52、レイナの実家にいきました
橘 信司は緊張していた。
レイナの家に行って、話し合いをしなくてはならなかったからだ。
「レイナさんが街一番のお嬢様だったなんて、気付きませんでした」
信司はため息をついた。
持っている服から仕事着を選ぶと、レイナの案内でデューク家に向かった。
「あの家です」
レイナが指さす先には、大きなお屋敷があった。
庭先から、家が見えないほどの大きさだ。
信司は息をのんだ。
「それでは信司さん、説得よろしくお願いします」
レイナが笑顔で言った。
「ただいま、お父様、お母様」
「おかえり、レイナ。そちらの方は?」
「橘 信司と申します。レイナさんにはお世話になっています」
「こちらは、お嬢様が働いているお店の経営者です」
セバスチャンが言った。
「働いている? レイナが?」
母親が動揺した。
信司は静かに頭を下げた。
「よろしかったらお茶でも飲んで行かれませんか?」
父親が屋敷の中に招き入れた。
家の調度品も高級そうな骨董品が上品に並んでいる。
信司はぶつからないように気をつけながら、父親の後について行った。
「こちらで、お茶でもいかがですか?」
「それでは、お言葉に甘えて」
信司は、ゴクリとつばを飲み込んだ。
レイナは普通の町娘と名乗っていたから、素直にそれを信じていた。
「なぜ、ウチの店で働いているんですか?」
信司は小声でレイナに聞いた。
「猫ちゃんが好きだし、お店も綺麗で楽しそうだったから」
レイナは小さな声で言った。
「嘘をついてごめんなさい」
「橘さん、レイナが働いているというのは本当ですか?」
母親はそう言ってから、はっとして自己紹介をした。
「私、レイナの母でシーズと申します」
「レイナの父のレンドと申します。どうぞ、お座り下さい」
その言葉と同時にセバスチャンが、客間の椅子を引いた。
「それでは、失礼致します」
信司は素直に席に着いた。
レイナは信司の隣に座った。
テーブルの向かいには、レンドとシーズが座っている。
「紅茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
セバスチャンが四人に紅茶をサーブした。
「それで、お話なのですが、レイナは働いているのですよね」
「はい、猫様が主役という店で働いて頂いています」
信司は紅茶を一口飲んだ。
喉がカラカラに渇いていた。
「なぜ貴方は私たちに秘密で働こうと思ったの?」
シーズがレイナに尋ねた。
「お母様達は反対すると思って……。ごめんなさい」
レイナはうなだれた。
「レイナはよく働きますか?」
レンドが信司に聞いてきた。
「はい、それは頼りにしています」
信司は微笑んで答えた。
「それでは、社会勉強させて頂きなさい」
レンドはレイナに言った。
「え!? 許して下さるんですか!?」
レイナの言葉にレンドとシーズは頷いた。
「信司さんも良い人みたいだし、猫様が一番という店は新聞に載っていましたし」
シーズが言った。
「そのかわり、他の人に迷惑をかけないように」
レンドはそう言うと、席を立った。
「信司さん、レイナをお願いします」
レンドが頭を下げると信司は恐縮した。
「こちらこそ。レイナさんは、抜けられると困る大事な従業員です」
信司も深々と頭を下げた。
今日は信司だけが店に戻ることにした。
レイナは家に留まった。
「まさか、こんな大きなお屋敷のお嬢様だとは思いも寄りませんでした」
信司は一人、帰り道で呟いた。




