Episode.01 いきなり勇者殺します
「シャァァァイニング、スマァァァッシュ!」
いきなり斬りかかられた。
威力はありそうな斬撃だが、遅いのでヌルッとかわす。
左前方から突っ込んできたのは、派手な戦士っぽいヤツだ。
すれ違いざまに、そいつの右脇腹にパンチを入れとく。
大丈夫、死なない程度に加減はした。
「ぐあああああああッ!」
予想を三十倍ほど超える大袈裟な悲鳴がフェードアウトしていく。
すっ飛んでいったヤツが遺跡の壁に激突する。
めり込んだまま、ピクリともしなくなった。
「おおっ!」
「よくやった!」
「見事!」
なんか知らんが周りから賞賛の声。
で、ここはどこなんだ!?
誰か説明しろ!
「この悪魔めぇっ、よくもジークをッ!」
ま・た・か!?
槍を持った騎士っぽいのが、左後方から突進してくる。
オレがいったい何をしたってんだよ。
にしても遅い。
全身鎧を着ているからか?
「インフィニィィィッ、スラスト!」
やれやれ、なんでみんな技名叫ぶんだよ。
言わないと死ぬ病気なのか?
技の発動条件なのか?
細かい連続突きを、スイスイと回避。
途中で面倒になったので槍を掴んでぐいと引っ張る。
すると騎士もくっついてきたので、鎧を砕いて身軽にしてやった。
「きゃああああッ!」
――鎧の下は裸だった。
あ、女だったのか。なんかごめん。
申し訳ないので、石壁の向こうに放り投げてやった。
落ちる音が少しイヤな響きだったが、それはオレのせいじゃなくてお前の運だ。
ここでやっと少し余裕ができたので、周囲を見渡す。
十人ほどが入り乱れて戦っていた。
バトルロワイヤルかな。
それなら二人倒したオレが現時点で一番だろう。
「カルラッ、大丈夫か」
さっきの女を放り投げた辺りに、ブロンドのイケメン二刀流が駆け寄る。
なにやら物凄い目でこっちを睨んでるんだが。
「貴様ぁ!」
またこのパターンか。
いい加減にしてくれ。
オレは自分から攻撃してるわけじゃないぞ。
降りかかる火の粉を払っているだけだ。
「死ねッ!」
イヤなこった。
面倒なので遠くへ移動するべくジャンプ。
バサバサバサ…。
おおっ、飛んだ!
軽くジャンプするつもりが……。
オレの背中の前翅と後翅がしっかり開いて見事に動いている。
素晴らしい!!
あれ? ちょっと待てよ。
いつの間に飛ぶの上手くなったんだっけ?
ついさっきまでの試運転じゃヘタクソだったのに。
ま、いっか。
そのまま飛んで、少し離れた塔の上に着地。
ちょっと古臭いが、まずまず立派な遺跡だ。
で、ここはどこなんだ?
ん?
なんか降ってきたぞ。
――矢か。
どうやら遠距離攻撃らしい。
こんなもん当たっても痛くも痒くもないので放置だ。
実際三本ほど当たったがカチン、で終わり。
子供の遊びレベルだな。
状況を理解しようとするが、全くわからん。
人間っぽいのがオレを攻撃してきた側で、さっきオレを褒めてくれたのはいかにも悪そうな見た目の連中だった。
サバイバル方式ではなく、対戦形式なのがわかったのは一歩前進だ。
ただ、オレがなぜその一方に属している体なのかは全くわからん。
そろそろ誰かルールを教えてくれないか。
「おい貴様ッ、休んでないで戦うのじゃ!」
下の方で叫んでいる女がいた。
服装からすると魔導職系か。
だが見た目がヤバい。
醜い魔女がババァになった感じだ。
腰も若干曲がっている。
ボサボサの長い髪と甲高い声で女と判断したが、できれば関わりたくない。
「オレに命令するな。お前は誰だ」
一瞬怯んだ様子の怪しい女。
「我は貴様を召喚した魔王軍四天王が一人、魔導軍団総帥ンダーベナ!」
なげぇ、なげぇよ。
もう一文字も頭に入ってこない。
なんちゃら四天王とか言ったか?
オレを召喚したとか抜かしたな。
お前が元凶か!!
「頼んでねーぞコノヤロー。戻せ!」
こちらの言葉に困惑した様子の化け物女。
「う、うるさい。とにかく我の指示に従うのじゃ。魔人よ」
魔人? オレが?
「断る」
「な、なんじゃと!?」
相当焦った様子の醜い女。
「どうしたンダーベナ」
なんかもの凄いのがやってきた。
コイツはちょっと格が違う気配だ。
「魔王様っ、申し訳ございません。この魔人が言うことを聞かないのです」
魔王だと!?
「フム。ならば貴様より格上なのではないか?」
「ま、まさかそのようなことは……」
「ないと言い切れるのか」
「そ、それは……」
ははは、いい気味だ。
いや、それどころじゃなかった。
魔王っつったよな。
確かにデカいし威圧感あるし顔も怖い。
でも、いきなり魔王って言われても全然ピンとこない。
「おい、貴様」
魔王がこっちを向いて言った。
「は? オレ?」
「そうだ貴様だ、魔人よ」
「いや魔人じゃねーし。オレは怪人だ」
「カイジン……? なんだそれは。ンダーベナ、説明せよ」
魔王が隣の醜婆を問い詰める。
「……さて、そのようなものは我も存じ上げませぬ」
「フン、まぁよい。貴様、名は?」
うっわ、やっぱこの展開くるのか。
ちょっと前から、もし聞かれたらどうしようって思ってたんだよなぁ。
うーん、うーん……シンプルイズザベスト!
「――リュウ」
「リュウか……いい名だ」
よし、なんとかセーフ。
「あんたは?」
オレだけが名乗るのは気に入らない。
マヌケ女がめちゃくそ慌てていた。
「フハハハハ、面白い。我が名は魔王ザナドゥーク。覚えておくがよい」
知らんがな。
魔王でいいや。
「で、これはどういうことなんだ。あんたらは何をしてるんだ」
「人間どもが挑んできたので相手をしてやっている」
魔王に挑む人間……勇者パーティとかそういう感じ?
え、もしかしてオレ勇者やっちまったのかな。
知らなかったで済ませられるといいんだが。
「で、オレを呼び出したってことは劣勢だったのか」
女もどきがまたパニくっている。
「いやなに、ちょっとした余興だ」
魔王が笑って答える。
オレの腹の内を探るような目をしていた。
よく考えたら、コイツが苦戦するわけねーな。
ってか余興で呼び出されたのかよ!
時間差で本気の怒りが湧いて来た。
「帰してくれ」
「ム?」
「ム、じゃねーよ。もう充分働いたんだから帰してくれって言ってるんだよ」
魔王だか勇者だか知らねぇが付き合ってやる義理はない。
こちとら早く戻って博士に調整してもらわないと。
「それは無理じゃ」
急に老けた魔女みたいになったな、四天王の女。
「どういうことだ」
「魔人召喚の活動時間は10分なのじゃ」
活動時間って制限時間的なヤツか。
「で?」
「10分経てば自然に戻るじゃろ」
自然に、じゃねーよ。
この世界の自然の概念どうなってんだよ。
まぁ、いい。
たった10分の我慢だ。
「あと何分だ?」
「5分少々じゃな」
そこへまた矢が降り注いできた。
カツン、カツン……。
しつこいな、これ。
誰がやってるんだ?
「ほぉ、この程度ではびくともしないか」
魔王がこっち見て笑ってる。
「先に片付けよう」
魔王がゆらりと動き出したと思ったら、一瞬で姿が消えた。
さすがに速さは一流かよ。
「なにをしておる! 貴様も早く行くのじゃ!」
あ、きた召喚女。
なんか今カチンときたわー。
ブチ殺したいけど、万が一ってこともあるから我慢しよう。
バサバサバサ…。
それにしても我ながら快適な飛行体験だ。
加減速も方向転換も旋回すらも、自由自在。
やはりバッタを選んで正解だった。
おっと浸っている場合ではない。
人間は……コイツかな。
神官っぽい服の男がいた。
こちらを見上げて恐怖の表情。
飛ぶヤツが珍しいわけでもないだろうに。
あ、もしかして見た目?
そんなに見た目やばいのか、オレ。
でも人を見た目で判断してそういう顔するヤツはおしおき決定。
空からバッタキィィィィック!
ドガッ!
神官、地面が割れてその割れ目に埋まりましたー。
たぶん息はある(と思う)。
カチン。
また矢が飛んできて後頭部に当たった。
しつこいな。
振り返ると弓を構えた人間発見。
雉も鳴かずばって……あ、異世界じゃ知らねぇか。
お返しにこっちも飛び道具をお見舞いしてやろう。
「1番2番、5番6番。シューッ」
オレもなんか言ってみたw
ワンテンポ遅れて背中から脇腹にある左右の気門から計4発のミサイル発射。
意思があるかのようにうねりながら飛んでいくミサイル。
一応ホーミング性能まであるぞ。
ドガァァァァン!
命中!!
あ、爆散してしまった。
これは死んだな……うん、完全に死んだ。
ま、攻撃した以上、反撃されるのは自己責任。
オレのせいじゃない。
せめて成仏してくれ。
南無阿弥陀仏。
――うちは浄土宗だ。
「貴様ぁ!」
どこかで聞いた声だと思ったらイケメン二刀流。
またお前か。
ワンパターンすぎるだろ。
バキッ!
後ろ蹴りを食らわすと、最初のヤツみたいにすっ飛んで壁に激突。
壁が崩れて瓦礫に埋もれてしまった。
弱い。
弱すぎる。
ところで、人間はあと何人残ってるんだ?
見るとどう見ても人間側は劣勢。
ゴツイ奴が二人ほど、それぞれ人間をボコっていた。
あっと思う間もなく一人は腹に穴を開けられ、一人は首を捩じ切られて死亡確定。
ぼーっと突っ立って見てたらいきなり怒鳴られた。
「なんだ貴様はッ!」
横から殴りかかってきやがった。
今度は人間じゃなくて、身の丈3mはありそうなバケモノだった。
攻撃は回避したが、すごい圧だ。
直撃したらさすがに無傷とはいかないかもしれない。
「やめろ。お前は魔王の部下じゃないのか」
「魔王様に対してなんと無礼なッ!」
あ、そうきちゃうの?
論点すり替えやがってコノヤロー。
面倒くせぇなぁもう。
両腕をぶん回して突進してくるので飛んでかわす。
「虫の分際でぇッ!」
いや、確かに虫だけれども、分際言われてもなぁ。
お前は牛っぽいぞ。
「やめよ」
いつの間にか魔王が隣に来ていた。
気付かなかった。
コイツやっぱ結構やるのかもしれない。
「魔王様ッ」
下がって頭を垂れるバケモノ。
おおっ! さすが魔王。
さすまお。
魔王はそれには反応せず、手から赤い光線みたいなのを出して残りの息のある人間にまとめてトドメを刺してしまった。
南無阿弥陀仏。
そう言えばあの女騎士はどうなったんだ?
周囲を探すと、既にボロ雑巾みたいになって死んでいた。
これはさっきの魔王の光線じゃなくて、他のヤツにやられたっぽい。
「リュウよ」
魔王に呼ばれた。
「なんすか」
無意識に敬語(?)になってしまった。
「大儀であった。貴様の働きに感謝するぞ」
へぇ、魔王もオレなんかに感謝するんだ。
少しは話のわかるヤツなのかもしれない。
「貴様ァッ! 魔王様に対してその口の利き方はなんだッ!」
牛のバケモノが立ち上がってこちらへ一歩踏み出す。
ツッコミがワンテンポおせぇよ。
「よいズール。リュウは特別だ」
「し、しかし……」
まだ不満そうだな、ズールとやら。
「魔王様、全員死亡確認しました」
また別なバケモノじみた奴がやってきて魔王の前に跪き頭を下げる。
八本足の馬に乗っていやがる。
「勇者は?」
「勇者ジークフリード・ボルツはそこの魔人が最初に倒しました」
だからこっちを見るな。
てか勇者ってだれ?
最初のシャイニングなんとかのヤツ?
アレが勇者?
この世界の勇者弱すぎだろ。
「そうか。アグナス、お前も大儀であった」
「ははぁっ、もったいなきお言葉」
アグナスとかいうのが乗っていた馬から降りると、片膝をついて頭を深く下げる。
チラリとこちらを睨んだように見えた。
なんだバカヤロー。
「うむ、では戻るとしよう」
魔王がくるりと背を向けて歩き出したかと思うと、魔王の目の前に縦長の渦が現れ、その中に魔王が入って消えた。
ほほぅ、転移系のなにかか。
いいなぁ便利そうだなどこでもドア。
それで元の世界に戻れたり……はしねぇよな。
続いて他のバケモノ連中も同じように渦を出して中に消えていった。
「ちょ……おい!」
みんなできるのか、それ。
ずりぃぞ。
オレはどうするんだよ!
置いてくなよ!
と一瞬思ったものの、逆に放置してくれてラッキー。
あいつらに合わせる必要がなくなった。
そういえば、もうそろそろ10分じゃねぇのか?
……。
……。
おい!
勝手に戻るんじゃなかったのか!?
今度はオレも本気で焦る。
やはりあの四天王女の言ってることはデタラメだった。
くそが!
やっぱり帰還方法探しになるんじゃねぇか。
面倒くさいったらありゃしねぇ。





