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人形姫は愛されたい  作者: 道雪ちゃん


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9/23

初めてお金を稼ぎました

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

「ゲギャギャギャッ!!」


 歪んだナイフを振り上げ、狂ったようにアスファルトを蹴って迫るゴブリン。


 ――今っ!


 寧々は右手の中指から伸ばしていた糸を、ゴブリンが踏み込んだ瞬間の足首へ絡みつかせる。


 そして、そのまま自分の指先へ一気に巻き戻すようなイメージで動かした。


「ギャッ!?」


 ドンッ!


 鈍い衝撃音と共に、走っていたゴブリンの身体が激しく前につんのめった。


 アスファルトへ顔から叩きつけられたゴブリンは、短い悲鳴を漏らしながらバタついた。


 今しかない。


 怖いとか、考えてる暇なんてなかった。


「っ……!」


 寧々は左右の人差し指を鋭く振る。


 糸で繋がった2本の黒鉄のナイフが、鞭みたいに空気を裂いて飛んだ。


 ザシュッ!!


 ザシュッ!!


「ギャァッ!?」


 1本は脇腹へ。


 もう1本は首元へ深く突き刺さる。


 赤黒い血が飛び散って、ひび割れたアスファルトを濡らした。


 これも、ずっと部屋で箸を使って練習してきた。


 最初はただ振り回すことしか出来なかったけど、スキルレベルが上がってからは、だいぶ思った通りに動かせるようになってきたんだ。


 地面に倒れたゴブリンが、ビクンッと大きく痙攣する。


「……苦しい、よね。ごめんね」


 目の前で血を流して苦しむ姿に、胸の奥でほんの少しかわいそうだなって思う気持ちが過る。



 でも、それだけ。


 先に襲いかかってきたのはそっちだ。


 突き刺さっていた2本のナイフを引き抜き、もう一度、空中で指先を小さく振る。


 今度は迷わず、首目掛けて糸を振った。


 ザシュッ――。


 首を裂かれたゴブリンは、バタバタともがくみたいに身体を震わせたあと、ぴたりと動かなくなる。


 次の瞬間。


 その身体は、紫色の煙みたいにふわりと崩れて、そのまま空気へ溶けるように消えていった。


「……ぁ」


 あとには、ゴブリンがいた場所へ小さな紫色の石が残されていた。


 それから、ゴブリンがさっきまで握りしめていた、錆びて歪んだナイフだけだった。



「これが……ドロップアイテムか」


 寧々は周囲を警戒しながらしゃがみ込むと、それをそっと拾ってリュックへしまう。


 初めての討伐は、思っていたよりずっとあっけなく終わった。


 戦っている最中は、不思議なくらい怖くなかった。


 死ぬかもしれないっていう恐怖は、ちゃんとあった。


 でも、相手を傷つけることへの怖さは、ほとんど感じなかった。


 モンスターとはいえ、ちゃんと寧々と同じように命があった。


「……向いてるのかな、探索者」


 ぽつりと零れた声は、静かな廃墟の奥へ小さく消えていった。





「こ、こんなにもらえるんだ……」


 思わず漏れた声と一緒に、寧々の視線がカウンターの上のトレイへ吸い寄せられる。


 そこに並べられていたのは、15500円。


 探索者ショップの明るい照明を反射して、お札がやけに眩しく見えた。


「極小魔石が15個に、錆びたナイフが7個。初めてにしては出来過ぎじゃないか?」


 カウンターの向こうで、有原さんが感心したみたいに笑う。


 寧々は今日、1層でゴブリンを15体倒して戻ってきていた。


 思っていたよりも、ちゃんと戦えた。


 距離を取って戦う今のスタイルが、ゴブリン相手とはかなり相性が良かったんだと思う。


 結局、一度も直接攻撃を受けることなく探索を終えることが出来た。


 途中で1回だけ、錆びたナイフを投げつけてくるゴブリンがいたけれど、あれも熊太郎でなんとか防げた。


 ナイフが刺さった瞬間はかなりびっくりしたけど、魔糸でがっちり補強していたおかげで、中の綿が飛び出すほどではなかった。


 ちょっとほつれちゃったくらい。


 だから休憩ついでに、その場ですぐに縫い直しておいた。


 まだMPにも余裕はあったし、たぶん、もう少し潜ることも出来たと思う。


 でも今日は初めての探索だったから、無理はしないって最初から決めていた。


 焦って怪我したら意味ないもんね。


 それに――。


 10体目のゴブリンを倒した辺りで、寧々のレベルが1つ上がったんだ。


【名前】枢木寧々

【ジョブ】魔糸使い

【レベル】2


【HP】25/25

【MP】13/13

【筋力】G(2+2)

【耐久】G(2+8)

【敏捷】G(2+3)

【器用】G(14+9)

【知力】G(3)

【魔力】G(11+4)

【運 】G(7)


【装備】

■武器:黒鉄のナイフ(筋力+1 / 器用+2)

■武器:黒鉄のナイフ(筋力+1 / 器用+2)

■頭部:魔糸編みのヘッドドレス(器用+1 / 魔力+2)

■身体①:黒薔薇のゴシックワンピース(耐久+4 / 器用+2)

■身体②:魔糸編みフリルペチコート(耐久+2 / 器用+2)

■靴:黒猫ショートブーツ(敏捷+3 / 魔力+2)

■アクセサリー①:黒薔薇のチョーカー(耐久+2 / 魔力+3)

■アクセサリー②:熊太郎【耐久】12


【スキル】

■操糸術 Lv.2

■裁縫術 Lv.2


「うーん……」


 寧々はスマホに表示されたステータスを見ながら、ちょっとだけ眉を下げた。


 レベルアップって、もっと一気に強くなるものだと思ってた。


 なのに、実際に増えていた数値はほんの少しだけ。


 しかも、全部まだGのままだ。


「……もっと“狩る”しかないのかな」


 ぽつりと呟く。


 すると、有原さんが「ん?」と首を傾げた。


「あ、有原さん」


「どうした?」


「れ、レベルが上がったら、もっと強くなるんじゃないんですか……?」


 そう聞いた瞬間、有原さんが豪快に笑った。


「ガハハ! そんな急に強くなれるわけねぇだろ!」


「ぇっ」


「勉強だって、スポーツだってそうだろ? 裁縫だって、最初から上手く出来るわけじゃねぇ。少しずつ積み重ねて、やっと上手くなるもんだ」


「……た、たしかに」


 言われてみればその通りかもしれない。


 寧々だって、最初から魔糸を上手く扱えたわけじゃなかった。


 毎日ずっと触り続けて、やっと今みたいに動かせるようになったんだ。


「い、今って、一番強い人はどれくらいなんですか……?」


「お、気になるか?」


 有原さんはニヤッと笑う。


「さっき来てた探索者が言ってたぞ。探索庁の公式サイトに、各ダンジョンの進行状況とか、最前線の探索者情報が載ってるらしい」


「そ、そうなんだ……」


 寧々はスマホを取り出して、そのまま探索庁の公式サイトを開いてみる。


「……新宿ダンジョン、3層」


 画面を見ながら、小さく呟いた。


「レベル5……」


 そこには、最前線を攻略している探索者たちの情報が表示されていた。


 一般開放されてから、まだ1ヶ月ちょっと。


 なのに、もうレベル5まで上がっている人がいる。


「すげぇやつがいるもんだなぁ」


 有原さんが感心したみたいに腕を組む。


 その画面を見ていた寧々の胸の奥が、なんだか少しだけムズムズした。


 悔しい。


 こんな気持ち、今まであんまり感じたことなかったのに。


「……ね、寧々も頑張る」


 気付けば、そんな言葉が口から漏れていた。


「おう。でも焦るなよ?」


「……ぇ?」


「寧々ちゃんだって、初探索でこれだけ成果出してるじゃねぇか。焦って無理すると、判断が鈍って怪我するぞ」


「……そ、そっか」


 寧々は少しだけ肩の力を抜く。


「そ、そうですね。寧々は、寧々なりに頑張ります」


「それでいいんだよ」


 有原さんはうんうん頷きながら笑った。


「今日は初探索なんだから、帰ってちゃんと報告して褒めてもらえ」


「は、はい……」


 ママとパパ、褒めてくれるかな。


 パパは最近ずっと帰ってこないし、ママも毎日忙しそうだった。


 でも今日は、寧々が初めて、自分の力でお金を稼いだ日だ。


 きっと、ちゃんと報告したら喜んでくれるよね。


 そんなことをぼんやり考えながら、寧々はバッグを抱え直して、夕方の街をゆっくり家へ向かって歩き出した。

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