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第百十七話

〝殿下、カウントダウンをお願いします〟

〝あ、あぁ。えーと、十から数えて、ゼロでスタートでいいか?〟

〝はい。あなたもいいですよね?〟

〝ヨかろう〟


 若干倉橋に気圧され気味に念話を返す立花。

 よくわからないが、銀色の真竜の何かが気に障ったらしい倉橋。言われる通り立花はカウントダウンを開始して、最後のゼロを送った時、飛行船の結界は衝撃派を受けた。


「まじか……スタートした瞬間からトップスピード出すとか……」


 思わず呟く立花。

 窓から外の様子を窺っていた残りのメンバーは口を開けたまま固まった。

 銀色の真竜が遠目に白い軌跡となったのは、最初からそのスピードを知っているので早いなぐらいの感想なのだが、その横を並行して青白い軌跡が描かれていくのを見て言葉が無かった。


〝やるデはないカ。小さきモノ〟

〝うふふふー。まだまだですよー〟


 ちょっと動揺している感じの銀色の真竜の念話に、棒読みの倉橋の念話が返される。


〝ほらほら、頑張って〟

〝く……きさマ〟


「なんか……倉橋さん、煽ってません?」

「嬢ちゃん煽ってるっぽいな」

「「………」」


 フレイミーがポツリとこぼしたのに、テルミナが同意しエンデと立花は何してるんだと無言になった。

 飛行船の中からでは既に目視も索敵も出来ない程離れてしまったため状況がわからなかったのだが、倉橋は銀色の真竜の上下左右を螺旋を描くようにぐるぐると回っていたのだ。速度を落とさず。マッハの速度でそんな事をしている倉橋の肉体もさる事ながらそんな事を可能とする筋力とバランス感覚も異常の一言につきた。


「立花さん……倉橋さんって、負けず嫌いなんです?」


 フレイミーに聞かれて、立花はうーんと首を傾げた。


「仕事とかでそうだって話は聞きませんでしたが、ガッツはあるタイプで……」


 あそこまで勝負にノリノリになっているのは初めて見るので立花にもよくわからなかった。


〝あ、ちょっと上がりましたよスピード。えらいえらい〟

〝きさマ、我を愚弄すル気か〟

〝えー? 先に小さきモノがどうとか鼻で笑ったのそっちでしょー? 今さらそんな事言われても?〟

〝ぐぅ……〟

〝ほらほらもうちょっと、ちょっとスピード落ちましたよ? まだいけるでしょ?〟

〝く、クそーーー!!〟


 ついに銀色の真竜の念話が乱れだした。


〝きさマ、ちょっとおカしいゾ!?〟

〝おかしいってなんですか。ちゃんと飛んでるじゃないですか〟

〝そノ速さデ平気な人間がいるカ!〟

〝居るじゃないですか目の前に〟

〝ハッ! きさマ、人間デはないナ!?〟

〝残念、きちんと人間です〟

〝うそダ!!〟

〝本当です〟

〝うそニ決まってル!!!〟

〝本当ですよ〟

〝きさマ、人間ニ擬態しタ魔物だろ!!?〟

〝真竜ってのは魔物か人間かも見分けられないんですね〟

〝なニぃ!?〟

〝鑑定の一つや二つ持ってないんですか?〟

〝我は風ノ化身! そのようナものヲ持つわけガなかろう!〟

〝使えない……〟

〝ぁア!?〟


「喧嘩しだしたんですけど……」

「してるな。喧嘩……」

「「……」」


 何とも言えない空気が飛空艇内に流れる。


〝まったく……文句の前に風の化身だっていうなら、私を追い越してみてくださいよ。ほら、私も本気で行きますから〟


 あぁ、本気じゃなかったんだ。と、飛行船内に同情の空気が流れた。


〝あ! まテ! くッ!!! ぐぅぅうううう!!!!〟


 あぁ、頑張ってる。銀色の真竜すごい頑張ってるのが伝わると、哀愁が漂い始める。

 ちなみに、途中から真竜の念話が距離が開きすぎて不明瞭になりかかったので、立花がジャックして補助していたりする。


〝さーどうします? 続けます? 私は全然まだまだいけますけど?〟

〝ぐぅぅぅうううう!!!!〟


 畳みかける倉橋がもはや悪役に思えてくる面々。そしてついに真竜が折れた。


〝く、クそ!! わかっタ! もうわかっタ! きさマの勝チだ!〟

〝はい。私の勝ちですね。じゃあもう私達に突っかかって来ないでくださいね。邪魔するなら今度はその首切り落としますよ〟

〝わ、わかっタ! 邪魔しなイ! もウ近づかン!〟


 銀色の真竜の言質を取ったところで、倉橋が飛空船内に現れた。


「鳥型飛行物体は?」

「袋に入れてから来ましたよ」


 落ちながら転移したのかとため息をつく立花。


「真竜は?」

「泣きながら逃げていきました」


 それを聞いて、北大陸出身のフレイミーは守護竜って呼ばれてたけど……とちょっと複雑な気持ちになった。


「さ、障害物は消えましたからさっさと北大陸に上陸しましょ。大陸に近づいたら陸路にするんですよね?」

「あ、あぁ……その方が山脈を超えるより楽だからな」


 あっけらかんと次に進む倉橋に、立花は銀色の真竜に黙祷を送った。死んではないが、おそらく精神的には相当やられたであろうから。

 現地人のエンデとテルミナは、真竜ってあんなに愉快な性格だったんだなと別なところで微妙な気持ちになっていた。

 噂話や昔話に上る真竜は、どれもこれも威厳に満ちていて人間の思惑など超絶しているような存在だったのだ。

 蓋を開けて見ればただのスピード狂で勝負を吹っ掛け、しかも子供のように喧嘩を始めて最後には泣きながら逃げていく。威厳もなにもあったものではなかった。

 もう一体の黒い真竜とやらはぜひ、威厳に満ちた落ち着いた存在であって欲しいなと無意識のうちに願っていた。

ブクマ、評価ありがとうございます。

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