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氷山の副会長と、放課後の秘密協定

教室に放課後を告げるチャイムが響き渡ると、一気に賑やかな雑音が広がる。

「長谷川さん! この後、みんなで新しくできたカフェに行くんだけど、一緒に行かない?」

教室の後方、窓際の席。男子生徒たちが数人、期待に満ちた目を向けている先にいるのは——長谷川凛(はせがわ りん)だ。

整いすぎた容姿に、腰まで伸びた艶やかな黒髪。生徒会副会長を務める彼女は、間違いなくこの学校のアイドルであり、同時に誰もが恐れる『氷山』だった。

長谷川はゆっくりと鞄のチャックを閉めると、視線すら合わせずに冷淡な声を発した。

「遠慮します。無駄な時間を過ごす余裕はありませんので」

「え、あ、いや、ちょっとお茶するくらい……」

「私に近づかないでいただけますか。……迷惑です」

一切の情を挟まない、完璧な塩対応。

一瞬で凍りついた男子生徒たちは、気まずそうに苦笑いを浮かべながら逃げるように去っていった。

(相変わらず容赦ないな……)

斜め後ろの席で自分の荷物をまとめていた俺——藤野葵(ふじの あおい)は、心中で苦笑する。

長谷川凛は誰の接近も許さない。告白されても秒で撃退し、無駄な社交は一切断る。それが彼女の日常であり、クラスメイトたちにとっても見慣れた光景だった。

長谷川はそのまま誰とも目を合わせず、凛とした背筋のまま教室を後にした。

——だが。

クラスの誰も、そして学校の誰も知らないのだ。

あの鉄壁の氷山女子が、放課後になるとどんな顔を見せるのかを。

◇

十五分後。

俺は実家が営む洋菓子店『パティスリー・フジノ』の裏口で、エプロン姿に着替えて待っていた。

コンコン、と控えめなノック音が響く。

扉を開けると、そこには帽子を深くかぶり、周りを警戒するように立っている長谷川の姿があった。

「……誰もついてきてないわね?」

「大丈夫だよ、長谷川さん。どうぞ」

俺が裏口のドアを広げると、彼女はすっと滑り込むように厨房の奥にある小さな休憩室へと入ってきた。

そしてパタンと扉が閉まった瞬間——。

「ふはぁぁ……っ……!」

長谷川は深々と息を吐き出し、そのまま小さなソファへとなだれ込んだ。

さっきまでの凛とした鋭いオーラは跡形もなく消え去り、まるで骨が抜けた猫のように脱力している。

「お疲れ様、長谷川さん。今日も大人気だったね」

「……笑わないで。本当に疲れるんだから……」

膝を抱えてソファの上で小さくなる長谷川。

俺は苦笑しながら、先ほど焼き上がったばかりの試作品を皿に乗せ、彼女の前のテーブルに置いた。

「はい、今日の試作品。『焼き立てサクサクシュークリーム・苺クリーム添え』だよ」

その瞬間。

長谷川の身体がピクッと跳ねた。

ゆっくりと顔を上げた彼女の瞳は、すでにカチコチの氷ではなく、甘く潤んだ光を宿している。

ゴクリ、と小さな喉が鳴る音が聞こえた。

「……た、食べてあげてもいいわよ。別に、楽しみにしてたわけじゃないんだから」

「はいはい。冷めないうちにどうぞ」

長谷川は慎重な手つきでシュークリームを手に取ると、口を大きく開けて……パクリ、と一口頬張った。

サクッ、と心地よい音が室内に響く。

「……ッ……♡」

瞬間、長谷川の頬がカッと朱に染まった。

両手が頬に添えられ、うっとりと瞳が細められる。小刻みに揺れる足先が、彼女の絶頂の幸福感を物語っていた。

「……美味しい……ッ。生地が信じられないくらいサクサクで……クリームが、すっごく濃厚……」

「本当? カスタードに少しだけ隠し味を入れたんだ」

「んぅ……ズルい……こんなの反則……っ」

一口食べるごとに、彼女の防衛線がガラガラと崩れ去っていく。

あんなにクラスで冷酷だった少女が、今や俺の作ったお菓子一口で完全に骨抜きにされているのだ。

長谷川は夢中でシュークリームを平らげると、口元にちょこんと付いたクリームを指で舐め取り——ハッと我に返った。

「っあ……!」

俺の視線に気づいた長谷川は、一瞬で顔を耳まで真っ赤にした。

慌てて制服の胸元を引き上げ、下半顔を隠しながら、うるうると湿った上目遣いで俺を睨みつけてくる。……全く怖くない。

「〜〜〜っ! み、見ないでよ笨蛋(バカ)葵……!」

「いや、美味しく食べてくれて嬉しいなって」

「う、うるさい……! とにかく、今日のこれも……すっごく美味しかったわ。……その、明日も……また作ってくれる……?」

照れくさそうに、でも必死に感情を抑え込みながら、彼女はそっと俺の制服の袖をぎゅっと掴んできた。

控えめな力加減と、指先から伝わる微かな震え。

(……可愛すぎるだろ、まじで)

学校では『近づくな』と全男子を拒絶する氷山の副会長。

だが、俺の前でだけ見せるこの無防備すぎるデレ姿を、俺は一生誰にも教えるつもりはなかった。

「もちろん。明日もとっておきのスイーツを用意しておくよ」

「……うん。約束、だからね」

キュッと袖を強く握り直す長谷川を見て、俺は今日も自分の心臓が持つかどうか不安になるのだった。

お読みいただきありがとうございます!


クラスでは鉄壁の塩対応なのに、二人きりになるとスイーツ一口でデレデレになってしまう長谷川さんをお届けしました。


【読者の皆様へお願い】

「長谷川さん可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

ページ下部の**【ブックマーク追加】や【評価(★★★★★)】**をいただけますと、執筆の大きな励みになります……!


次回は**「翌日、学校で二人だけの秘密の合図」**をお送りする予定です。

クラスの目の前でギリギリの攻防が……!?


ぜひブクマしてお待ちいただけると嬉しいです!

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