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Episode.05 米を探します

 あるにはあったのだ。

 あるにはあったが、やはり希少品らしかった。


 米の話だ。


 王都ラルックを五代竜介となって歩き回った結果、米はマイマイという名前で流通していることを突き止めた。


「とりあえず金がいる」


 当たり前の話だが、オレはここでは無一文なのだ。

 一応言っておくが、元の世界に戻れば多少の蓄えはある。

 

『あるところから頂きましょう』


「いやまぁそうなんだが、盗みは気が引けるんだよなぁ」


『人は殺しても?』


「言うなよ。もし次躊躇(ちゅうちょ)したらどうするんだ。責任取れるのか」


『鎮静剤を打ちます』


「おい! てかそれで解決するもんなのか」


『やってみる価値はあります』


「ヒトの体で実験すんなよ」


『改造自体が実験です。改造手術同意書にはあらゆる実験に協力すること、と記載があったはずです』


 なんか見たような見てないような。

 だが、今となっては確認のしようがない。


「盗むにしてもなるべく人目につきたくない。面倒事はイヤなんだ」


『行動原理が一貫している点は評価できます』


「だから上から目線をやめろ」


『今夜やりましょう』

 なんでお前が決めるんだよ……まぁ別にそれでいいけれども。




* * * * *




 そろそろ夕方だ。

 なるべく人気のない通りの方で、物陰に隠れて夜を待つことにしよう。


 路地に入った直後、人影が前に立ちはだかった。


「おい! そこのお前!」


 だーーーーっ!

 やっぱきたか。


 人気のないところの定番、追い剥ぎだぁ(たぶん)。


『早速次がきましたね』


 やめろw


「止まれ!」


 後ろにもきたー。

 挟まれた恰好だ。


『右の家の屋根に、もうひとりいます』


 りょ。

 ちなみに周囲に他の人間は?


『いません』


 なら安心だ。


「なんの用だ。オレは無一文だぞ」


 一応金など持ってないアピールをしておく。

 諦めてくれるならそれが一番。


「ハハハハ、どこの世界にそんな立派な服を着た無一文がいるんだよ」


「ちげぇねぇ、ハハハハ」


 前後から挟み笑い。


 そうか、この服装だと確かに立派に見えなくもない――わけあるかー!!!


 冗談だろ、これただのジャージの上下だぞ。

 確かにルコックはもしかすると多少高級かもしれないが、所詮運動着だ。

 ジャケットやシャツなんかは目立つしそれならジャージにしとけ、と思ったんだがこれでもダメだったのか。


『現地の衣類も調達しておくべきでしたね』


 冷静に指摘するくらいなら先に言え。


 だが、前に行った場所じゃなんで大丈夫だったんだ?

 そんなに好奇の目に晒された感じはしなかったぞ。


『畑仕事をするような作業着に見えたのかもしれません』


 なるほど、それなら納得だ。

 濃いめのグレーのジャージだからな。


 うん、どっちにしろ王都じゃ目立つんだな。

 納得。


 ん? 待てよ。

 さっき立派な服って言われてたような……。


「悪いことは言わねぇ。全部置いてけ」


 いかにもな人相の小汚い男が薄ら笑いを浮かべている。

 体格だけはそれなりに立派だった。


「全部ってどこまでだ」


「着ている物も全部だ」


「男の裸見て何が楽しいんだ?」


「いいからとっとと脱げ!」


「お前がな!」


 言うなり男の背後に回り込んで上から衣服をまとめて下までずり下げる。

 何か引っかかった感触はあったが別に無視して無理矢理下ろす。


「ぎゃああああああ!」


 真っ裸になった男が直立したまま絶叫。


御主人様(マスター)、それは酷い』


 どうしたのかと思って男の前を覗き込んだら、取れていた。

 アレが取れて血が大量に内股に流れていた。

 真っ赤なしょんべん小僧の出来上がり。


 さっき引っかかったのはソレだったか。


「すまん、ちょっとした手違いだ」


 まだ泣き叫ぶ男の腹にパンチ一発で気絶させる。

 うっかり殺さないよう細心の注意を払った。


 腰が引けて逃げようと後ずさり中のもう一人にダッシュしてこれも腹パン。

 あ、ちょっと内臓イっちゃたかも。


 最後にジャーンプ、からのキィーック!


 屋根の上に伏せて様子を伺っていた男がびっくりして中腰になったところへ命中。


 そのまま屋根を突き抜けて地面まで落下してしまった。

 これも断じてオレのせいではないが、たまたま股間にヒットしてしまった。


 ゴッと頭を打つ鈍い音と同時にグチャッと何かが潰れる音がした。

 南無阿弥陀仏。


「これ、片付けた方がいいのか?」


「そこの大きな(かめ)に放り込んでおきましょう」


 りょ。


 壊した家の中にちょうど三つあったので、外の二人も運んできて中に突っ込む。


「どうせならここで夜まで待つか」


『それは名案です。念のため周囲を警戒しておきます』


 こうして夜中までその家の中に隠れていたが、三人が目を覚ます気配はなかった。




* * * * *




「おい、こりゃマズイんじゃないのか」


『何も問題ありません。万事順調です』


「いや、だからなんでこんな簡単に盗めるんだよ」


 暗くなるのを待って、そこそこデカイ屋敷に潜入したのだが、何の警備も抵抗も罠もなくアッサリと金と貴金属類を奪えてしまったのだった。


『それだけ王都が安全なのでしょう』


「いやいや、幾ら王都でも泥棒ぐらいいるだろう。現にさっきだって追い剥ぎが出たじゃねぇか」


『貴族の屋敷に忍び込むのがマズイという程度の常識はあったのでしょう』


「人は襲ってもいいのかよ。いや、人じゃないけれども!」


御主人様(マスター)の冗談は面白いですね』


 いつもと変わらぬトーンで返すオズ。


「てめー、殺すぞ」


『自殺はおすすめ出来ません』


「しねーよ。なんでそうなる」


『ところで、米はどこで買いますか』


「どこなら売ってそうなんだ?」


『エメリッヒ商会という大きな商会があるようです』


「そこならあるのか」


『おそらくは』


「てか、今思ったんだが最初からその商会に盗みに入った方が楽だったんじゃね?」


『さすがに大商会に盗みに入るのは愚策中の愚策。自殺行為です』


「お前、言い方」


『ですが自殺願望のある御主人様(マスター)ならそれもアリでしたね』


「だからねーよ」


『エメリッヒ商会は朝八時からやっています』


「え、まだ死ぬほど時間あるじゃねぇか。どうすんだそれまで」


『このまま少し王都を徘徊しましょう。情報収集をしたいです』


 夜中に徘徊してどんな情報が集まるのかは聞かないでおこう。


「……まぁいい。いざとなったら七番パックを使うぞ」


『良い考えです』


 朝までオズに付き合わされた。




* * * * *




「マイマイですか。南方の穀物ですね。希少な品ですのでかなり高価になりますが」


「構わない」


「畏まりました。ではお代はこちらで」


 うん、結構高いけどちょうど手持ちで足りるわ。

 ありがとう、どこぞの貴族。


 即金で払うとさすがに意外そうな顔をされたが、知らん。


「商品のお受け取りはあちらの窓口になります」


「わかった。ありがとう」


 礼を言うとこれまた意外そうな顔をされたが、知らん。


 一分ほどでブツを受け取るとそのまま店の外に出た。


「思いのほか簡単に米が手に入ったな」


 こんなはずじゃなかったという思いが湧いて来る。

 エメリッヒ商会で本当に売っていたのだ。

 盗んだ金を全部はたいて無事ゲット。


『簡単かどうかは評価が別れるところですね』


「いや、簡単だろ。もっと苦労すると思ったんだが……まぁいいや」


 ジャージで目抜き通りを歩きながら独り言を言う危ないオッサンだよー。


御主人様(マスター)


「なんだ?」


『尾けられています』


「ほぉ、面白い」


 ただの追い剥ぎよりは興味深い。

 せっかくの異世界なんだから、こういうワクワクがないとね。


 大方、デカイ商会で大金叩いたのをどっかで見てたんだろう。


『迎撃しますか』


「いや、もう少し楽しもう。せっかくのイベントだ」


 すっかりゲーム感覚になっていた。

 こんなところで目立つのも困るし、仕方がない。


『後方に二人、建物の上を移動しているのが一人』


「また三人組か」


 オレの方も三人の気配を察知した。

 モニターはずっとOFFにしているが、全く問題ない。


『今度は手練れです』


「でもどうせ人間だろ。チョロいって」


『油断大敵ですよ、御主人様(マスター)


「してねぇよ。とりあえずとっととここを抜けよう」


 不自然にならない程度の早足で人通りの多い道を抜けていく。


 三人組を(かめ)に鎮めた場所の近くまで来ると、尾行者が動いた。


 前方の横道からすっと男が出て来た。

 仕方ないので立ち止まる。


「こんにちは、お兄さん」


 なんだか既視感がすごいが、今度の相手はもっとスマートだった。


「邪魔だ。どいてくれ」


 そう言って歩き出そうとすると、腰の得物に手を掛けやがった。

 正気か。


「ずいぶんと物騒じゃないか。またどこぞの盗賊か」


「また、とはどういうことですか」


 腰に手をやったまま静かに聞いて来た。

 やけに口調が丁寧な盗賊だな。


「なに、昨日もこの辺で声をかけられたもんでね。あんたらも仲間か」


 男がチラリとオレの背中に視線を向ける。


「そいつは聞き捨てならねぇな」


 ようやく後ろのヤツも参加する気になったらしい。

 上のヤツはまた潜伏か。

 配置パターンが全く同じだからなー。

 こりゃ確定だなー。


「この先の家の中にあるデカイ(かめ)の中に突っ込んである。気になるなら行って見て来たらどうだ」


『遊んでますね、御主人様(マスター)


 うるさい、今面白いところなんだから黙ってろ。


 上のヤツが動いた。

 確認に行ったのだろう。


 やはり昨日の連中とはだいぶ動きが違う。

 あれが三下なら、コイツらは幹部クラスだ。


「まぁ待ってやる義理はないんだがな」


 言うなり前の男にダッシュ。

 剣を抜こうとした男の手を上から抑えると、そのまま思い切り背負投げでぶん投げる。


「あ」


 後ろにいた男に真正面からブチ当ててしまって、二人揃ってもんどり打って転がって行っ てしまった。


 うん、あれは無事じゃ済まないな。


『一本!』


 誰がうまいこと言えとw


 おっと、そう言えばもう一人いたんだったな。


 モニターON。


 まだ家を特定できずに探しているのを発見。


 再びダッシュで追いついて屋根の上にジャーンプ。

 からのパンチを脇腹に一発ドン。


 驚愕の顔が一瞬で苦悶の表情に変化したまま泡吹いて飛んでいった。


 さようなら、どこかの盗賊さん。

 ちゃんと手加減したからな。


『えげつないですね』


 うん、まぁ自覚はある。


 とりあえず面倒なヤツらを片付けたので、休憩がてら早速米を食おう!


 買った直後は焚いておにぎりにでもしようかと思ってたのだが、よく考えたらそれは人間の食べ方であって、怪人であり虫であるこのオレはそのまま食うのがベストだと思い直した。


 米の入った革袋に手を突っ込んでひと握り分掴むと、そのままあ~ん。


 !?


 うん、まぁうまい。

 うまいのは間違いないんだが、なんかちょっと違う。

 物足りない。


 最初はやっぱり塩か、塩が足らんのかと人間的思考が浮かんだがそんなわけない。


「稲だ!!!」


『確かに、その可能性は考えられます』


 オズも即座に賛成したのできっとそうに違いない。


 この米自体が人間が食すように言わば加工されたものなのだ。


 自然そのままの稲の状態で食わなければならない。

 稲穂をガブリとやってこそのバッタではないか!


 というわけでもう米には興味がなくなった。


 オレが求めるのは稲なのだ。

 田んぼはどこだ!?

読んでくださり、ありがとうございます。

次回更新は4/27(月)の予定です。

これからは毎週月水金の三回更新目指して頑張ります。

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