第百二十三話
立花が元気になったので訓練も再開となり、もう少し索敵が伸びそうなエンデに付き合ってフレイミーとテルミナが追い込みをかけた。その間に立花と倉橋は事前に調べていた大物を数体狩った。
夕方には立花とエンデで体術の訓練をし、夕食後はしばらく休憩してから倉橋ステージ&特性ドリンクの日課をこなす事数日。立花にグリッドから念話が入り、立花は三名が鬼ごっこしている間にこっそり倉橋を連れてケアノスへと転移した。
場所はメーアの近くで、リキオンという街。そこも白い壁が中心の街中に水路が設けられた見た目は観光地のような街だ。
街から少し離れたところに転移した二人は、そこで服装を風通しのいい涼しいものに変え、立花の方はさらに結界内の空調を整えた。暑い寒いを繰り返すと体調を崩すと倉橋に言われたからだ。
「じゃ、行きますか。宿にいるんですよね?」
「あぁ」
街に入り、ちょっと露店に目を奪われつつグリッドから聞いた宿を探してうろつき、目印の貝と魚が躍っている看板を見つけて入った。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
日焼けした小麦色の肌の恰幅のいい女性が入ったところで声をかけてきた。
「いえ、アルトンの連れなんですが、先に来てますか?」
「あぁアルトンさんね。聞いてるよ。じゃあこっちだね」
カウンターの向こうから出てきて先導してくれる女性についていくと食堂だった。
そこでまばらな客の中、あそこだよと女性が示す先には端のテーブルで一人酒を飲んでいる女性がいた。紫がかった赤い髪を後ろで雑に縛り、薄手の白いローブを羽織った華奢な姿。酒が入っているせいか物憂げな表情で、綺麗なのにどことなく近づきがたい雰囲気がある人だった。
〝あれ? 女性? 男性のはずですよね?〟
〝いや、あれで男だ〟
〝え。あれ男性です?〟
〝鑑定では〟
〝ははー……〟
近づきがたい雰囲気なんてなんのその、立花と倉橋はすたすたと近づいていって声を掛けた。
「目当ての酒は飲めましたか?」
あらかじめ聞いていた符丁を立花が言うと、カタリと木で出来たカップを置いて視線が動いた。
「ふぅん? 思ってたより若いね」
少し掠れたハスキーな声は男性とも女性ともとれない曖昧な声だった。
視線が動いて向かいの椅子を示したので、立花と倉橋はそこに座った。
「何か飲むかい?」
何も頼まないのも店に悪いので、立花はお茶と軽食を頼んだ。倉橋の酒に注がれる視線は黙殺した。
「てっきり、どこかの国が介入しようとしてるのかと思ったけど。そもそも私に声を掛けるんじゃおかしいか」
ひっそりとした呟きに、立花はおや?と思って聞き返した。
「教会に介入しようとしている国があるんですか?」
「今はどこもそうさ。これまで効いていた権威が騒動のせいで効かなくなっているんだ。今まで金を巻き上げてきたつけもあって自国に有利な教会組織に変えようとあの手この手でくるから上の連中はてんてこ舞い。幸いケアノスは神が降臨されたとあって民意が教会寄りになったから安定してるんだけどね」
そこで言葉が切れ、見計らったようにお茶と軽食、魚と芋の揚げ物と炒った木の実が置かれていった。
「で、あんたたちは何を聞きたい?」
「今までの教会の組織体系と、現在の組織体系を教えていただきたいです」
「大雑把だな……具体的には何を知りたいのさ」
「……まずは誰が教会の方針を決めているのか、誰が教会として公表する内容を決めているのか、そこからです」
「あぁそれなら簡単だ。今は豊穣の女神のとこの枢機卿アルカナムで、事が起きる前は戦神のとこの枢機卿グレイズだ」
「勇者が派遣される先についてもそのグレハムという方が決めていたのでしょうか」
ぴたりと、カップを傾けていた手が止まった。
「あんたたち、北の出身か? あぁいやいい。言わなくて」
手を振り、はぁと溜息をつく。
「それを聞いてどうするんだ? もうグレイズは教会内で力は持っていない。ただの老人と同じだよ」
「いえ、個人にどうのこうのする気はありません。状況をまず知りたいだけなので」
「……聞いてもあまりいい気分にはならないよ」
「それは仕方ないと思っていますから」
一瞬、あっさりとした物言いの立花に不思議そうな顔をしたが、すぐに首を振って詮索を止めたようだった。
「勇者を見出したのは、今から十年前。しばらく勇者不在の期間が続いていたから教会は喜びに沸いた。そして早急に勇者を鍛える事が求められ、戦神の枢機卿グラハムの預かりとなったんだ。そこが一番教会騎士の数も揃っていたし戦力的にも優秀だったから。
当時七歳だった勇者は大人に混じって訓練させられて、何度も死にそうな目にあったと聞いてる。魔物の巣に放り込まれた時はさすがに批判が集まったんだけど、十二歳になった頃に悪魔が現れて、それを見事に倒した事で無茶な訓練も必要だったと批判する者達を一掃してしまったけどね。
そこからはグレイズの指示に従って金を詰む国に貸し出されるようになった。中には魔物の討伐ではなくただ見世物として呼ばれたのもあったよ。それでも勇者はものを知らないからか、それともそう教育されていたからか大人しく従っていた」
一度酒を口に含み、湿らすように飲み込んでから疲れたようなため息を吐く。そこから先は気が重いのか、視線をカップの中の酒に落としてさらに声を潜めた。
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