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宴の席では

その頃、維心、炎嘉、焔、志心は会合の宮の大広間に到着していた。

ざわざわと談笑していたのに、四人が足を踏み入れるとシンと静まり返る。

全員がこちらを見て、固まっていた。

そんな事には慣れている維心が、一段高くなっている席へと歩くと、そこに居る神達が全員立ち上がった。

維心は、言った。

「邪魔をしてしもうたな。構わず続けるが良い。酒は蔵を開いておるゆえいくらでもある。とはいえ、明日の会合には皆出られるようにせよ。明日も宴はあるゆえの。」

皆が頭を下げた。

そうして維心が座ると、皆が座ってまた、思い思いの話を始めた。

維心の隣りに座った炎嘉が言った。

「またようけ居るなあ。あっちに匡儀達が集まっておるぞ。匡儀、彰炎、英鳳、頼輝、誓心、宇州…此度は全員居るの。お、彰炎が我に手を振っておる。」

炎嘉はそれに手を振り返している。

維心が、言った。

「こら。子供でもあるまいに。皆の前で恥を晒すでないわ。挨拶したいなら行って参れ。」

炎嘉は、眉を寄せた。

「別に良い。通り道に西の果ての神もおるし、いちいち一人一人話さねばならぬようになる。それは明日で良い。」

志心は、言った。

「…北も多くが来ておるようよ。ほう、あれがヴァルヴァラとかいう神か。」

維心はそちらへ目をやった。

多くの王達の後ろに、マトヴェイとエフィムに挟まれて確かに女神が座っている。

維心は、言った。

「…若いの。あれではあの中に立ち交じるのは難しかろう。エフィムと話しておるようよ。」

焔が、言った。

「見た目だけは美しいしあれなら爪弾きにされる事はあるまい。庇う神が多そうよ。とはいえまだ馴染んでおらぬのは、あの様子で窺える。」

炎嘉は、言った。

「まあ、これからよ。本日はその初め。上手く立ち回れたら良いの。」

ヴァルヴァラは、まだエフィムと話している。

壇上の王達は、そちらを気にしながら酒を進め始めた。


ヴァルヴァラは、入って来た神達に息を飲んだ。

…あれが島の神か。

まだ全員が揃っていないようでたった四人だったが、その四人が半端なく気が大きく、そしてかなり美しかった。

エフィムが、言った。

「あの、先頭に居るのが龍王ぞ。」と、龍王が壇上に立ったのを見て、立ち上がった。「そら、何か話すぞ。」

龍王は、それは低く通る声で、言った。

「邪魔をしてしもうたな。構わず続けるが良い。酒は蔵を開いておるゆえいくらでもある。とはいえ、明日の会合には皆出られるようにせよ。明日も宴はあるゆえの。」

皆に倣って頭を下げたヴァルヴァラだったが、自然に顔が赤くなる。

こんな神が世に居たのかと身の内に震えが走る心地だ。

こんな神に、懸想こそすれ敵対しようと思うた、祖先の気持ちが分からない。

ヴァルヴァラが思っていると、皆が座ったので、ヴァルヴァラも座った。

エフィムは、言った。

「島の神の中でも、唯一誰も敵わぬ力を持っておるのがあの龍王よ。こちらのドラゴンでもあそこまでの力はないし、なので友好的にしておるのが一番良いのだ。龍王とヴァルラム殿は上手くやっておる。ゆえ、主も面倒など起こさぬように、臣下をよう見ておくがよい。そもそもアマゾネスが滅びたのは、主らの奴隷という価値観が神道的に良うないと判断されてあの龍王が出て参ったから。種族の命など、龍の前では風前の灯火よ。二度と間違いのないように、もし龍に反意ありと見たら注意しておくが良い。主の治世を円滑に回すためぞ。」

ヴァルヴァラは、頷いた。

元より、自分は新参者でこの中ではかなり若い部類に入る王だし、龍に逆らうどころか気に障ることすらするつもりはない。

ただ、アイーシャなど母の時代から仕えた記憶のある軍神は、未だに龍に対して感情的に軋轢を持っているようなので、そちらは確かに要注意だった。

…アンジェラにも、そこは話しておかねばなるまい。

ヴァルヴァラは、そう思いながら檀上の神達を見つめていた。

すると、ヴァルラムがこちらを見て、声を掛けて来た。

「…何をそんな後ろに。マトヴェイ、話さぬか。」

マトヴェイが、頷いて立ち上がろうとすると、ヴァルラムの方から立ち上がってこちらへやって来た。

格上の神からこちらへやって来るなど、と皆が驚いて道を空ける中、ヴァルラムはこちらに座る、マトヴェイ、ヴァルヴァラ、エフィムの前に腰を下ろした。

「せっかく来ておるのに、話しぐらいはの。」

マトヴェイが、慌てた様子で言った。

「だが、あちらに皆居るのに。相手をせぬで良いのか。我が参るが。」

ヴァルラムは、笑って手を振った。

「同じことばかり話しておってつまらぬのよ。後はサイラスが何とでもやりおるわ。それより、主が連れておるヴァルヴァラを紹介せぬか?」と、ヴァルヴァラを見た。「初めて顔を合わせるの、ヴァルヴァラよ。書状ばかりで対面したことがないゆえな。主は戴冠式も開くことなく、王座についてすぐに政務を始めておるだろう。」

ヴァルヴァラは、頭を下げた。

「書状ばかりで失礼を。我がヴァルヴァラでございます。」

ヴァルラムは、会釈を返した。

「エミーリアになった時にはどうなることかと思うたが、主は賢明に立ち回っておるようぞ。」と、エフィムを見た。「エフィムはもう、見限ってしもうてあの地に戻りとうないのだの。ならばヴァルヴァラが面倒を引き受けてくれて、良かったということか。」

エフィムは、答えた。

「は。誠にそのように。なので、我が知ることは伝えて参っておる次第です。ヴァルヴァラは、父が治めきれなかったアマゾネスたちも上手くまとめてくれておるようですので。」

ヴァルラムは、頷いた。

「良いことぞ。とはいえ」と、ヴァルヴァラを見つめた。「我はかつてのアマゾネスの事をよう知っておるからこそ申すが、あれらは優秀であったが愚かだった。その流れの中で軍神を続けておる女達は、その頃の意識が抜け切れておらぬ可能性がある。ゆえ、主が己の治世を正しく繋げて行こうと考えておるのなら、無駄な事を己自身がせぬことも重要だが、己の配下が面倒を起こさぬように、しっかりと監督するのも必要ぞ。我の口からは言わぬが…漏れておることもあるぞ。」

ヴァルヴァラは、え、とヴァルラムを見上げた。

「それは…我が軍神が、ご迷惑をお掛けしておると?」

ヴァルラムは、首を振った。

「我は特に迷惑は掛けられておらぬ。が、現に他でそのような事を伝え聞いておる。主の代になってからはないようだが、エラストの治世の時に、何やらあったのが後を引いておるようなのだ。ゆえの、主は全てを把握して、それらをどうにかする必要がある。帰ったらしっかり調べておくが良い。己の眷族が行ったこと、全て王の責任を問われる事になるぞ。分かったの。」

ヴァルヴァラは、眉を寄せた。

ということは、やはりアイーシャや死んだアナスターシャ、それにダリヤなど昔から居る母に仕えた軍神達は、自分の指示以外のところで何かしでかしているのかもしれない。

それが、今になって表面化している可能性がある。

「こら、ヴァルラム!」サイラスの声が、割り込んだ。「何をしておる!己だけ逃れおってからに!戻って来い!」

振り返ると、サイラスが多くの神に囲まれた状態で、こちらを見て叫んでいた。

ヴァルラムは、苦笑した。

「ああ分かった分かった。」と、立ち上がった。「ではの。我から言えるのはここまでぞ。ではな。」

ヴァルラムは、またもと居た場所へと戻って行った。

ヴァルヴァラは、その背を見送りながら、じっと考え込んだ。

…アンジェラは、知らぬのだろうか。

ヴァルヴァラは思った。

自分と同じぐらいの歳とはいえ、アンジェラはいつもあれらと共に行動していて、時に指示を受けてあれこれしていたようだった。

詳しいことはこちらが聞かねばアンジェラは言うことはないが、この前のアナスターシャの件の時も、宿舎を調べに参ると言っていたのに、わざわざアイーシャに言われて洞窟の方へと調べに行っていた。

ヴァルヴァラはそれを結界内に見ていたが、あの洞窟の中だけは、霧のせいで中まで見通すことができない。

もし、それがわざと自分に見せないようにしているとしたら…?

ヴァルヴァラは、まさかアンジェラさえも信じる事ができないのか、と、更に孤独感に苛まれていたのだった。

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