1-5 泡沫の悪夢
茫洋とした視界。全てが現実感なくふわふわとした中に、ティアはぼんやりと浮かんでいた。
(ゆめ、だ…)
虚ろな意識の中、泡のように浮かび上がってくる思考。なぜか、ここが夢の中だという自覚だけはある。
やがて、白霧の中から滲むように色が浮かび上がって…見覚えのある景色が、映される。
レヴィンと共に暮らしていた、先日旅立ったばかりの家。ティアの背を見送ったレヴィンの前に、見慣れない男が現れる。男は口を開き、レヴィンに何か言う…しかし、その言葉の内容はわからない。レヴィンが首を横に振ると、男が何か合図をした。
すると、辺りの茂みから十数人が現れて、レヴィンを取り囲む。皆、髪か目が銀色…終焉属性だ。
それから、もう一度男がレヴィンに何か言う。彼は再び首を横に振った。
男が、再び合図する。終焉属性たちが、一斉に攻撃を仕掛けた。レヴィンはそれをかわし、呪文を唱え、火球を爆裂させる。何人かが倒れたが、それでも終焉属性たちは全く怯まない。
数の差で、徐々にレヴィンは追いつめられていく。千切りとられた服から覗く肌、肩で息をするレヴィン。男が合図を送り、攻撃をやめさせる。そして、三度何か言い、レヴィンは三度それを拒否した。そして、口を開く。
その言葉だけは、なぜかティアに届いた。
「ティアは、道具じゃない」
* * *
「……っ!!」
声にならない叫びを上げ、ティアは目を覚ます。全身にかいた嫌な汗のせいで、目覚めは最悪だった。
「ヤな、夢…」
予言や予知は創世属性の専売特許。夢で何かを知るなんて力は、ティアにはない。だから、気にしなくてもいいと自らに言い聞かせる。それなのに…何故だろうか? ティアの頭から、嫌な予感が離れない。
「…気にしても仕方がない。オレは予知なんてできないし、仮に何かあっても師匠は強い。だから…大丈夫だ」
自らに言い聞かせるように声に出す。
窓の外には、上ったばかりの太陽が、清清しい光を降らせていた。
昨晩女将に聞いた、『リーフォルクに人が集まってる』というのは確かな情報だったようだ。街道を進むにつれ増えていく人に、ティアはより一層目深にフードを被る。そのほとんどが強面の戦士風だったり、いかにもな旅の魔導士だったりというのに、何ともいえない心境になりもしたのだが、だからこそ更なる警戒が必要なのだ、とも考えた。
やがて見えてきた大きな門。リーフォルクの街に入るためにはここを通る必要があるのだが、どうやらそこに検問があるようだ。多数の人が集まる以上、変な人物が入ってこないようにするための、当然の処置なのかもしれない…と、列の最後尾に並びながら考える。
と、ふとティアは何かに気がついたように立ち止まった。
(あー…オレ、やばくないか? 師匠お墨付きの『立派な不審者』だぞ?)
危機感を強めながらも、後ろから咎められて、前へと進んでゆく。やがて、ティアの順番が訪れた。
「次! …ん? 何だ、お前。そのフードを取れ」
案の定、ティアは検問で呼び止められる。一瞬、迷うが…ティアは意を決したように言った。
「あの…私…」
普段は絶対に出さないような、か細く可愛らしい声。これぞ必殺、猫かぶり! と、半ば自棄で心の中で言った。本当は、こういった『女であること』や『子供っぽい外見』を利用したくは無いティアとしては大変不本意なのだが…仕方がない。
相手が子供だと判断した検問の兵士の声が、少し柔らかくなる。
「何だ? まだ子供か。でも、一応規則は規則だからな。フードを取って顔を見せてもらえるか? 終焉属性の奴が紛れ込んでないかどうか、調べなきゃならんのだ」
「あの…私、顔に、その…傷がありまして…その…見られたくないんですけど……」
もちろん、嘘だ。
「うーん…とは言ってもな」
職務忠実な兵士に、ティアはフードの下で軽く眉をひそめた。
最悪の場合、ここで引き返して単独で宗教団体を追っても別にかまわないのだが…内部に入ったほうが、情報を集めやすい。それに、保存食なども買い足しておきたい。
仕方がない、引き返そう。そう思った時だった。
「いいじゃないですか。嫌がってる女の子の顔を無理やり見ようとするなんて、大人気ないですよ」
唐突に、ティアの後ろから声がかけられた。




