第百二十話
思いがけない話に、固まる二人。
「気にしないでください。もう慣れましたから」
そんな二人を見てフレイミーは手を振った。
〝慣れたって……慣れていい事じゃないと思うんですけど〟
〝そう思わないとやっていけないんだと思うが〟
〝だって、フレイミーさん知らされてなかったんですよね?〟
〝そうだとしても、知り合いからすれば『なんで』ってなるのかもしれない。滅ぼされてるなら尚更。気持ちを持っていくところが無くて〟
〝悪いのは教会でフレイミーさんじゃないですよ〟
〝どこまで地元が認識してるのか知らないからなんとも言えないな……〟
仮に知らされて無かったと知っていて、それでもフレイミーが責められているのなら、教会という大きな組織を責めるより個人を責めるほうがリスクが無いからなのだろうと想像して、何とも言えない重苦しさが胸に広がる立花。
教会とは距離を取ろうと思っていたが、そんな事情を聞くと少し考えを改めないといけないかもしれないと考えた。
「……正直、慣れて欲しい類ではないですが、わかりました。この話は終わりにしましょう」
まずはその地元がどこで、どういう話が広まっているかが先だなと思う立花。
話が終わった事でちょっとほっとするフレイミーに、倉橋は情けない顔になりそうになるのを抑えた。
〝殿下、なんとか出来ないですかね……〟
〝出来るかどうかはわからないが、まずは情報収集からだ〟
〝あ、動くんですね?〟
〝そりゃお前、こんなの聞かされてほっとけるわけないだろ〟
〝さすが殿下です〟
〝何がさすがだ〟
念話でちょっと持ち直した倉橋は、話を変えた。
「ところでフレイミーさん、度数の高いお酒があるって言ってましたよね」
「あぁ、はい。雪が積もるところは大体ありますよ。寒いので」
変えるにしても酒かい、と思う立花。
「それって蒸留酒です?」
「蒸留……って、なんですか?」
「お酒を熱っしてアルコール分を抽出する事です。アルコールだけ集めるので、それで度数が高いお酒になるんですよ」
あぁなるほどと納得して、それから首を傾げるフレイミー。
「たぶん、その蒸留酒です。作ってる工房は薪をよく使うって言ってましたから」
「原料は何を使っているんです?」
「えーと、クロウス、じゃがいもみたいなのと、ファスティ、麦みたいなのだったと」
「蒸留した後に何かで濾したりしてます? それとも薬草みたいなのを加えたりします?」
「えー……と。味は特にクセの無い感じだったと思いますが、濾してるかどうかは」
「ジンじゃないですね。どちらかというとウォッカかな。
チューハイとか作れそうですよ殿下」
「倉橋、度数弱めても飲むなよ」
「駄目ですか」
「駄目だろう」
目と目による攻防戦を繰り広げている間にも、立花はこっそりグリッドと念話を続けていた。
〝教会関係者で利害なく話が出来そうな相手ってなると、そう多くはないが……まぁ声をかけてみるわ〟
〝ありがとうございます。あと北大陸のギルド関係者で、話が聞けそうな方もいませんか?。
〝話って、どの方面の話だ?〟
〝フレイミーさんの話です〟
〝勇者の? 何かあったのか?〟
〝フレイミーさんは特に何もないですよ。元気にやってます。ただ私が気になる事が出てきまして。それの確認です〟
〝……あんまり首を突っ込み過ぎるなよ〟
〝ほどほどにしておきます〟
〝マルケドナってとこのギルドマスターは俺の知り合いだ。
お前に貰った念話の魔道具を渡してる相手だから、知らせといてやるよ〟
〝ありがとうございます。訪問はニ、三週間先になると思います〟
〝じゃ、そう言っとくわ〟
念話を切って、溜息を一つつく立花。じーっと立花を見ている倉橋は、おそらく念話に気づいて合わせているのだろうなと思って、野生の勘のおそろしさよと内心呟く。
「一回飲むと歯止めが効かなくなるだろ?」
「そ、それは……」
「先に倉橋を二十歳にしようか?」
「う……」
それならある程度飲んでもいいぞと立花が言えば、五歳児で苦労している立花を差し置いて、さらに教会からの目を躱すという目的もある立花を差し置いて、酒が飲みたいだけで二十歳にしてもらう事など倉橋には出来なかった。
「卑怯なり」
「どこがだ」
真顔で言う倉橋に、横で聞いていたフレイミーも笑いを堪えていた。
と、そこへエンデとテルミナが唐突に現れた。半袖の寒そうな恰好で。
「あ、おかえりなさい~」
すぐに気づいて倉橋が手を振れば、テルミナが軽く応じる。
「ただいまー。なかなかの金額になったぞ。重いからギルドに預けたけど」
「お疲れ様です。思ったよりも早かったですね」
立花は焚火の前に椅子を出してどうぞと勧めた。
「先に種類と数を伝えていたからだな。あとは物の損傷具合を確認してすぐに換金出来た」
気温の低さに袋から上着を出して着こむエンデ。それからフレイミーから暖かいお茶をもらって目礼し、口につけた。
テルミナの方も寒いのを忘れていたのか、慌てたように袋から上着を出して着こみ、倉橋からお茶を貰っていた。
「あれだな。熱いとこと寒いとこを行き来すると身体がおかしくなりそうだわ」
ケアノスは真夏の陽気で、こちらは冬入りの肌寒さ。テルミナのぼやきに確かになと思う立花。
「すぐに出発するか?」
「いえ、少し休憩を取ってください。身体が慣れる前に風にあたったら風邪をひくかもしれません」
「賛成。暑いのか寒いのかちょっと今わからなくなってると思う」
あちちとお茶を飲みながら言うテルミナと、軽く頷いて了承するエンデ。




