第百二十一話
目的地の渓谷に問題なく到着し、いつも通り結界を張って拠点を作成した後に神獣を放ち、訓練を開始する。
そして現在、おひとり様用の結界内で一人暖を取る立花の前で雪が厚く積もった上にガタガタしながら震えている三名がいた。
もちろんフレイミー、エンデ、テルミナの三名で、敢えて薄着で雪の上に座る光景は見た目的には罰ゲームだとか説教だとか、そういうシチュエーションに見えるが立派な訓練の最中だ。
「あ……あと、どの、くらい?」
歯の根をカチカチさせながら訪ねるテルミナに、立花は丸一日ぐらいですと無情にも答えた。
確実に風邪を引くと思っているテルミナだが、そうではない。凍死するレベルだ。それを状態を見極めながら治癒を施し、維持させている立花。
目的は冷気耐性で、きっかけはテルミナの言葉だった。
渓谷は地形の影響でか、他のところよりも一段気温が低く息を吸うだけで肺が凍りそうなところだった。今ではほとんどの魔法を無詠唱で行えるテルミナだったが、こんなところで普通に戦うのはかなり厳しいだろうなとこぼし、それを聞いた立花がじゃあ冷気耐性つけましょうかと言って、現在の流れとなっている。
一人冷気耐性のある倉橋は現在周囲の魔物狩りに勤しんでおり、テルミナは己の発言を深く後悔していた。倉橋と組んででも魔物狩りをしていれば良かったと。
フレイミーとエンデは一言も発していないが平気なわけではなく、顔を青白くし鼻先だけは冷たい空気で赤くなりながら耐えていた。
「じょ……じょう、ちゃん、も、こんな、こと?」
カチカチ言ってうまく言えないテルミナだったが、意味はわかり立花は首を傾げた。
「どうでしょう? こちらにきて私が気づいた時には耐性を持っていましたから」
どうやって得たのかはわからないと答える立花に、知ったところで現状は変わらないかと思うテルミナだった。
途中、倉橋が戻ってきて低体温症一歩手前の三人に、ドン引きしていた。
そしてそれを見守り管理している立花にも、ドン引きしていた。
倉橋自身はどうやって冷気耐性を得たのか知らないので、ここまでしないといけない事だとは思っておらず、スパルタを通り越した現場を避けるようにして小屋に入った。
「い、いまっ……じょう……ん、引い、て…」
「あぁ……まぁ、ここまでしないといけないと思って無かったんでしょう。気にしないでください」
冷気耐性は、耐性系の中でも比較的取得しやすい部類に入るのだが、それでもやはり生命の危機に瀕するレベルの負荷が必要で、負荷を弱めると取れなくなってしまう。
それは長年北の大陸にいたであろうフレイミーですら取得していない事で明白だ。ある程度耐えられる寒さでは取得出来ないのだ。
立花が状態を絶妙に維持しているせいで、眠くなることもなく、感覚が遠のくこともなく、ただただ痛い冷たさを味わう三名。
一番最初に解放されたのは、テルミナだった。
夜半過ぎに立花に取得出来ました、お疲れさまです。と言われて一瞬わからなかったが完璧に治癒を施されて思考がクリアになり、よっしゃーー!と飛び上がって一目散に小屋へと走っていった。
思わずそれを羨ましそうな目で見送る二人に、立花も苦笑してあと少しですよと応援した。
小屋の中へと飛び込んだテルミナは、まだ起きていた倉橋に暖かい雑炊をもらってスプーンでかきこみ、人心地ついていた。
倉橋は立花にも雑炊を持っていこうとしていたが、さすがに頑張っている人の前でそれは食べられないと立花に断られていた。
また倒れなければいいんだけどと倉橋が心配する中、おおよそ一時間後ぐらいにエンデが解放され、最後のフレイミーは明け方近くまでかかった。
立花はフラフラしながら治癒されてもよろよろのフレイミーと小屋に戻り、ずっと待機していた倉橋に雑炊をもらって口にしてそのまま寝た。
「……やっぱり体調崩しましたね」
案の定というか、暖かくしていたとはいえ完徹した立花は体調を崩し熱を出した。
「いや……コルディアさんのところで完徹したけど平気だったから、いけるかと……」
「その時とは周りの環境が全然違うじゃないですか」
「一応、暖かくしてたし……」
ベッドの上で顔を赤くして目を潤ませている立花。
下手に治癒してもともとの治癒能力を下げたくないので、魔法は使用していない。
普段冷静な表情しか見せない立花に、他の三人はちょっと落ち着かない様子だった。
「すまない。私たちが――」
「違いますからね」
思わず謝るエンデを遮る倉橋。
「どうせ殿下は最短コースでやろうとしたんです。
何度かにわけて安全にやる方法だってあったのに、やらなかったのは殿下ですから。みなさんが気に病む必要なんてこれっぽっちもありませんよ」
事実なので、立花は反論出来ずに黙り込む。
「殿下の事は気にしなくていいですから、周りを見てきてもらえますか? 体調が戻ればまた訓練を再開するでしょうし」
倉橋の言葉に三名が立花を見れば、立花は目を閉じたまま頷いていた。
「わかった。なら様子を見てくる」
そう言って外へ出ていき、小屋は二人きりとなった。
倉橋はベッドの傍に椅子を持ってきて、胡乱気な顔を立花に向けた。
「どうせ、みんなに負担が一番少ない方法で、とかって考えたんでしょ」
「………」
図星なので、これまた黙り込む立花。
一週間ほど期間を設けてやる方法もあったが、さくっと終えた方が負担が少ないかと思ってやったのだ。
「今度やるときは、まず自分が寝込まない方法でという条件をつけといてくださいよ」
ちょっと案じるように言われて、はい、以外の言葉を言えるはずもなく、立花は熱に浮かされたまま布団を口元まで被って、小さく返事をしたのだった。
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