39 未来の糸口
港の西側の適当な酒場に入った。血のべったりと付いた服は、先に船に戻って着替えた。だから、誰もすぐに目を付けたりはしない。
とても騒がしい。顔見知りが数人いる。よく見れば、シアーズのクルーも何人かいた。かなり酔っているらしく、船長に気付かず騒いでいる。
「聞いたぜ、シアーズ。お前、あのローランドを殺したんだって?」
話しかけてきたのは、ゴードンという名の海賊船グロリアーナ号の船長だった。十年来の仲で、彼とはいろいろ無謀なこともやった。金に目がないが、嫌な奴ではない。しかし今日だけは誰にも会いたくなかった。やはりこんなところへ来たのは間違いだった、一人で飲めばよかった。
「違う、あいつは女王に殺されたんだ」
ぶっきらぼうに言う。だが相手は何も気にかけない。
「まあ、あいつがどんな死に方しようが知ったこっちゃねえが。むしろ血にまみれて苦しんで逝くほど喜ばしいね。ぞくぞくするぜ。ああ、俺も見たかったなあ。……さっき、海軍の追悼式はその後収集がつかなくなって、式どころじゃなかったって聞いたぜ。しかしお前、ローランドのこと嫌ってたんじゃないのか。見てた奴の話によれば、随分紳士的だったそうじゃあねえか」
キャプテン=ゴードンはシアーズの隣に座った。シアーズは横目で彼をちらりと見たくらいだった。
「これでも昔は一緒に暮らしてた時もあったんだ。それくらいどうせ噂で知ってんだろ、変な尾ひれつけてさあ……。今頃きっと、またその噂が流れてるんだろうな。今度は胸びれくらいつけてるかもな」
「へへ、さあねえ。俺は知らんよ。……小さい頃は仲良かったんだろう?そう聞くけど」
色褪せた記憶が目の前を走り抜けた気がした。一瞬、過去に引きずられそうになった。
「ああ。士官学校時代もいろいろ面倒みてもらった。全部返しきれないうちに逝きやがって。なんかなあ……ガキの頃のことは、『借り』みたいに思っちまうんだよなあ。スペイン行って助けて、シルヴィアのことも、アル=クメニ島のこともまとめてチャラにして。これから心おきなくやってやろうと思ってたのに」
勝手に死にやがって。俺の今までも水の泡にしやがって。絶対に追いかけて、いつか跪かせる。この俺の前に。カニバーリェスや他の奴に屈するあいつの姿を見たって、面白くも何ともない。
キャプテン=ゴードンは立ち上がった。
「場所変えるか。今晩はお前の愚痴につき合ってやるよ。俺も前にあんたに世話になったしな」
シアーズは力なく笑うと、立ち上がった。瞬間、店の奥の酒樽にもたれかかるように座っている少年がいるのが目に入った。黒い髪が肩までで揃えられ、緑の瞳をしている。まだ六歳か七歳くらいだ。だが、誰かに似ている。シアーズは急いでその少年の方に行った。少年はシアーズに気付き、びっくりしたのか、慌てて逃げ出した。どこ行くんだ、というキャプテン・ゴードンの声を無視して走り出した。




