第百十八話
北大陸へと上陸し、地上へと降りて旅支度をする一同。
西大陸が比較的近いため、暖流が陸地伝いに少し流れ込む事で極端な寒さではないが、それでもやはり肌寒い。
それぞれ厚手の服を上から来て、関節部分を動かしやすいように調整して板やら絨毯やらに乗った。
立花だけは体力消耗に直結するので結界内を暖気で満たし一人暖かくしている。
寒がりだとこちらにきて早々自己申告していた倉橋は、冷気耐性が仕事をしているのか、思ったより寒くないですねと言いながら飛んでいた。
ここからの道案内はフレイミーだ。出身者という事で、北大陸独自の入っていけない場所や避けた方がいい道を知っていたからだ。
「なんか……私が見てもちょっと木の種類っていうか、見た目が違いますね」
夕方に野営地を作るため降りた時、辺りを見回しながら倉橋は言った。
「俺も他の大陸に行ったときに思いました。それ。
でもいろいろ行ってると、北大陸の方が独特なんだって気づきましたけど」
植物一つとって見ても、木の幹の色が灰色で枝も高いところにしか生えていない独特の形をしている。色は少し白樺に似ているが、白というよりグレーなので木々が乱立している様子は白黒の世界のようにも見えた。下草もあまり生えておらず、くすんだ色の苔類があるだけで、猶更そう見える。
地面を均した立花はテントを出した。
現在は人が通る道近くを並走するように飛んでいるため、あまり外観が浮くものは出さない方がいいだろうという事でそうした。中身が魔改造されているの言うまでもないが。
「寒さに強い品種なんですかね?」
言いながらちょっと鑑定してみると、実際その通りのようでごく微量だが木が魔力を纏い表面に強化を施しているようだった。
「寒さどころか、木自体の耐久性が大分高いみたいです」
「北大陸の材木って結構な値段で取引されてたな。丈夫で長持ち、その上滑らかな質感だって高級家具の代名詞だわ」
思い出したようにテルミナが言えば、うんうんとフレイミーが頷いた。
「北大陸の特産です。なので勝手に木を切ったりすると罰せられたりするところもあるんですよ。よくギルドの方が土地の所有者と魔物討伐の時の被害で揉めるって聞きました」
フレイミーの言葉で、倉橋に視線が集まった。
「え? いや、しませんよ? 意味もなく森林破壊とかしませんから」
パタパタ手を振って否定する倉橋だったが、倉橋の場合暴発が怖いので何とも言えない面々だった。
「それより、北の特産品って他に何があるんですか? 地球だとほら、オーロラが見えたりだとか北極圏に行けば白夜になる地域があったりするじゃないですか」
「んー……オーロラとかって聞いた事がないです。白夜も聞かないかな。北部の方って永久凍土って言われていて、特に北西部付近は人が住めないんです。ひょっとするとそっちの方は見れるかもしれませんが」
フレイミーが思い出しながら答えると、倉橋はそっかーと少し残念そうだった。
「見たかったのか?」
立花が聞くと、倉橋は少し、と答えた。
「地球の方じゃ、たぶん私海外に行くって事をしないと思うんですよね。英語壊滅的なので」
「ツアーで行けばそこまで困らないと思うが」
「そうかもしれないんですけど、理解出来ない言葉の中にいくっていうの結構勇気がいるんですよ。文化も何もかも違うだろうし、やっちゃいけない事とか知らずにやっちゃうかもしれないじゃないですか」
「意外と真面目だな」
「意外は余計です」
むすっとする倉橋に、悪い悪いと軽く謝り話を変えようとフレイミーに別の事を聞く立花。
「食べ物の方は何かありますか?」
「日本風のものは無いですね」
それは探した結果なのか、断言するフレイミー。
「特産って意味だと度数の高いお酒とか、あとはカジュアックが有名かな」
「かじゅあっく?」
「甘いバターみたいな樹液を固めたものです」
オウム返しに聞く立花に、こんなのと両手で四角を作って見せるフレイミー。
「メープルみたいなものです?」
立花が作った竈の近くで肉を切り分けていた倉橋が近しいものを想像して言うと、フレイミーはそれとも違うと首を横に振った。
「メープルはとろっとしてるじゃないですか、カジュアックは固形なんです。本当のバターみたいにコクが合って濃厚でめちゃくちゃ甘くて」
「樹液が固形??」
ますますわからなくなる倉橋に、聞いていたテルミナが笑った。
「カジュアックは、最初は液状の樹液なんだが空気を含む事で固形化するんだよ。質のいいやつは王侯貴族が好んでて結構いい値段がするぞ」
「そうそう空気を含むと固まるんです。
教会にも好きな枢機卿が居てそのまま食べてたりしてました」
「そのまま……」
ちょっと微妙な顔をして言うエンデ。
カジュアックは、味としては蜂蜜とたっぷりの砂糖をバターに練りこんだようなとんでもなく甘ったるい代物になる。料理やお菓子に入れると風味が格段に良くなって味わいが格段に良くなるのだが、さすがにそのままは聞いた事がなかった。
「産地知ってますから、行ってみます? 北大陸でも産地じゃないとなかなか手に入らないんですが」
言われて倉橋は立花を見た。急ぐ理由もないわけで、立花は指で丸を作った。
「行ってみたいです」
「じゃあ渓谷に行った後に行きましょう」
やったと喜ぶ倉橋は、ついでに度数の高いお酒も気になるんですけどとボソッと呟いたが立花は黙殺した。
お酒は二十歳になってから、というのは継続中だった。
ブクマ、評価ありがとうございます。




