ダンジョンに到着しました
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
部屋に置いた姿見を見ながら、寧々は昨日の出来事を思い出す。
「あの……こんな感じにしてください」
寧々が見せたのは、ずっと大好きだったブランドのモデルさん。
黒を基調にして綺麗な赤が混ざる、ゴスロリ調のドレスを着こなした、まるでお人形のように可愛い人。
こんな風になりたい。
今までの弱かった自分から新しく生まれ変わりたいと思って、勇気を出してヘアサロンをネットで予約していたんだ。
胸のあたりまで伸びていた髪の長さはそのままにして、重たかった量と、視線を隠すように伸びていた前髪を綺麗に整えてもらう。
終わった頃には、今までずっと暗闇みたいに真っ黒だった髪が、淡く綺麗な金髪に変わっていた。
「とってもお似合いですよ!本当にお人形みたいで、可愛いです」
そう言って優しく褒めてくれた美容師さんの言葉に、なんだか凄く照れてしまってあたふたしてしまったのは恥ずかしかったけど……。
そして今日、寧々は初めてのダンジョン探索に行くんだ。
改めて鏡の中の自分の姿を見つめると、そこにいる寧々は、確かにあのお人形みたいに可愛い姿をしていた。
自分で一生懸命に魔糸を込めて補強したお気に入りの服を着て、アクセサリーもしっかりと身につけた。
お気に入りのリュックには、有原さんのお店で買った黒鉄のナイフが2本と、回復ポーションも4本しっかり入ってる。
長く伸びた金色の髪は、戦う時に動きやすいように、高めの位置でツーサイドアップにまとめておいた。
「……よし」
しっかりと準備が出来たのを確認して、寧々は熊太郎をしっかり抱えてリビングに向かう。
そこには週末になってやっとお仕事が落ち着いたのか、ソファで身体を休めているママがいた。
「ママ、行ってくるよ」
寧々の声に、こちらへと目線を向けたママが、驚いたように大きく目を丸くした。
「どうしたの……?その髪と服は」
「ふ、服は自分で作ったの。このスキルで」
そう言って、寧々は人差し指からそっと魔糸を出して、テーブルの上にある雑誌に絡めてふわりと持ち上げてみる。
「す、凄いわね……」
あ、ちゃんと驚いてくれた。
一般人であるママの目には、きっとこの魔力の糸は見えていないと思う。
ただ雑誌が突然浮き上がったように見えているはずなのに、取り乱さずにそう言ってくれた。
「か、髪はこの服に合うように。強くなりたかったから」
もう消えそうな声で俯いていた寧々はいない。
ママの目をまっすぐ見つめて、ちゃんと届くようにはっきりと言った。
「そう……、うん。気をつけて行ってらっしゃい」
ママが今どんな感情でその言葉を口にしたのかは分からないけれど、とりあえず今日はそれで十分か。
「行ってきます」
寧々は胸を張って、堂々と玄関の扉を開けた。
◇
上野ダンジョンに到着した寧々は、まず真っ先に、探索者ショップの有原さんのところへ挨拶に向かった。
別にしなくてもいいことだとは思ったけれど、格好いいナイフを教えてくれたし、こんな寧々に普通に優しくお話ししてくれた人だから、どうしても探索を始めることを伝えたかった。
お店の中に入ると、中には本物の探索者っぽい強そうな人たちが何人か集まっていた。
うわ……どうしよう、やっぱり後にすればよかったかな……。
急に怖くなって引き返そうとしたその時、カウンターの奥から「おっ?おぉ!?」という驚いたような大きな声が響いてきた。
声がした方へと視線を向けると、有原さんが目を真ん丸にしながらこちらへと大股で向かってくるところだった。
「何だよ魔糸使いの寧々ちゃん!すげぇ変わったな!最初は誰か分からなかったぞ!」
「は、はい……。ちょっとだけ、気合いを入れました……」
「ガハハ!なかなか似合ってるぞ!お人形さんみたいで、可愛い可愛い!」
嬉しいけれど、声が大きくて他のお客さんの視線が集まっちゃうから少しだけ恥ずかしい。
「あ、ありがとうございます……。今日が初めてのた、探索なので、挨拶に来ました」
あれから1ヶ月もの間なにをしていたんだ?と有原さんに不思議そうに尋ねられたから、寧々は自分の部屋でずっとスキルの練習をしてこの服を作ってましたと、黒薔薇のついたゴシックワンピースの裾を指先でちょこんと摘んでみせた。
「いやぁ……おっさんには詳しいことはわからないけどすげぇわ。スキルレベルはちゃんと上がったか?」
「は、はい。2つのスキルが2レベルになりました。だから今日、ちゃんと行ってきます」
「そうか!わかった。絶対に無理はしないで、気を付けて行ってこいよな!もしダンジョンでアイテムを拾ったら、ここに持って帰ってくるんだぞ!」
寧々は、はいと小さくお返事をして、有原さんにぺこりと頭を下げてからお店を出た。
ドアが閉まる瞬間の背中越しに、店内にいた探索者たちが「なぁ、今の子は誰なんだ?」とヒソヒソと話をしている声が耳に届いてしまう。
……また、前みたいに勝手な陰口を言われちゃうのかな。
一瞬だけ胸の奥がキュッと縮こまりそうになったけれど、寧々はぎゅっと拳を握りしめて首を横に振った。
でも、もうそんなこと気にしないようにするんだ。
寧々は自分の意志で、新しく生まれ変わったんだから。
絶対に、ここから強くなるんだ。
そう心の中で強く思いながら、寧々は金属フェンスの向こう側にあるダンジョンの受付小屋に向かって、一歩ずつ堂々と歩いていった。
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