武器を買って相談してみました
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「なんだ、寧々ちゃん。今日は魔石だけか?」
上野ダンジョンを出たあと、そのまま隣の探索者ショップへ向かう。
いつものように買取カウンターへドロップ品を置くと、有原さんが魔石を見ながら首を傾げた。
寧々は少しだけ得意げな気分になって、トレイの上を指差す。
「有原さん、よく見てよ」
「ん?」
有原さんが魔石を手に取ると次の瞬間、目を丸くした。
「……お、おお!? 中級魔石じゃねえか!」
勢いよく顔を上げた有原さんが、まじまじと寧々を見る。
「ってことはボスか何か倒したのか?」
「うん、10層のボス」
少しだけ胸を張る。
「すごい?」
そう聞くと、有原さんは数秒固まったあと、大きく息を吐いた。
「すごいなんてもんじゃねえよ……」
呆れたような顔をしていたけど、その口元は少し笑っていた。
「初めて来た頃は、糸を使って戦うって聞いて心配してたんだけどな」
「そうだったの?」
「そうだったよ。正直、危なっかしいお嬢ちゃんだと思ってた」
失礼だ。
ちょっと頬を膨らませる。
そんな寧々を見ながら、有原さんは懐かしそうに笑った。
「それが半年で10層ボス攻略だろ? なんか娘の成長を見守ってるみたいで感慨深いわ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。
パパの顔が浮かぶけど、すぐに頭を振って追い出した。
「……おじさん」
「自覚してるからノーダメージでーす」
即答だった。
あまりにも自然に返ってきて、思わず吹き出してしまう。
「ふふっ……」
「お、笑ったな」
こういうところはずるいと思う。
変に気を遣わないし、無理に踏み込んでこない。
だから話しやすいんだろうな。
寧々は今日の出来事を話したんだ。
死霊使いになったこと。
死霊使役のことと、死霊縫合のこと。
そして素材を売らずに持ち帰ろうとしている理由。
「なるほどなぁ」
有原さんは腕を組みながら何度も頷いた。
「つまり素材は全部強化用ってわけか」
「うん。服もぬいぐるみも強くしたいし」
「徹底してるな」
褒められた気がして少し嬉しい。
それから今後の装備について相談すると、有原さんは何か思い出したように手を叩いた。
「あー、だったらちょうどいいのがある。こっち来な」
案内されたのは武器コーナーだった。
棚の奥から一本の短剣を取り出す。
白い鞘に、白い柄。
そして真っ直ぐ伸びる銀色の刃を見た瞬間、目を奪われた。
「うわぁ……」
綺麗。
その一言が真っ先に浮かんだ。
黒く不気味なブラッドサースとは正反対。
まるで雪みたいだった。
「白牙の短剣ってやつでよ、知り合いの鍛冶師に卸してもらった」
寧々は手に取ってみると重さも悪くない。
握りやすいし、何より可愛い。
それが大きい。
「どうする?」
「3本ください」
「即決!?」
「これがいい」
本当にそれだけだった。
有原さんは頭を抱えた。
「3本って……うちの在庫全部じゃねえか」
そう言いながらも、どこか楽しそうだった。
「まあいいや。用意するから待ってろ」
レジの準備をしながら、有原さんがふと思い出したように口を開く。
「そういや最近よ」
「ん?」
「寧々ちゃん目当ての探索者、増えてるみたいだぞ」
なんだろう、嫌な予感がする。
「ここで売却してるだろ?」
「うん」
「その時に見てんのか、ダンジョンからついてきてんのか知らねえけど、寧々ちゃんについて聞かれるんだわ」
思わず眉をひそめる。
「どんな子ですかーとか」
「へぇ」
「彼氏いますかーとか」
「……」
「どこ住んでますかーとか」
「気持ち悪い」
反射的に出た。
本当に気持ち悪い。
好きとか嫌いとか以前の話だ。
そんなことを聞くために人に迷惑をかけるなんて意味が分からない。
「あぁ……迷惑かけちゃってたんだ」
少し申し訳なくなって頭を下げる。
「ごめんなさい」
「だからなんで寧々ちゃんが謝るんだよ」
有原さんが苦笑する。
「悪いのはそいつらだろ」
そう言われると確かにそうかもしれない。
「でもよ」
有原さんは肩を竦めた。
「有名になったってことだ」
「有名……」
「これからもっと増えるぞ」
嫌だなぁって素直にそう思った。
寧々は別に人気者になりたいわけじゃない。
変な人に囲まれたいわけでもない。
「迷惑をかける人は嫌いです」
「おう」
「無視します」
「ガハハハ!」
有原さんが豪快に笑った。
「そのほうが寧々ちゃんらしいや!」
結局そのまま白牙の短剣を3本受け取る。
綺麗な刃を眺めながら満足していると、ふと思い出したことがあった。
「そういえば有原さん」
「ん?」
「寧々って裁縫はできるけど、デザインって考えたことないんだよね」
今まではずっと感覚だった。
可愛いと思うものを作る。
好きなものを縫う。
ただそれだけ。
「どうしたらいいと思う?」
有原さんは数秒考えたあと、苦笑した。
「おっさんの俺に聞くなよ」
「でも有原さん色々知ってるし」
「まあな」
ちょっと嬉しそうだった。
「服飾士とか鍛冶師の連中を見てるとよ、みんな勉強してるぞ」
「勉強?」
「本を読んだり、店を見たり、人の作品を見たりな」
有原さんは棚に並ぶ商品を指差した。
「スキルでそれなりに作れるけどよ、急に頭の中から出てくるわけじゃねえらしいんだ」
なるほど。
「いっぱい見て、いっぱい知って、それで自分の形にしてるって感じか」
「そんなもんだろ」
寧々は少し考える。
今日は手芸用品店に行く予定だった。
でも、本屋さんも服屋さんも行った方がいいかもしれない。
見たことのない服に見たことのないデザイン。
そういうものを知れば、もっと可愛いものが作れるかもしれない。
「……うん」
やることがまた増えたけど、不思議と嫌じゃない。
むしろ少しワクワクしている。
新しい服に新しいぬいぐるみ。
新しい素材に新しいデザイン。
考えるだけで楽しくなってくる。
「あぁ……」
思わずため息が漏れた。
「本当にやることいっぱいだなぁ……」
でも、その声は少しだけ楽しそうだったと思う。
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