Episode.13 連合軍と戦います
地上に連合軍の大軍勢が展開していた。
当然、向こうもオレのことは把握しているはずだ。
「データ頼む」
『了解です』
ARモニターに敵軍勢の情報が表示された。
Four-Nation Alliance
Rimruuk,PrimPrim,Gallian,Kryptonburg
Top priority target
Brave(10)
Hero(5)
Grand Sorcerer(20)
High Priest(10)
Priority target
Mage Corps(970)
Wolf Brigade(2000)
Dragon Brigade(2000)
others(95000)
「分類が雑すぎだろ。ほとんどその他じゃねーか」
『詳細な情報もありますが、必要ないでしょう』
勝手に決めんなよ、と思いつつそれもそうだなと思い直す。
「そう言えば勇者と英雄の違いは結局なんなんだよ」
『勇者は武技に優れ、英雄は魔法に秀でた者という区別があるようです』
「一緒でいいじゃねーか。それ分ける意味あんのかよ」
『この世界では魔法の習得難易度が高いため、練度の高い者は厚遇される傾向があるようです』
「なら勇者って連中は魔法が使えないわけ?」
『全く使えないわけではないようです。両方使える魔剣士というクラスもあるようです』
「え、それあの中にいるのか?」
『ひとり』
「念のため分かり易くしといてくれると助かる」
『了解です。マーカーの色をオレンジに設定します』
「了解。ほんじゃま、とりあえず映像回してくれ」
『出します』
ARモニターに現在の敵軍勢の映像が映し出された。
改めて十万の軍勢を目の当たりにすると、かなりヤバイ。
思えば人生、もとい怪人生を含めて三十三年、十万という量の何かを目にした記憶がない。
現金十万円ならあるのだが、あれは万札十枚に過ぎないからな。
あー、夏前に堀で見つけたカエルの卵はあれ、何万個かなぁ。
『カエルの産卵数は多くても一万個、通常は千五百から三千個程度と言われています』
うっそ、全然足りねーじゃん。
まぁ、とにかくそれぐらい感覚的にピンとこないってことだ、うん。
やっぱ全部倒せる気がしねぇ。
『効率よく排除していくしかありません』
「ヤバそうなとこから潰すとかか?」
『それもありますが、主に指揮系統の破壊が効果的です』
「ああ、なるほどね。でもそれプライオリティに入ってねーぞ」
『失礼しました。そちらもマーキングしておきます』
モニターをよく見ると、確かにアリみたいな人間どもの中にちょっと青い印がついてるのがいた。
細けぇな、おい。
オレンジは――まだ見えない。
『頃合いでしょう。お手並み拝見です、御主人様』
「合点承知の助!」
* * * *
「おい! どうしたんだこれ。故障か!?」
飛行中、突然モニターの映像が暗くなった。
『なんらかの妨害行動ですね。おそらく結界のようなものが展開したと思われます』
オーバーレイしてた現地映像の方が真っ暗になったから、全体的に暗くなったのか。
Overlay:off
既に視界に入る距離だから別に問題なし。
「結界ってなんだよ。バリアみたいなもんか?」
『物理的な障壁かどうかはわかりませんが、視覚に干渉するということは認識阻害系の効果があるのは確実と思われます』
「珍しく思われますばっかだな」
『……申し訳ありません』
異世界の理関係のオズは途端に謙虚になるのだった。
普段が普段だけにこっちまで居たたまれなくなる。
「まぁいいさ。行きゃわかるだろ」
7番パックを取り出して左腕に打つ。
Stealth Mode:on
更に5番パック注入。
Resistance:on
『いい判断です』
上から言うな。
ってか立ち直りはえーな、おい。
そんでもって毎度お馴染み。
4番パックも注入。
Clone:on
「さぁ、やってやるぜ!」
空中で加速して分身と距離を取り、敵陣の手前まで来てホバリング。
結界とはいっても完全に視界から消えているのではなく、ぼんやり半透明なドームで囲われているように見えた。
これがモニターだと真っ暗になるのが逆に魔法っぽくて意味不明だ。
「ミサイルホッパー全弾発射!」
『えっ!?』
オレと分身から合計十六発のミサイルが連合軍に降り注ぐ。
一発目二発目がドームに当たって爆発した。
あ、やっぱミサイルも防ぐのか?
と思った次の瞬間、ドームにヒビが入って割れた。
続く三発目四発目が敵陣に着弾。
ドガァァァァァン!
ズガァァァァァン!
残り全弾が無事命中して、敵が吹き飛ぶ様を見てほくそ笑む。
意外と弱っちぃ結界だったな。
「おかわり発射!」
更に十六発。
からのラスト十六発。
『御主人様、話が違います』
オズが半ば呆れたような声色で苦情を申し立てる。
「いいんだよ。これでほとんど壊滅だろ」
実際地上にいた歩兵、騎馬兵、弓兵辺りは四散して原形を留めていない。
僅かに息がありそうな兵もほぼ虫の息だった。
『御主人様、二時の方向――と十時の方向、敵です』
モニターにAlertが表示され、空中にマーキングされた敵影を確認。
おいおい、飛行部隊までいるのか?
『飛竜隊と呼ばれる空軍です』
「なんだよ、知ってたなら先に教えろよ」
『御主人様が詳細な情報は必要ないと』
「うそつけ! てめーが必要ないって勝手に止めたんだろ」
ちくしょう、こんな時にハルシネーションとか何の冗談だよ。
まぁでもこういうシチュエーションこそBモードの出番だな。
地上だと全方向の意味があんまねぇからな。
意外とウキウキ気分のまま迎撃に向かう。
シュッ!
シュシュ!
下からなんか飛んできた!
『魔法攻撃です』
だろうな。
弓じゃこんな高度まで届くわけがない。
ステルス中にも関わらず当てずっぽうでよくやるよ。
魔法にしろ飛竜にしろ、ミサイルの出所を頼りにしたんだろう。
まさか帝国の千里眼のようなものが新たに仕掛けられたわけでもあるまい。
地上にも援軍がいたのは想定外だが、とりあえず無視して、あのサイドディッシュからいただく。
分身体にも同行する指示を出して、それぞれ二時と十時の方向へ。
静かに飛竜隊の群れに突っ込んで、編成の真ん中のやや下方ぐらいでホバリング。
飛竜に乗ってる兵のBPはなんとたったの120前後。
ザコ中のザコの最下層だろこんなもん。
対して飛竜自体はBP870ほど。
普通に戦力としてはまずまずだな。
乗ってる兵は飛竜操縦に特化して訓練した感じか。
そういえば、若い兵が多い――。
あー、ダメだダメだ、余計なことは考えるな。
うん、しかしこの飛竜ってのは良く見ると面白い顔だ。
ドラゴンっていうよりもアヒルみてーだ。
いや、アレだな、むしろN700系の顔の方が近い。
なんて現実逃避してる場合じゃなかった。
「スパイラルキャノン!」
Bモードで全方位に放射された熱線が飛竜を焼き尽くす。
近くにいたものは一瞬で消失する。
距離が離れるほど威力が減衰するのが珠に瑕だが、心配には及ばず。
一番離れた飛竜ですら直撃で落下していった。
おまけに全方向だから地上にも効果あり。
つくづくおいしいBモード。
分身の方も首尾は上々。
合計二千騎の飛竜隊はきれいに全滅だ。
そのまま地上に降下すると、途中でまた魔法が飛んできた。
あれ?
やっぱ何かしら気配掴んでるっぽい?
ちょっとイヤな感じがしてきたぞ。
試しに一発わざと当たってみたが、クロカタゾウムシ譲りの外骨格には瑕ひとつ付かなかった。
威力自体は無視していいレベルだが……。
「これ、やつらの魔法が弱いってことなのか?」
『わかりません。魔法の実戦運用のデータが不足しています。この戦場で出来るだけ収集したいのでなるべく長引かせてください』
は?
無茶言うなよ。
相手は十万だぞ――って、ん?
敵軍の数がさっきより増えてるぞ。
なんだ?
飛竜隊を血祭に上げてる間に、地上の増援が増えていた。
というか、最初にいた数と見た目上はほとんど数が減ってないぞ。
なんだよ、くそ!
『どうやら私たちに全容を把握させないための作戦だったようです』
なら結界張ってたのはこのためでもあったのか。
こっちのモニターの機能を知ってるわけでもないのにえらく用心深いヤツがいたもんだ。
なかなか楽しませてくれるじゃないか、連合軍さんよ。
「でも所詮軍隊ってのは隊列組むのが仕事だから、どうしたってただの的なんだよなぁ」
呟きながら、隊列の端に隣接する位置に移動。
ステルス中なので、余裕のよっちゃんだ。
「スパイラルキャノンッ」
Aモードでぶっ放して、そのまま五度角で横にスライド。
扇形の範囲内の兵は熱線で蒸発。
運動神経が飛びぬけていい兵が回避行動するも、完全には避けられず被弾部欠損。
分身と交替してもう一撃。
これで軍勢の三分の二は戦闘不能。
攻撃範囲から漏れた残兵は分身に任せることにして、オレはプライオリティを探す。
指揮官以外、ヤツらの気配を全く感じなかったのはおかしい。
絶対に何か企んでるだろ。
「オズ、どういうことだ?」
『御主人様と同じような効果を付与されている可能性があります』
「なに? 隠蔽系魔法かスキルみたいなヤツか。それはお前でも見抜けないのか?」
『魔法や魔道具の類については、まだまだ情報不足です』
「なんかだんだんその言い訳腹立ってきたな」
『申し訳ありません』
「まぁでも長引かせるには都合がいいのか」
オズが黙ってしまった。
ほんじゃま、アナログに索敵でも頑張るか。
ん?
緑色の光がドーム状になって広がっていく。
「あれはなんだ?」
『魔法かと思われます。ルラと呼ばれる元素の大量発生を検出しました』
ああ、なんかそんなこと言ってたな。
一応、引き続き調査してはいるんだな。
ちょっと安心した。
よくよく見ていると、何が起きているのかわかった。
「回復魔法かよ!」
部分欠損で倒れていた兵たちが元通りになって立ち上がっている。
回復魔法の中でもとびきり上等なヤツじゃねーか。
なんかデジャブ感あると思ったら魔王もやってたヤツだな。
いや、そりゃ英雄様に失礼か。
『おそらく回復系の英雄ですね』
「姿が見えなかったぞ」
実際今も見えていない。
が、おそらくあのドームの中心だろうとヤマを張る。
ダッシュして接近。
やはり緑ドームの中心にそれらしき人の姿はない。
だがしかし!
オズに計算してもらったルラ発生の中心点に向かって高速飛行で突っ込む。
ドガッ!
きゃあああああっ!
「ほらな」
『お見事!』
攻撃がヒットしたのがきっかけかどうかは知らんが、突然可視化された。
白い服の女が血まみれで倒れていた。
「スパイラルキャノン!」
思わず最強兵器を撃ってしまい女は瞬時に蒸発。
ざまぁ――。
『後ろです!』
ギィィンッ!!
いきなり肩口に衝撃が来た。
しかし、見えないオレへの予測攻撃だったためか、装甲の一番硬いところに当たったので無傷そして無痛也ワハハハ。
「ホッパー1番」
――無反応。
『御主人様、残弾ありません』
そうだったチクショー。
初っ端で全部撃ち尽くしてたっけ。
スパイラルキャノンもさっき三発目撃ったよな?
あれ?
――あれ????
絶体絶命じゃねーか、くそが!!!
慌てて飛びあがり、距離を取る。
1番2番パックを続けて左腕に打つ。
Red buff:on
EN full charged
『御主人様、分身を解除してください』
「なんでだよ、今ピンチじゃねーか」
『いいから早く!』
Clone:off
下から全身漆黒の鎧を纏った騎士のようなヤツがこちらを見上げているが、視点は定まっていない。
さっき後ろから斬りかかったヤツだ。
そして、よほど自信があるのか既に不可視化を解除している。
マーキングオレンジ!
コイツが例の魔剣士!?
BP:3100
ウッソだろマジか!?
アグナスやドラグレッドよりもつえーじゃねぇか。
いかにも最強の剣です、みたいなデカくて迫力のある剣を構えて全方位に気を配る。
そらそうだろう。
見えない敵と戦うんなら自然とそうなる。
そいつが何かもごもごしゃべったかと思った瞬間、大雨が降ってきた。
なんだ?
雨の魔法? 水属性?
ふと無性に不安になってそっと地上に下りる。
『御主人様、足下に注意してください』
足下?
え、まさか、この泥土になった地面でオレの位置を特定するつもりなのか?
やべぇ。
つい足を一歩引いてしまった。
シュッ、と短く鋭い呼気と同時に黒鎧が斬りかかってきた。
めっちゃ速い!
垂直上昇でかわす。
コイツ、耳もいいのかよ。
「この辺だ。やれ!」
そいつが剣をオレの方に向けて叫んだ。
なんのことだ?
一瞬考えたのが分かれ目。
四方から何か飛んできたかと思ったら、煙がもうもうと立ち込めた。
煙幕筒か?
『動いてはいけません』
なんでだよ、と思う間もなく別なものが飛んでくる。
くそ!
当たりやがった。
ペイント?
当たった部分が赤く染まる。
そのまま下に垂れていき、オレの左腰から左脚まで真っ赤に。
『飛行時の空気の動きで読まれました』
うっそだろ、そこまで用意周到に準備してたってのか?
この短時間で?
しかもなんというアナログ手法。
だが確実な作戦だ。
更に大量の何かが高速で飛んでくる。
色とりどりに見えたそれは魔法。
種類はわからんが、とにかくヤツらの持てるありとあらゆる属性の魔法を放ったのだろう。
くっ。
さすがに逃げきれず被弾するが、ダメージはない……はず。
と思ったら羽根直撃!
よりにもよって後翅に被弾した。
そこは脆いんだよチクショーめ!
ベチャッ!
くそっ!
地面に落ちやがった。
その音がまさにオレの今の気分を象徴していやがる。
直後、これまで姿を隠していた勇者たちが一斉に飛び掛かってきた。
羽根がうまく使えない以上、飛んで逃げることも高速移動も出来ない。
イチかバチか、スパイラルキャノン!(Bモード)
バシューーッ!!
ふぅ、間一髪間に合った。
最後一斉に突撃してきやがったのは十人の勇者どもか。
攻撃行動に入ると隠蔽効果が解ける系のヤツだったのか?
とにかく見えたのは幸いだった。
そして――あの黒鎧もしとめたはず……!!!!
周囲を見回そうとした瞬間、怖気がはしった。
オレのすぐ真後ろにいやがった!!!
至近距離どころか、ほとんど密着状態。
こえーよ、ホラーかよ!
慌てて距離を取ろうとした瞬間、バランスを崩した。
あれ?
どうした?
――熱い、なんか熱いぞ。
左腕が熱い……。
『失態です御主人様。申し訳ありません』
左腕の二の腕から先が失くなっていた。
ピピピ、とモニターにマーカーが表示された。
そこにオレの左腕が落ちていた。
肩先の切り口から緑色の液体が滴り落ちている。
怪人の血液は緑色なのか、と妙に冷静に考えていると、後ろに気配が――。
門もなしに、魔王ザナドゥークがそこに立っていた。





