第百二十五話
男はエクセリスという枢機卿と繋ぎを取るというので、立花は自分に繋がる念話の魔道具を渡した。
情報に対する報酬はその場の飲み代だけでいいという事で、多めに支払ってから渓谷に戻る。
転移してすぐに厚手の服を着こみながら、倉橋はため息をついた。ある程度わかっていたが、重たい話に気が少々滅入ってしまった。そろそろお昼になるので、三人とも帰ってくる。それまでに表情を取り繕っておかないとなと頬を叩く。
「叩きすぎだろ」
バシンといい音をさせて頬を叩く倉橋に苦笑して、赤くなったその頬に治癒を施す立花。
「あ。どうも。いやーなかなかの内容だったので……私平社員だからあぁいう権力闘争というか派閥争いというか、そういうごたごたに縁が無くて」
「俺も無いよ」
「立花さんも?」
「うちの会社にそういうのはあんまり無かったからな。強いて言えば営業部と開発二部の部長がいがみ合ってるぐらいで。それもそれぞれ売り込みに凌ぎを削ってる営業と技術屋の開発の思想の違いからくるようなもんだしな」
「へー」
「それはともかく、午後は北のギルドに話を聞きに行くが俺一人で行こうか?」
「いえ、行きます。殿下を一人には出来ません」
「そこまで心配は要らないと思うが」
「殿下の貧弱さは私が一番理解していますからね。譲りませんよ」
一応身体が大きくなってからは普通に歩けるし、走れる。体調もそこまで崩しやすくないと思っている立花だったが、それが倉橋なりの行きたいという主張方法なのでわかったよと言うに留めた。
「あーなんか今日はカレーうどんが食べたいです」
「じゃそれにするか。ボルシチ風の煮込みと固まり肉の窯焼きつけて」
「あぁいいですねぇ。私こっちにきてからすっかり肉食ですよ」
「出汁巻き卵と豆腐だもんな」
「それは、飲みの時限定です。普段はもうちょっとちゃんと食べてますよ」
笑って言う立花に口を尖らせる倉橋。
小屋に戻ってからなんだかんだ二人で言いながら昼食を準備していると、フレイミーからコロッケのオーダーが入り、また時間のかかるものをと思いつつもちゃんと準備する立花。
いきなりコロッケを作り始める立花に、倉橋も気づいて聞けばフレイミーからの希望と知り苦笑しながら手伝った。手間はかかるのだが、二人とも今はフレイミーの希望は叶えてやりたい気持ちだった。
「只今戻りましたー!」
元気よくフレイミーが扉を開けて戻った瞬間、立花はクリーンをかけてテーブルを指さした。
「ちょうど揚げたてだから熱いうちに食べよう」
「うわっ! カレーうどん! コロッケに肉! めっちゃ豪華!」
「カレーうどんは小分けにして倉庫に入れてるから欲しい人は言って」
「はい! 欲しいです!」
「じゃこれどうぞ」
目を輝かせてカレーうどんを受け取ったフレイミーはさっそく席についた。そこに倉橋がコップを渡す。
「飲み物は自分でお願いしますねー」
フレイミーに続いて戻ってきたエンデとテルミナにもクリーンをかけ、立花も後片付けを終えてテーブルについた。
「はい、コップ―。いきわたりましたよね。じゃいただきまーす」
倉橋が手を合わせて言えば、フレイミーもそれに続き、エンデとテルミナも切り分けられた肉に手をつけた。
「エンデ、索敵はどこまで伸びた?」
「今のところ二キロ手前だな」
索敵としては十分優秀な部類に入った事を告げるエンデ。
「かなり伸びたな。どうする? あと少しいけそうだけど」
「フレイミーとテルミナがいいなら、付き合ってもらいたいが」
「俺はもちろん付き合いますよ」
「こっちもいいぞ。……下手な訓練してるより楽だし」
ぼそっと付け加えるテルミナ。
聞こえている立花は内心苦笑しながら聞こえなかった振りをして、じゃああともう少し今のやり方でいこうかと返した。
「あーほくほく……俺ジャガイモ好きなんですよね~フライドポテトも好きだけどポテトサラダとかコロッケとか蒸かし芋とか」
コロッケに一番に手をつけてあちちと言いながらどんどん口に入れていくフレイミー。その幸せそうな顔に、ついつい立花は頬が緩んでしまう。
倉橋もカレーうどんを啜らないように気をつけながらその様子を窺い、内心立花と同じように頬を緩めていた。啜らないのは以前テルミナに、それは無いんじゃ……的な目を向けられたからだ。その時食べていたのはソバだったのだが、ここは啜る文化が無いのかとそれ以来不快を与えないように大人しくハムハムと食べている。
「それ、カレーだよな?」
「カレーをうどんにかけた、カレーうどんです。おいしいですよ」
テルミナが倉橋の食べるそれが気になり、立花に目をやる。
「食べる?」
「少しでもいいか?」
「じゃ半分にしようか」
空の器を出してから立花は倉庫から出したカレーうどんをよそった。
どうぞと言って立花が出したお椀サイズの器を受け取り、テルミナはフォークで持ち上げて口に入れた。
「……白いのは初めて食べるな」
もちもちとしている食感のうどんに感想を言うテルミナ。
「こっちにはパスタ系の麺が多いですからね、うどんは俺も見た事ないです」
フレイミーもコロッケ熱が落ち着いたのかカレーうどんに手をつけていた。
立花も食べようかと思ったが、エンデの視線に気づいた。
「……出そうか?」
「いや、それを貰えるか?」
フレイミーと分けた残りを指さすエンデ。テルミナと同じで少しでいいらしい。
立花が渡すと、エンデもテルミナと同じようにフォークで持ち上げて口に入れ、もちもちとした食感を味わった。
真面目な顔をして食べるエンデに、立花は笑いをかみ殺した。
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