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人形姫は愛されたい  作者: 道雪ちゃん


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6/22

魔糸の練習が終わりました

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

 家に帰った寧々は、すぐに自分の部屋へ戻ると、買ってきたものを机の上へ並べていった。


 探索者ショップを出たあとに向かったのは、手芸用品店。


 黒いレースに、リボン。


 補強用の布と、たまたま見つけた黒猫のアクセントパーツと、黒薔薇のコサージュ。


 机の上へ並べられたそれらを見ていると、さっきまで感じていた外の疲れが少しだけ薄れていく。


「……かわいい」


 ぽつりと呟いて、寧々は黒薔薇のコサージュを指先でそっと撫でた。


 やっぱり、こういうものを見てる時間は落ち着く。


 探索者ショップに並んでいた、あの銀色でゴツゴツした重そうな金属鎧なんかより、寧々はこっちのほうがずっと好きだった。


「さて、と……」


 小さく息を吐いて、椅子へ座る。


 買い物はした。


 でも、一番大事なのはここからだ。


 そもそも魔力の糸が出せなきゃ、何も始まらない。


 寧々は机の上へ両肘を置きながら、人差し指をそっと前へ向けた。


「……『操糸術』」


 集中しながら、小さく呟く。


 すると次の瞬間。


「……ぁ」


 指先から、細い糸みたいなものがスルスルと伸びた。


 でも、それは普通の糸じゃなかった。


 どこか輪郭がぼやけていて、空気が歪んでるみたいな、不思議な糸。


 まるでモザイクでもかかってるみたいに、現実感が薄い。


「わっ、うわっ!?」


 自分で出したのに、びっくりして変な声が出る。


 慌てながら、その糸へ恐る恐る触れてみると――。


 しゅるり。


「あっ」


 糸は、溶けるみたいに消えてしまった。


「えぇ……」


 思わずしょんぼり肩が落ちる。


 これじゃ縫えないよぉ……。


 でも、さっきの感覚はちゃんと残っていた。


 糸を出した時、なんとなくだけど、自分の中で“こういう糸”ってイメージしていた気がする。


 だったら。


 今度はもっと、ちゃんとした糸を思い浮かべれば――。


 寧々はもう一度集中する。


 強くて。


 細くて。


 ちゃんと縫える糸。


 自分がいつも使ってる裁縫糸を思い浮かべながら、ゆっくり魔力を流す。


「……っ」


 すると、さっきよりもしっかりした糸が指先から伸びた。


 恐る恐る触ってみても、今度は消えない。


「……!」


 少しだけ目が輝く。


 引っ張ってみても簡単には千切れなかった。


 逆に、“ここで切りたい”って思うと、ちゃんとその場所で糸が切れる。


「す、すごい……」


 まるで、自分の指がそのまま糸になったみたいだった。


 寧々はすぐに、自分の裁縫箱を机の横から引っ張り出す。


 昔から使ってるお気に入りの裁縫セット。


 その中から針を取り出して、試しに魔力の糸を通してみる。


 するり。


「……できた」


 普通の糸みたいに、ちゃんと針へ通せた。


 嬉しくなって、そのまま近くにあったクマのぬいぐるみである『熊太郎』のほつれを縫ってみる。


 ちく。


 ちく。


 いつもと同じ裁縫のはずなのに、魔力の糸を使ってるだけで全然感覚が違った。


「た、楽しい……」


 思わず、そんな声が漏れる。


 気付けば寧々は、その日ずっとぬいぐるみ相手に操糸術の練習を続けていた。


 糸を細くしたり。


 長く伸ばしたり。


 途中で切ったり。


 針を使わずに動かせないか試してみたり。


 夢中だった。


 スマホを見る時間も。


 ぼんやり落ち込む時間も。


 寝る時間さえ少し削ってしまうくらいに。


 気付けば寧々は、『操糸術』っていう新しい遊びに、すっかりハマってしまっていた。





そこから寧々は1ヶ月の間、自分の部屋に引きこもって『操糸術』と『裁縫術』を“ずっと”使い続けた。


 毎日毎日、夢中で練習の相手にしていたぬいぐるみたちは、見た目こそいつも通りで変わらないけれど、実は寧々の生み出した魔糸でがっちりと頑丈に補強されている。


 特に、一番お気に入りの熊太郎は凄いことになっていた。


 全体の補強を完璧に終わらせた上に、首の部分には新しく綺麗な青いリボンを丁寧に縫い付けた。


 あの、勇気を出して探索者登録証を取りに行った日に、自分のお小遣いで買った大切な手芸用品たちも、やっと寧々の洋服に取り付けることが出来たんだ。


 大好きなゴスロリ調のワンピースには、買ってきた黒のレースをあしらい、袖口には控えめなリボンを取り付けて、胸元には存在感のある黒薔薇のコサージュもしっかりと縫い付けた。


 ただ見た目を可愛く飾っただけじゃない。


 魔糸を使って補強が出来そうな部分は、表からは見えない細かい裏地まで全て補強してある。


 それから、ワンピースの下に穿くペチコート。


 これもレースを縫い付けて、同じように魔糸を何度も通して補強した。


 もう一つのお気に入りだった黒猫のアクセントパーツだけど、これはお出かけ用のショートブーツの、足首の辺りにワンポイントとして縫い付けてみた。


 最後に、首元を飾るチョーカー。


 これにも統一感を出したくて、黒薔薇の飾りをちょこんと縫い付けた。


 これらは全部、お店で売っているようなただの糸で縫ったものじゃないんだ。


【名前】枢木寧々

【ジョブ】魔糸使い

【レベル】1


【HP】20/20

【MP】10/10

【筋力】G(1+2)

【耐久】G(1+8)

【敏捷】G(1+3)

【器用】G(18+9)

【知力】G(2)

【魔力】G(10+4)

【運 】G(4)


【装備】

■武器:黒鉄のナイフ(筋力+1 / 器用+2)

■武器:黒鉄のナイフ(筋力+1 / 器用+2)

■頭部:魔糸編みのヘッドドレス(器用+1 / 魔力+2)

■身体①:黒薔薇のゴシックワンピース(耐久+4 / 器用+2)

■身体②:魔糸編みフリルペチコート(耐久+2 / 器用+2)

■靴:黒猫ショートブーツ(敏捷+3 / 魔力+2)

■アクセサリー①:黒薔薇のチョーカー(耐久+2 / 魔力+3)

■アクセサリー②:熊太郎【耐久】12


【スキル】

■操糸術 Lv.2

■裁縫術 Lv.2



 毎日頑張って使い続けたおかげで、2つのスキルはどちらもスキルレベルが2に上がっていた。


 その強化された魔糸で隅々まで補強した洋服には、ちゃんと補正値がついてるんだと思う。


 まだ実際のダンジョンに入ってモンスターと戦ったわけじゃないから、本当に強化されているのかは分からないけれど……。


 ただ、一つだけびっくりしたのが、熊太郎がなぜかアクセサリー扱いになっちゃったこと……。


 でも、確かに魔糸だらけになった熊太郎は、他のどの洋服よりもたくさんの魔糸を注ぎ込んで縫い上げている。


 一生懸命に魔力を込めて縫っているうちに、こういう扱いになってしまったのかなって思う。


 部屋にいる他のぬいぐるみたちも、同じように寧々の魔糸だらけになっている。


 それから探索用に持っていくためのリュックも、同じように魔糸を通してがっちりと頑丈に仕上げておいた。


 有原さんのお店で買った黒鉄のナイフも、今では指先から出した魔糸にくくりつけて、思った通りに動かせるようになってきた。


 最初と違って、一度に出せる糸の本数も4本まで増えてくれている。


 探索者になると自分の心に決めてから1ヶ月、部屋の中で出来る限りの準備がようやく整った。


 でも、実際に初めてのダンジョンへ探索に出かけるのは、今日じゃない。


 明日なんだ。


 今日は、寧々が新しく生まれ変わるための最後の準備をする日。


 ずっと部屋に閉じこもっていた、今までの弱かった枢木寧々を、ちゃんと変えるんだ。

ブックマーク、リアクション、評価をしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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