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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
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1-7 闇の中、思う

 普段は白い頬を薄く朱に染めて、ティアは酒の入ったコップを握り締めた。

 大きな誤算である。セフィは、やたらと酒に強かったのだ。殆ど飲んでいないはずのティアの方が先に参りそうになって、諦めてコップを下ろす。

「僕はてっきりティアさんも討伐隊に志願しに来たのかと思ったんですよ。小さいのに…あ、すみません。でもとにかく、小さく見えるのにこんな所にいるってことは、きっと何かあるに違いないと思ったんですよね。それで…」

 …まあ、饒舌になっているから、多少は酔っているのだろう。顔色は全く変わっていないのだが。

「それで、もしかして、『白銀の炎』に何か恨みでもあるんじゃないかって、勝手に想像してたんです」

「『白銀の炎』?」

 突然出てきた聞きなれない言葉に、ティアはついつい聞き返す。

「あれ、知らないんですか?このあたりに邪神信仰の宗教団体が住み着いたってこと」

「それは、知ってますけど…」

「それのことですよ。『白銀の炎』教団っていうんです。終焉属性に対する警戒が厳しくなったのも、そのせいです」

「…邪神信仰の宗教団体が、終焉属性の者を集めている。」

「そうです。前はハイエンゼあたりにいたそうなんですけど、そっちでは終焉属性の魔術と思われるものでかなりの被害が出たとか。物騒ですよね」

 ハイエンゼは、ファルマフォルク第2の規模を誇る街。先の村で聞いた噂は本当だったのか…と、改めて思う。

 ふぅ、と、ティアは小さく息をついた。放って置けるものなら、そうしたかった。唯の噂であって欲しかった。しかし…真実であった以上、放っておくことはできない。…終焉属性として、これ以上迫害を強める要因となることは、見過ごせない。

「討伐隊の受付って、どこでやっているんですか?」

「あれ? ティアさん、志願するんですか?でもさっきまで…」

「気が変わったんです」

「そうですか? では、僕も明日志願しに行くので、一緒にどうですか?」

 少し訝しそうではあったものの、セフィはあっさりと言う。やはり、多少は酔ってるのだろうか。追求がなくて良かった、と思いつつ、ティアは少量残っていた酒を飲み干した。


 その食堂兼酒場の二階の宿屋に一部屋とり、昨日と同じく扉に魔法をかける。そうしてマントを剥ぎ取るように脱ぎ捨てて、ティアはベッドに転がった。

 ぐるぐると、回り続ける思考。考えてもどうしようもないことばかりが、浮かんでくる。

 どうして、終焉属性というだけで差別されなければならない? 危険だからか? 破壊しか出来ないからか? 何度も何度も繰り返した、問い。

 それらは、確かに事実だ。制御を身につけているとはいえ、ティアも終焉属性。その危うさは、彼女自身が一番よく知っている。それでも…。

「…オレだって、好きで終焉属性に生まれたんじゃない…」

 ぎり、と手を握りしめる。

「オレ達だって、力を暴走させたくなんかない…」

 呻くような声が、こぼれる。

「なのに…全部、オレ達がいけないのかよ……」

 握り締めた手にずきり痛みが走り、ティアは我に返った。慌てて手を開くと、手のひらにくっきりと爪の食い込んだ跡。そこからうっすら滲み出した血。

 このままでは剣を持つのに支障が出る。そう思いティアは小さく唱えた。

「…闇は我が思いを導く。我が身に安息の癒しを」

 闇属性の治癒呪文。

「闇属性だけなら、思い悩むことも無かっただろうな…」

 呟いて、苦笑する。終焉属性であることは、変えることの出来ない事実。だから、ティアは決めたのだ。『終焉属性が、ただ破壊だけのものでないことを証明する』と。

 でもそれは、なんて難しいことなのだろうか。世間では忌み嫌われ、宗教団体には、ただ破壊の力としてのみ求められる。まるで、兵器のようだ…と、自嘲するように乾いた声で笑う。

「けど…オレは、道具じゃない」

 呟いてから、思った。この言葉、つい最近、どこかで聞いたような気がする、と。


 『ティアは、道具じゃない』


 ふと、思い出す。そう、それは夢。今朝見た夢の中で、たった一言聞き取れたレヴィンの言葉。それが、そうだった。

 ただの夢だ。しかも、悪夢。それでも、ティアはふと嬉しくなる。

「うん。師匠、オレは、道具になんかならない。

 オレはオレ…アストランティアだ。それ以外の何にもならない。負けてたまるものか!」

 それは、小さな決意。小さな声で、しかし、意思を込めて呟く。


 そうして、夜は更けていった。


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