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イセカイジン 〜異世界召喚された怪人415号の行き当たりバッタリ伝説〜  作者: くろイけ


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Episode.14 魔王とサシで話します

「何事かと思えば、また派手にやっているではないか」


 ニヤニヤ顔(に見える)の魔王がゆっくりと近づいてきた。


 背後で、黒鎧の殺気が上昇するのがわかった。


「ははは、見た通りの負けっぷりだ」


 別段恥ずかしさも悔しさもなく、むしろ清々しい気分だった。


 左腕からの出血は止まっていた。

 オズが応急処置をしたのだろう。


「突然体力が削られて焦ったのは我の方だぞ、リュウ」


 あー、それでか!

 腑に落ちた。


 盟友の絆と強制転移だ。

 魔王の盟友の効果にあったな、そんなの。


「申し訳ない、油断した」


 平身低頭、平謝りするほかない。

 よりにもよって己の軽挙妄動で魔王の体力を削ってしまうとは。

 やっぱ恥だわ、くそ!


 ところで……魔王、もしかして怒ってる?


 そうは見えずとも、内心穏やかではない可能性もあるぞ。


 上目使いに様子を伺うが、相変わらず読めん。


「よい。そのための盟友だ。役に立ってよかったではないか。フハハハ」


 これは……まさか助かったのか?

 セーフ!!


 さすまお!

 寛大なる御方よ。


『御主人様(マスター)、魔剣士に注意してください』


 ああ、わかってる。

 なんか必殺技でも放とうかってぐらいビリビリきてるからな。


 シュッ!


 またあの呼気――と思った次の瞬間にはベチャッと音がして黒鎧は地面で泥まみれになっていた。

 上から何かで押さえつけられているかのようにジタバタしている。


『魔王の力です。膨大なルラが発せられています』


 魔王が左手をアイアンクローのような指の形にしてまっすぐ伸ばしていた。


 あれで黒鎧を抑え込んでいるってのか?

 どんな魔法だよそれ、もはや超能力だろ。


「くっ、魔王め。やっと会えた……くそっ!」


 黒鎧がなんと起き上がろうとしていた。

 声を聞くと、途端に人間っぽくなってくるから困ったもんだ。


「ほぉ、我を知っているのか。どこかで会ったことでもあるかな」


「しらばっくれるな! 父の……父の仇っ!!」


 黒鎧は魔王の呪縛を跳ねのけたかのように突然本来の動きを取り戻すと、あの物騒な剣を構えたまま魔王に突進していった。


 目にも止まらぬ速さ。

 そこから繰り出す上段からの斬撃。


 ガギィン!


 魔王の左手がガッチリ剣を受け止めた。


「なっ!!!!」


 黒鎧が驚愕の声を発した次の瞬間、魔王の右腕が黒鎧の胴体の真ん中を鎧ごと貫いた。


 そのままオレの目の前で、左腕を薙ぎ払って首を飛ばす魔王。


 右手がゆっくりと百八十度回転しながら胴から引き抜かれると、頭を失った首から血をピューピュー噴き出しながら黒鎧(だったもの)はその場に崩れ落ちた。


「お前など知らぬ」


 魔王が低い声で呟いた。


 オレは動けずにいた。

 声も出せない。


 怪人でも金縛りになるんだな。


「リュウよ、すまぬ。お主の獲物を奪ってしまったな」


 何事もなかったかのように会話を続ける魔王。


「あ、ああ。いや別に構わねぇよ。そいつもそれが望みだったみたいだし」


 しゃべれた……ほっ。


 黒鎧、父の仇とか言ってたな。

 あの世で仲良く成仏してくれ。


「南無阿弥陀仏」


「それはなんの呪文だ?」


「いや、呪文っつーか、お祈りだよお祈り」


「フン、敗者に祈りなど不要。リュウよ、甘さは捨てよ」


「お、おぅ……」


 甘さ、か。

 確かにオレは甘かったな。

 そのせいでこのザマだ。


「それで、減った体力の方はその、大丈夫なのか」


 おそるおそる聞いてみる。


「気にするな。勝手に回復する」


 あ、そうなの?

 やっぱやべぇヤツだな魔王。

 さっきの黒鎧の剣を左手で受け止めたのも相当やばかったが、自動回復持ちかよ。


 つか、オレの左腕もたぶんあの斬撃で斬られたんだよな?


『そうです』


 いたのかよ。

 なにずっと黙ってたんだよ。


『反省していました。私のせいでこのような事態に陥ってしまったことを』


「お主の方こそ、大丈夫なのか」


「え!?」


 あ、この腕のことか。


『欠損は修復できません。羽根の方は現在修復中です』


 やっぱダメか。

 てか、羽根の方は治るのか、よかった。

 それは不幸中の幸い。


「まぁなんとかなるさ。それよりこんな弱いヤツに持たせておいたらまたいつ体力削られるかわかんねぇぞ。だからこれ、返しとくわ」


 右手から指輪を抜き取って、魔王へ差し伸べる。


 今回は助かったが、物騒なものであることに変わりはない。

 この機会に返してしまおうというわけだ。

 ないとは思うが逆パターンも可能性はゼロではないし。


 魔王は指輪ではなく、オレの眼をじっと見据えて言った。


「いや、それには及ばぬ。それはもうお主のものだ」


 はっきり拒否されたからには、どうしようもない。


 すごすごと指輪を右手の人差し指に戻しながら、現状を再確認する。


 今のオレは左腕はないわ、羽根は修復中だわ、残弾はないわで相変わらず絶体絶命状態なのに変わりはないのだ。


 万が一にも魔王の機嫌を損ねるようなことがあってはならない。


 だが、せっかくの機会だからちょっと質問コーナーいいかな。


「なぁ。せっかくだから、ちょっと話がしたいんだが」


「別に構わぬ。だが、お主にしては珍しいな」


「まぁ、せっかくの機会だからこの際腹割って話そうと思ってな」


「フム、面白い」


 こうして突然魔王とサシで話すことになってしまった。




* * * * *




 こういう時は回りくどいのは避けて直球勝負あるのみ。


「魔王は何が目的なんだ。やっぱ世界征服とかなのか」


 なんという厨二病なセリフか。


「世界征服だと? フハハハ、面白い事を言う。そんなことをしてどうする」


 否定された、のか?

 なんだか自分の質問が酷く恥ずかしく思えてきた。


「いや、人間は皆殺し、的な? 世界は魔族のもの、みたいな」


 ますます自分がアホに思えてきた……。


「解せぬな。魔族も人間もそれ以外も、様々な種族が共存共栄してこそ、この世界が豊かになるのではないか」


 え?

 オレが思ってたのと真逆の方向性キタコレ。


「そりゃそうだけど、でも人間とは争ってるんだよな」


「人間が勝手に我らを敵視しておる。それこそ見境なしにな」


「それじゃあやっぱ共存共栄は難しいんじゃないのか」


「人間が皆そうなら確かにその通り。しかし現実はそうではない」


 なんとまぁ……。

 信じられん。

 魔王がこんな考えの主だったとは。


「ならどうするんだ?」


「お主も見境なく人間を殺していたな」


「……それは申し訳ない」


 やばい、これはやばい流れかもしれない。


「良い。お主にはお主なりの理由があってのことだ。我がとやかく言うことではない」


 さ、さ、さすまお!!

 魔王教があったらオレも信者になるわ。


「それなら魔王はこのまま現状維持でもいいってことか?」


「そう思っていたのだが、最近の人間どもは少し増長が過ぎるようだ。お主がやるというなら我も協力するぞ」


 いやいやいや、オレが決定者みたいに言うなよこえーよ。

 今、完全にオレが魔王ポジだったろ。


「リュウよ。お主はこの世界でなにがしたいのだ」


 逆に質問キター。

 しかも一番本質的なヤツ。


「なにがって……そりゃ元の世界に帰ることだよ、決まってんだろ」


 これはマジだ。

 ぶっちゃけそれ以外どうでもいい。


「元の世界というのは、そんなにいい所なのか」


「いや……それは……」


 いい所などでは絶対にない。

 両親を殺され、たった一人の妹を殺され、オレは人間を捨てた。


 そして組織の下っ端として日々使い捨て同然に扱われていたのだ。


 全てはあのヒーローどものせい。

 日本防衛機構、即ちJDO(ジェイドゥ)の連中のせいなのだ。


「どうした?」


「いや、なんでもない。イヤなことを思い出していただけだ」


 魔王がまたオレの表情を伺っているような気がした。

 こんな怪人の表情なんてわかるわけがないと思うのだが、あながちそうでもなさそうなのが魔王の魔王たる所以なのかもしれない。


「それならこの世界におればよいではないか」


 見透かされた気がした。


「それも悪くないかもしれないが、色々と問題があるんだよ。主にメンテナンス的な意味で」


「メンテナンス?」


「なんでもない。こっちの話だ」


「とにかく、オレはいきなりこっちに連れてこられて迷惑してんだよ」


「それは申し訳ない。帰還方法について調べたいならンダーベナに協力させるが」


 なんか懐かしい名前だな既に。


「いや、今はいい。必要な時はこっちから出向くよ」


「そうか。我も少し調べておこう」


 マジ?


「ああ、頼むよ。助かる」


 本当かどうかはわからんが、アテにしないで待っておこう。


「我は城へ戻るが、お主はどうする?」


 魔王がさっさと門(ゲート)を開きながら尋ねてきた。


 あ、もう帰る気マンマンですね。


「オレは残るよ。なんか、その……悪かったな」


 もう一度謝っておこう。


「くどい。だが、あまり無茶はするなよ、リュウ」


「わかってる」


 魔王は振り返ることもなく、ゆっくりと門(ゲート)の中へ消えていった。




* * * * *




 はぁ~緊張した。


『お疲れ様です、御主人様(マスター)』


「お前も途中で何か言ってくれよ。こっちはずっとタイトロープで生きた心地がしなかったんだぞ」


『すみません、周囲の状況を確認していました。現在、敵の生存者は二千六百三十五人です』


「え、そんなに残ってた? あらら」


『回復が可能な英雄がまだ二人生きています。排除しますか?』


「スパイラルキャノンはあと二回だったか」


『はい。しかし……』


「しかしなんだよ。歯切れ悪いな」


『先に脱皮を推奨します』


「ダッピ? だっぴって脱皮のことか? そんなことできるの?」


『御主人様(マスター)、さてはマニュアルを読んでませんね?』


「え、あーはははは。いや、読んだよ。読んだけどちょっと記憶力が、ね」


 ウソだけど。


『ウソですね』


 勝手に心を読むな。


『失礼しました。しかしそれで色々と合点がいきました』


「なんの合点だよ」


『御主人様(マスター)が御自身の機能に対して無知なことについて、です』


!!??


「テメーこのやろう、言うに事欠いてなんだよその言い草は!」


『事実を述べたまでです』


「ちげーよ。読んだって言っただろ」


 確かに読んだんだ。

 ただ内容と読んだこと自体を忘れただけなんだ。


『往生際が悪すぎます、御主人様(マスター)』


「ちっ……。そういやお前、なんであの時分身解除しろなんて言ったんだよ。分身がいたらあいつら全員オレに斬りかかってくるなんてこともなかったんじゃないのか」


『あれは処理能力限界の問題です』


「んあ? どういうことだ」


『分身中は二体分の個体を制御しなければならないため、処理負荷が高くなり、情報分析や戦況確認に回すリソースが不足してしまうのです』


「はぁ? そんな大事なこと今更言うなよ」


『マニュアルに書いてあります。最重要事項のひとつです』


「……知ってたよ」


『ウソです。無意味な抵抗は恥の上塗りですよ』


「ちくしょー! バカヤロー! 勝手にしろ!!」


『ですからまず脱皮です』


「だから脱皮ってなんなんだよ。ひと皮剥けます的なアレかよ」


『ひと皮もアレもよくわかりませんが、とにかく必要なことです』


「わかったよ、やりゃいいんだろ。どうやるんだよ」


Molting:available


 あ、なんかモニターに表示されてる。

 これ、最初からあったようななかったような……。


『脱皮可能表示です。available状態で脱皮を宣言すると脱皮プロセスを開始します』


「開始するとどうなるんだよ」


『全ての残存エネルギーを使用して脱皮します』


「は? それじゃエネルギー切れになるんじゃねーの?」


『徐々に消費していき、使い切った時が脱皮完了なので問題ありません』


「いや、脱皮完了してもエネルギーゼロじゃどうしようもねぇだろって話!」


『ああ、そこからですか。仕方ありませんね』


「そういう嫌味はいいからとっとと答えろ」


『自分の不作為を棚に上げてよく言いますね。よくある上司タイプですか』


「なんでお前が人間社会の上下関係知ってる風な口きくんだよ」


 カン、カンカンカランコロン……。


 何か音がしたかと思うと、すぐ目と鼻の先に何かが転がってきた。

 一瞬身構えかけたが、途中でその正体がわかった。


 黒鎧の頭だった。


 魔王に吹っ飛ばされてどっか高いところにでも引っかかってたのが、何かの拍子に落ちてきたのだろう。


 手を伸ばそうとするとオズが警告してきたが無視。

 完全に頭部を覆っている兜を外す。

 右手一本なので少々手間どったが外れた。


 !!!!?


「おい、これ……」


『これは驚きました。信じられません』


 オズをしてそう言わしめた理由は、男の顔そのものだった。


「なんだこれは」


『強いて言うなら鬼、でしょうか』


 鬼と言うには人間味がありすぎる顔ではあったが、普通の人間とは明らかに異なる形相。


 大きく見開いた目、禍々しい表情。

 そして額の真ん中に短い角――はおそらく途中で切断したのだと思われる。

 剥き出しの歯は、鋭く尖った牙だった。

 中でも犬歯が発達していて、口を閉じてもはみ出るだろ、な形状。


 おそらくこの兜自体、防御というより顔を隠すためのものだったに違いない。


「体は……あっちか」


 男の体の方に歩み寄り、よくよく見ると体格も人間より大きくガッシリしている。


「うおっ!」


 横に落ちていた剣を拾おうとして、その重さに驚いた。

 怪人のオレでも充分に重量感がある重さだ。

 おそらく十キロ近くあるだろう。


『約八キロです』


 あっそ。

 それでも異常な重さだ。


「これ、もらってっていいかな」


『構いませんが、どうするつもりですか?』


「いや、やっぱ近接武器がひとつくらいあってもいいかなと思って」


『剣術の心得は?』


「ねーよ、んなもん。柔道ならあるぜ!」


 昔、じいちゃんに稽古をつけてもらってたからな。


『剣とは無関係ですね』


「ま、まぁいいじゃねぇか。ちょっと調べてみたら何かわかるかもしれねーし」


『調べると言えば、御主人様(マスター)。腰の空のパックを取り出してください』


「え、ああ、これか」


 8番パックの隣に空のパックが二個あるのだ。

 実はちょっと気になってた。


『それで魔剣士の血液を採取してください。頭からでも体からでもいいので』


 お、おう。

 なんか知らんがとにかくオズに言われた通りの手順で採取する。


「どうするつもりだ?」


『いえ、せっかくなので勇者の遺伝子でも調べてみようと思います』


「ふーん。ま、なんかわかったら教えてくれや」


『了解です。では御主人様(マスター)、脱皮しましょう』


 しましょうって言われてもなぁ。


『安全な場所が必要です』


 安全な場所ねぇ、安全安全っと……あ!


『よい考えです』


 オズも読み取ったようなので、早速移動開始だ。

 後翅はもう完全に修復済みだ。


 オレは勢いよく飛び立った。

 生存者などもうどうでもよかった。

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