」
確かに。
家。
ある。
食卓。
ある。
布団。
ある。
靴。
ある。
でも。
誰もいない。
「帰る場所だけ」
朔が言う。
「人がいない」
「誰かが帰ってくる前だから?」
御厨。
「それとも」
澪。
「帰る場所そのものだから」
モニター。
映像が切り替わる。
古い家。
夕方。
玄関。
誰もいない。
でも。
扉。
開く。
白い。
向こう。
何もない。
朔の頭が痛む。
「……」
「伊東さん?」
御厨が見る。
「聞こえる」
「何が」
遠い。
声。
――帰って。
一つ。
――帰って。
もう一つ。
――帰って。
増える。
男。
女。
子供。
老人。
知らない。
全部。
――帰って。
――帰って。
――帰って。
「多い」
朔がこめかみを押さえる。
「何人」
玲奈。
「分からない」
「ましろは?」
「聞こえない」
「声の中に」
「いない」
たぶん。
ましろ。
いない。
代わりに。
みんな。
いる。
帰って。
帰って。
帰って。
どこへ。
誰が。
誰の。
分からない。
そして。
その全部が。
一つの場所を。
作ろうとしている。
「まずい」
朔が言う。
「何が」
黒瀬。
「ましろ」
頭痛。
強い。
「自分の場所、作れてない」
「何が見える」
「みんなの」
白。
家。
学校。
病室。
海。
「全部使ってる」
澪が立ち上がる。
「木」
「何」
「夢で」
目を閉じる。
「見える」
「今?」
「起きてる」
澪の呼吸が浅くなる。
「水城さん」
玲奈が近づく。
「無理に追わなくていい」
「違う」
澪。
「向こうから」
中庭。
木。
巨大。
白い。
枝。
全部。
家。
吊られている。
「家が」
澪が言う。
「木になってる」
朔の頭。
像。
流れ込む。
枝。
無数。
その先。
玄関。
窓。
病室。
教室。
台所。
ベッド。
全部。
帰る場所。
全部。
一つの木。
根元。
ましろ。
小さい。
白。
立っている。
家が。
多すぎる。
声が。
多すぎる。
――帰って。
――帰って。
――帰って。
ましろ。
動かない。
自分の場所。
ない。
「ましろ」
朔が言う。
「伊東!」
黒瀬。
遅い。
白。
世界。
落ちる。
*
目の前に。
家がある。
知らない。
隣にも。
ある。
その隣にも。
団地。
学校。
病院。
海。
駅。
森。
部屋。
廊下。
玄関。
無数。
全部。
繋がっている。
空は白い。
地面も。
白い。
中央。
木。
巨大。
その下。
ましろ。
朔は立っている。
「……」
ましろが見る。
顔。
定まらない。
若い。
幼い。
大人。
一瞬ずつ。
変わる。
「場所」
朔が言う。
「作った?」
――作る。
「これ?」
周囲。
無数の帰る場所。
――場所。
「ましろの?」
ましろ。
止まる。
――わたしの。
少し。
遅れる。
――みんなの。
朔の胸が冷える。
「同じ?」
――同じ。
「違うだろ」
反射的に。
言う。
ましろが見る。
「だって」
朔は周囲を見る。
「これは、俺の帰りたい家も入ってる」
――入る。
「水城のも」
――入る。
「知らない人のも」
――みんな。
「じゃあ」
朔はましろを見る。
「ましろのは?」
沈黙。
声。
帰って。
帰って。
帰って。
ましろの口が動く。
――みんな。
「それは答えじゃない」
――みんな。
「ましろ」
――みんな。
声。
増える。
ましろの声か。
他の誰かか。
分からない。
――みんな。
――みんな。
――みんな。
輪郭。
薄くなる。
「ましろ」
朔が一歩近づく。
――帰す。
「うん」
――みんな。
「うん」
――帰す。
「分かった」
――わたし。
止まる。
――わたしは。
声。
消える。
続かない。
朔は聞こうとする。
何を。
誰を。
どこへ。
でも。
飲み込む。
ましろが自分を見る。
――わたしは。
また。
止まる。
そして。
初めて。
違う言葉。
――帰れない。
朔は何も言わない。
――みんな。
白い手。
胸。
――帰れる。
「うん」
――わたし。
手。
落ちる。
――ない。
場所。
ない。
名前。
音だけ。
顔。
定まらない。
ましろ。
誰かを帰す。
そのためにいる。
自分は。
「……」
朔は周囲を見る。
無数の家。
全部。
誰かの。
「これじゃ」
言う。
「ましろの場所にならない」
ましろが見る。
――なぜ。
朔は答えようとする。
でも。
分からない。
正しい答え。
ない。
「だって」
少し考える。
「全部、借り物だから」
ましろ。
黙る。
白い世界。
木。
揺れる。
――借りる。
「悪いって意味じゃない」
――悪い。
「違う」
強く言う。
「違う」
ましろが止まる。
「人から来たものでも」
朔は言葉を探す。
「自分のものになることはある」
久世の言葉。
榊原の言葉。
御厨の問い。
自分の中に。
ある。
「でも」
朔はましろを見る。
「全部一緒のままじゃ、どれがましろのか分からない」
――わたし。
「うん」
――わたし。
また。
続かない。
木。
枝。
家。
全部。
一斉に。
軋む。
白。
崩れる。
「ましろ!」
ましろが顔を上げる。
その顔。
また。
誰かになる。
母親。
知らない女。
子供。
老人。
澪。
違う。
御厨。
違う。
誰でも。
誰でもない。
――帰って。
声。
何千。
何万。
ましろの口から。
出る。
朔は動けない。
白い世界が。
全部。
口を開く。
――帰って。
第十話 了




