34、オムライス好きのお客様が来ました
橘 信司は迷っていた。
それは、あるお客さんが、食事を吐いている様子があったからだ。
そのお客さんは週に一回はきて、大盛りのオムライスを食べた後、必ずトイレに行く。
信司はトイレの掃除をしようとすると、決まってそのお客さんが気まずそうに出てくるのだった。
「どうしたものでしょう・・・・・・」
「何がですか?」
信司が悩んでいると、ロイが話しかけてきた。
「あのお客様ですが、食事の後トイレで戻している様子があるんです」
「それは注意した方が良いんじゃないですか?」
ロイは事も無くそう言った。
信司は首を振った。
「精神的な問題であれば、お医者様にかかって頂きたいのですが」
信司はロイを見つめた。
「繊細な問題なので、ちょっと様子を見てみましょう」
「わかりました」
ロイは頷いた。
お客の名前はメイと言った。
「メイ様、ちょっとお話があります」
「はい・・・・・・!?」
メイはうろたえていた。
信司は台所の奥にメイを連れていくと優しく言った。
「メイ様、お食事に問題がありますか? お口に合わないとか」
「いいえ。とても美味しいです」
メイは顔を伏せて答えた。
信司は優しく言った。
「メイ様はお食事をトイレで戻してらっしゃいませんか?」
「あ、あの、すいません」
「いえ、こちらでは何もできませんから。 お医者様にかかっていらっしゃいますか?」
「いいえ」
メイは俯いている。
「猫様は癒やしになります。ですが、メイ様の心は直せません」
「私、病気ですか?」
信司はメイの言葉に首をかしげた。
「私はお医者さまではありません。ですが、猫たちも心配しています」
メイは涙をこぼした。
「メイ様に今必要なのは、猫様だけでなく、お医者様の力かもしれませんよ」
信司は優しく、メイの小さな手の上に、大きな手のひらを重ねた。
「もし、一人で行くのが怖いのなら、私がお医者様まで付いていきましょうか?」
メイは首を振った。
「大丈夫です、一人で行けます」
「それは良かった」
信司は優しく微笑んだ。
ロイはその様子を見て、感心していた。
「信司さん、優しいんですね」
「いや、昔ですが妹を摂食障害という病気で亡くしているんで・・・・・・」
ロイは訊ねた。
「摂食障害ってなんですか?」
「食事が取れなかったり、食べ物を体が受け付けなくなる病気です」
信司はそう言ってから黙り込んだ。
メイが帰った後は、いつも通り穏やかな時間が流れた。
「メイ様、良くなると良いですね」
ロイがそう言うと信司は答えた。
「時間がかかるとは思いますが、そう願います」
二人はドアの向こうを見て言った。




