Episode.04 異世界放浪します
だいぶ遠くまで飛んできた。
くそデカい木の枝に座って休憩中。
というよりのんびり周囲を見渡して自然を満喫中。
オズ曰く、海が結構近いらしいのでそれも見てみたいが、とりあえず腹が減った。
『御主人様、それはおそらく幻覚です』
は?
「空腹に幻覚もなにもねーだろ」
『いえ、改造人間はエネルギーを自給できるので食事は必要ありません』
「いや、でも今現実に腹が減ってるんだが」
『ですからそれが幻覚なのです。そういえば人間には幻痛という症状があるのでしたね。もしかするとそれと同じ理屈かもしれません。幻腹です』
「幻腹って……。ついでに聞くが、オレはどのくらい人間なんだ?」
『仰る意味がわかりません』
「いやわかれよ。科学的にどの程度人間の部分が残ってるのか、っつってんだよ」
『単純に肉体的な比率で言うと2%です』
な・ん・だ・と!?
「たった2%!?」
『はい。具体的には脳しか残っておりません』
「脳は残ってるのか。そりゃありがたいね。人間の人格や精神は脳にあるんだから、オレは今も人格的には100%人間ってことだ。違うか」
『それはどうでしょう』
「なんだよ」
『一考の価値がある見解ですね』
「くそ、もってまわった言い方しやがって。このエセインテリプログラムが」
『その呼称は適切ではありません。訂正を要求します』
「はいはい、勝手に要求してろ」
しかし、改めて振り返ると元の世界ではこんなに空腹を覚えた記憶がない。
異世界に来て何か変わったのだろうか。
そもそも何を食っていいのかわからない。
頭に浮かぶのは人間の食いものだが、果たして食えるのか?
脳だけ人間ってことは胃は違うってことだろ。
そもそも胃があるのかすら怪しいが。
『胃はあります。人工胃ですが』
食わなくていいのになぜ人工胃があるのか。
「あ、さいですか。で何を食えばこの空腹は収まるんだ?」
「草でしょうね」
は?
言うに事欠いて草?
オレに草を食えと!?
いやまぁ山菜だと思えば食えなくもないのか。
実際、ほとんどの山菜はその辺に生えてる草だ。
食えるか食えないかで言えば食えるに決まってる。
しかし萎える。
草か。
バッタだし、仕方ないのかな。
食ってみたら意外とうまいかもしれないし。
もともと食わず嫌いだしな、オレ。
『御主人様』
「なんだよ」
『私としたことがうっかりしていました。御主人様はモニターをオフにしたままです。オンにしますか?』
!!!!
モニター!
そうだ!
第三世代怪人の最も便利な機能と呼ばれるモニター。
なんで今の今まで気が付かなかった!?
「モニターON」
-予約語を音声にて確認
-モニターを起動します
オズとは別の無機質なアナウンスが頭の中に流れてオレの視界に情報が追加された。
Date: 2026-04-23 10:07:25
ID:no.415
HP:935/1053
EN:228/584
Status:hungry,synchronized
Form:MOD
Molting:available
Wp1 0/3.0/3.1/3.1/3.0/3.0/3.1/3.1/3
Wp2 0/3
Pack:7/7
あー完全に思い出したわ。
これこれ。
怪人たち憧れのARモニター。
これ見てめっちゃ感動したのがつい数時間前だという事実。
ん!?
「おい、なんかヘンなの出てんぞ」
『synchronizedですね。これは魔王の指輪の効果と思われます』
あーなるほど。
てかこれ運命の赤い糸みたいでなんか照れるんですけど。
そしてよく見たら武器の残弾数もかなりヤバかった。
『そうですね。演習後でもありますから』
改造後初めての外出、初めての演習で張り切ってたからな。
二度目の改造で最先端テクノロジーを手に入れたのが嬉しかったんだよ。
『もう今日は無茶できませんよ。気を付けてください』
「いいからとりあえず草食わせろ」
『摂取可能と思われる植物にマーキングしました』
「助かる」
仕事はえーな、おい。
早速地上に降りて地面を眺める。
「お、これか」
何の変哲もない普通の草だが、鮮やかな緑色が美しい。
「ほんとに食えるのか、これ?」
『どうぞお召し上がりください』
「バカにしてんのかてめー」
おそるおそる食ってみた。
うまァーーーーーーーーーッ!!
草うっま! バクバク。
なんだこれ! バクバクバク。
めちゃくちゃジューシーで瑞々しくて青臭くてシャキシャキしてる!
人間だった時にこんなうまいもん食ったことあったっけ?
バッタに生まれ変わって本当に良かった。
オレ、歓喜。
怪人万歳!
あまりの美味さに、手あたり次第そこら中のマーキングされた草を取って食う。
「御主人様、もうその辺にし……」
「うるさい!」
食って食って食いまくった。
* * * * *
げふぅ~。
まさか草で腹一杯になる日が来るとは。
EN:584/584
見事にエネルギーが全回復している。
食ってエネルギーが回復するなら、やっぱ食うのはアリだ。
Status:overeating,synchronized
しかしやはり食べ過ぎだったらしい。
『さすがはバッタですね、御主人様』
「どういうことだ」
『バッタはほぼ一日中食べ続ける大食漢なのだそうです』
「マジか。え、オレこれから毎日こんなに草食わなきゃならんの?」
『だから本来食事は不要なのです。いい加減理解してください』
「……だって腹が減るから」
『幻腹です』
それはさっき作ったお前の造語だろうが。
さも一般常識みたいにしれっと言うな。
「おい、overeatingってあるけど、これなんかデメリットあるの?」
『そうですね。動きが鈍くなります』
「それだけ?」
『この世界では死活問題かと』
それもそうだ。
「やべーじゃねぇか。なんでもっと早く止めなかったんだ」
『何度も止めましたが』
「……そういやそうだったな。すまん」
むしろ鎮静剤を打たれなくて良かった。
あの感動を薬で中和されたんじゃ、一生浮かばれなかった。
『わかっていただけて何よりです。以後はもっと私の忠告に耳を傾けてください』
……要は言う事を聞けってことね。
まぁでも今回ばかりは完全にオレの落ち度だ。
おとなしくしておこう。
「なぁ、そう言えば今思ったんだが、この魔王の指輪付けた時に目の前にぐわっと情報が出て来たんだが、あれもこのARモニターみたいなもんなのか?」
『よく似た仕様のようですが、稼働原理は全く異なるものです』
「そりゃそうか。AR技術とかこっちにあるわけないしな」
『そう決めつけるのも早計かと思いますが』
「いや、どう考えてもありえねーだろ」
『実現方法は違っても機能として成立しているなら立派なARだと思いますが』
「そうなの?」
よくわからんが、そういうことについてはオズの方が詳しい。
魔法とかスキルとかなんかそういう方法で実現してるとかか?
『可能性はありますね』
「ここに長居することになるなら、もっとこの世界のことを知る必要があるな」
『御主人様にしては慧眼です』
「てめー、なんだその言い方は」
『失礼しました』
「で、どうしたらいいと思う?」
『情報収集ということであれば、やはり人間側で収集するのがよいと思います』
「異世界ものだとよくエルフとかが世界の真実を知ってたりするじゃん、それは?」
『エルフがこの世界にいるかどうかわかりません』
「なんか人間って面倒臭いんだよなぁ。どうせアレだろ、貴族とか王族とかがいて不正やら派閥やらで権力争いやってて一般市民は虐げられてる、的な」
『それは当たらずとも遠からずでしょうね』
「なんでだよ、ほぼ当たってるだろうが」
言いながら、オレはまだ何も知らないのだと思い出した。
『ではまずそれを確認しに行きましょうか』
「……うわー、なんか墓穴掘ったわ」
結局異世界に来てまで人間関係かよ、めんどくせー。
『せっかくの異世界なのですから、楽しみましょう』
「お前が言うな」
苦労するのはオレだ。
『ちょうどすぐ近くに人間の町があります』
なんとなく誘導されたような気がして警戒心が頭をもたげる。
が、虎穴に入らずんば虎子を得ず!!
「なら行ってみるか」
『御主人様、そのままでは住民が恐怖のあまり死んでしまいます』
「いや、死ぬはさすがに大袈裟だろ」
そこまで気持ち悪いバケモノ顔じゃないはずだ。
むしろあの四天王とかいう連中の方がよほど凶悪。
『いえ、心の弱い者は御主人様の姿を見ただけで「恐慌」状態に陥り、身体的不調の症状が出ますので充分に可能性はあります』
いや、そんなもん初耳なんだが。
オレって見ただけで異常をきたすレベルのヤバイ怪人なのか。
それでは困るので、仕方ない。
「じゃあ、これで」
オレは変身機能で人間形態に変化した。
この姿こそ改造手術を受ける前のオレ――正真正銘の五代竜介だった。
これなら人間の中に紛れてもまったく問題ないだろう。
人型変身にはコストも制限時間もないので無限に人間でいられるのだ。
ただ、オレは落ち着かないが。
『変身機能は正常です。では行きましょう』
オレは重い腹に苦しみながら、町へ向かって歩き出した。
* * * * *
「もういいだろ。充分だ」
最後の町を出て飛び立った後、オズに確認した。
『そうですね。だいたいサンプルは取れました』
「やっぱりオレが言った通りだったろうが」
『それを証明できたことが重要なのです』
「ったく毎度ああ言えばこう言うだな、お前は」
オレは一週間ほどかけて、六つの町だか村だかを見て回った。
結果、やはり思った通りだった。
実質2%のオレでも意外とバレないものだ。
『今度はもっと大きな都会に行ってみましょう』
「まだやるのかよ。もういいんだけどオレは」
正直人間は疲れる。
『情報収集は必要です』
「そう言えばなんでも通ると思うなよ」
『王都はどうでしょう? 王族も見てみたいですね』
「聞けよ、おい」
王族とか絶対に関わり合いになりたくねーよ。
面倒臭いの最高峰だろ、どう考えても。
だいたい生粋の東北田舎人のオレ的には大都会ってだけで居心地が悪くなるんだよ。
やっぱり人間、自然と共に生きるのが一番だ。
もう怪人だけれども。
「そんなことよりオレは米が食いたい」
草はうまかったが、こうなってくると米も食べてみたかった。
もしかすると草を上回る絶品の可能性がある。
『米、ですか』
「そうだよ。やっぱ日本人だし、バッタだし、米は主食だろ」
『では米がこの世界にあるかどうか調べてみましょう。そのためにも王都へ……』
「おいお前、なんでもそこに結びつけたらいけると思うなよ」
『米が庶民のものなら既に目にしているはずです。しかしまだ見かけていませんし話題にもあがりませんでした。もしこの世界にあるとするなら特定地域のみで食されているか、非常に高価なものである可能性の二択です』
「お、おう。そうだな」
ものすごく納得してしまった。
そこまで考えての発言だったのか。
『では行きましょう、王都へ。場所はマップに表示してあります』
そう、モニターにはマップ表示機能もあるのだ。
オズが初日に上げた衛星がきっちり仕事をした結果、既にこの世界のおおまかな地図は我が手中にあるのだった。
ぐわはははははは!
いや、でもこれマジで超重要かつ超貴重な情報だから。
王都までは約一日の飛行距離だ。
急いで行く必要もないので、道中も楽しみながらのんびり行くとしよう。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回更新は明日4/24(金)10時の予定です。
引き続きよろしくお願いします。





