Episode.02 魔王に謁見します
さて、どうしたものか。
魔王御一行様が消えた後、一人残されたオレは途方に暮れた。
何か考えようにも材料が皆無だった。
そもそもオレは人間ですらないのだ。
行き場などあるはずもない。
いきなり詰んだな、これ。
『ご主人様』
「うわッ!」
いきなり頭の中に声が響いたので驚いた。
と同時に、オレは秒で理解した。
「おい、今までなにやってたんだよ。遅ぇよ」
『申し訳ございませんご主人様』
コイツは怪人専用OS「SSMH」だ。
※Support System for Modified Human
名前がないと不便なので、オズと名付けてやった。
最初はオレを415号などと製造番号で呼びやがったので、「ご主人様と呼べ」と調教してやったのだ。
『突然強烈な磁場空間に引きずり込まれた影響でシステムダウンしておりました』
「これってやっぱ転移なのか」
『そう考えるのが妥当です。我々組織の技術ではまだ完成していないはずですが』
「組織は関係ない。ここは異世界だ」
『なるほど異世界ですか。通信が復旧しない理由がわかりました』
「やっぱ繋がんないの? GPSは?」
『衛星が飛んでなければ無意味です。もしかして説明が必要ですか?』
「……いらんわ」
コイツはこんな風にたまにオレを煽ってくる。
ただのAIのくせに人間様をコケにするとか許せん。
あ、違った。
オレもう改造人間だったわ。
にしてもあの博士のことだから、こんな状況でも何か役に立ちそうなモン仕込んでそうなんだが。
『それで、ここで何があったのですか』
周辺状況を確認したらしい。
まぁ人間が何人も死んでれば聞きたくもなるだろう。
「あーこれな。魔王と人間が戦ってたんだ」
『それはなかなかファンタスティックな体験でしたね』
「オレも戦わされたんだよ。仕方ねぇだろ、向こうがいきなり斬りかかってきやがったんだ。オレはただ降りかかる火の粉をだな……」
『もう大丈夫です。理解しました』
ちっ、心を読むのはいいが先読みしてマウント取るのはやめろ。
『では予備の衛星を飛ばしておきます』
言うなりプシュッと音がして背中の方から上に何か飛んでった。
「予備の? そんなものがあったのか」
やはりあったか、あのマッドサイエンティストめ。
『はい。このような事態も想定の範囲内です』
「どんな想定したら、この状況がありえるんだよ!」
『博士を侮ってはいけませんよ、御主人様』
そういう問題じゃねぇ!
異世界転移が想定範囲内って厨二病以外なんだってんだ。
いい歳こいた大人が考えることじゃねーだろ。
オレのアイデンティティにも関わる問題だぞ。
そこは普通に想定外だろ。
想定外って言えコノヤロー!
……ん?
『落ち着きましたか』
うん、一瞬で落ち着いた。
不気味なほどに。
さっきは何故興奮してたのだろう、くらいに。
「ああ。もう大丈夫だ」
『鎮静剤の効果がありましたね』
勝手に打ちやがったのかコイツ!?
一瞬怒りが湧き上がりかけたが、すぐ収まる。
鎮静剤の効果恐るべし。
「ひとつ聞くが、想定の範囲内ってんなら脱出する方法も当然あるんだよな?」
『それは想定の範囲外です』
な・ん・で・そ・う・な・る!
しかしまたすぐに落ち着いた。
感情のジェットコースターの余韻だけが残る。
「で、これからどうすりゃいいんだ」
『御主人様はどうしたいですか』
「なにもしたくねーよ。強いて言うなら帰りてぇ」
『困ったご主人様ですね』
怒るな、怒ったら負けだ。
と思ったがどうせまたすぐに静まるのだろう。
オレの感情がオレじゃない何かに支配されている。
そこへ突然、目の前に渦が生まれた。
あの渦だ。
「リュウよ、すまなかった。その中へ入るのだ。魔王城へ招待しよう」
魔王の声が響いた。
声はすれども姿は見えず。
『入ってください』
即座にオズが反応した。
「はいはい、入ればいいんでしょ入れば……」
オレに選択権はないってことだな。
さっきから全くオレに主権がない状態が続いている。
一歩二歩、三歩進んで渦に足を踏み入れた途端、ぐいっと身体が引っ張られる感覚と激しい眩暈に襲われた――。
* * * * *
まだぐわんぐわんする頭を必死に働かせて周囲を確認する。
だだっ広い空間に出たようだ。
巨大な大理石建築を思わせる大広間。
「ご主人様、正面です」
真正面、20mほど先の壇上に玉座のようなものが。
座っているのは魔王だった。
壇の下、絨毯を挟んで両脇に並んでいるゴツいバケモノたち。
あの化け物女召喚士や、ズールにアグナスといった連中は魔王に背を向けて、つまりこちらを向いて横に並んで立っていた。
四人いるからたぶんあれが四天王なのだろう。
「遅い! 早くこちらへ来るのじゃ!」
化け物女が甲高い声で叫ぶ。
やっぱコイツ、生理的に受け付けないわ~。
オズは空気を読んで静かにしている。
既に情報収集と分析で忙しいのかもしれない。
「どうも」
四天王の手前で立ち止まり、軽く片手を上げる。
「跪け! 無礼者っ!」
アグナスとかいうヤツだっけ?
ああ、もうなんかうんざりだ。
「なぁ、コイツ殺してもいいか?」
魔王に問う。
途端にアグナスの目が吊り上がり、化け物女は口をパクパクさせて震えている。
他の四天王たちも不穏な表情で落ち着かない様子。
「それは困る。我に免じて部下の非礼を許してくれ」
頭こそ下げなかったが、魔王が直接謝罪したことでますますザワつく。
いや、ザワつきどころか魔王以外全員が完全に動揺していた。
「静まれ!」
魔王の一喝で、全員雷に打たれたように直立不動。
「リュウよ、お前に褒美をやろう。何か希望はあるか」
いきなり褒美って言われてもなぁ。
オレをじっと見る魔王は、笑っているようにも見えるが真意は読めない。
いちいち顔色伺っててもしょうがないか。
なにかあればオズが警告するだろう。
「オレを元の世界に帰してくれ。10分経ったがこの通りだ」
オレは両手を広げて不敵な笑みを浮かべた(つもり)。
「……どういうことだ、ンダーベナ」
魔王が化け物女をものすごい眼力で睨みつける。
「そ、それはですね、あの、魔人の中には術式の力を超える存在がおりまして、そういう場合はしょ、召喚の制限を受けない場合があると、その、書物の方に書かれておりましたので、あの、その者は、そういう、あの、魔人を超えた存在、の、可能性が、ある……あ、あるかと存じますのじゃ」
両手をせわしなく動かし、目が泳ぎまくりながらも、たどたどしい早口で必死に弁明する化け物女。
魔王は何か考えている。
『魔人ですか』
おいやめろ、今はしゃべるな。
他のヤツらには聞こえなくとも、こっちの気が削がれる。
プレッシャーが半端ないんだ。
『魔王とは仲良くしてください』
そんなの言われるまでもない。
四天王とかいうのはともかく、この魔王だけは明らかにヤバイ。
ただ単に強いというだけじゃねぇ。
頭も相当キレるし、肚ん中も全く読めねぇからな。
何より全身から発する空気の緊張感が地獄レベルだ。
「どうだリュウよ。しばしこの魔王城に滞在してみないか」
そう来たか。
うーん、興味がないわけではないんだが、正直ここは居心地が悪い。
主にあんたの傍が。
「ありがたい申し出だが、出来ればまたの機会にしてほしい」
ワンチャン通してお願い!
「そうか」
え、マジで?
よっしゃ。
魔王は特に気分を害する様子もなく、微かに笑ったように見えた。
そろそろ虎の尾を踏んでしまうのではないかと内心ヒヤヒヤものだったが、セーフ!
『御主人様もなかなか攻めますね』
くそ、うるさい黙ってろ。
「魔王様、お願いがございます」
四天王のひとり、確かズールだったか、が突然魔王の方に向き直り跪いた。
「なんだズール」
「この者の力、我に見極めさせてください」
「ほぉ、どうするというのだ」
「決闘をさせていただきたく」
おい、バカやめろ。
いきなり決闘とか冗談じゃねーぞ。
「待て、それならオレが先だ!」
もうひとりバカがいた!
確かコイツはアグナスとかいうヤツだったな。
四天王とかいう連中は全員脳筋なのか!?
「魔王様の御前であるぞ」
なんかヘビだかトカゲみたいなヤツが牽制入れてくれた。
コイツ誰だっけ?
四天王の、まだ名前聞いてないヤツ。
アグナスも冷静になったのか、再びズールと共に跪いて魔王に頭を下げる。
「お願いします魔王様。どうか我に名誉ある役目をお与えください」
ズールが再び陳情。
全く諦めてなかった模様w
オレの意見は聞かないのか?
そもそも決闘するのがそんなに名誉なのか。
勝ったら勲章とか貰えそうだが、いらん!
「リュウよ、どうだ。受けてくれるか」
魔王が面白そうにこちらへ振ってきた。
一応聞いてはくれるらしい。
だが、これは流れ的に逃れられないイベントっぽい。
それならいっそ――。
「四人一緒ならいいぜ」
四天王が俄然色めき立つ。
『御主人様それはちょっと……』
うるさい黙れ。
「ほぉ。リュウはあのように申しておるがお前たちはどうだ」
一瞬四天王がお互いに牽制し合う空気が流れたが――。
「やります!」
「もちろん」
「仰せのままに」
「わ、我もやらねばならぬのですか魔王様」
若干一名腰が引けているぞ。
「我の部下に腑抜けは不要」
冷たく突き放す魔王。
「は、ははぁーっ」
ひれ伏して観念する化け物女。
よし、まず一番にコイツを殺そう!
その直後、魔王が宣言する。
「では始めよ!」
魔王が片手をまっすぐ前に突き出すと、四天王以外の連中はさっと引いて壁際に整列。
訓練されすぎだろお前ら。
四天王がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
『大丈夫です。戦力差があるので問題ありません』
オズの分析結果は正確だ。
あくまで客観的なデータによってのみ導かれているからだ。
実際オレ自身、戦いに対する危機感はほぼゼロだった。





