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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
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1-4 旅路の先の影


 ティアがレヴィンの下を旅立って1日。足元の地面もやっと人の手が入ったものになってきて、ティアはこれまで住んでいた場所がいかに人里離れた場所だったかを思い知った。とはいえ、街道まではまだ距離がある。今のうちにとばかりに、ティアは立ち止まって持ってきた地図を広げた。

「さて、どこへ行こうか…。ええと、今いるのが、ファルマフォルクとクラウンヴィーレの国境辺りだろ? とりあえず、大きな町でも行くかな。とすると…ここか」

 とん、と、地図の一点を突く。そこは、闘神ファルマの加護深き国、『闘争国家』ファルマフォルクの首都・リーフォルク。ティアの住んでいた国、クラウンヴィーレの隣国で、国境のすぐ近くにある都だ。

 地図をバックパックにしまって、少し歩いて街道に出る。ちゃんとした道を歩くのは、本当に久しぶりだ…と、妙な感慨を抱きつつ、フードをしっかりと被りなおし、リーフォルクに向かって歩き出す。人気の無いこの街道を歩いているのは、今のところ誰もいない。しかし、油断は禁物だ。

 終焉属性と知られたら、まず間違いなく殺される。


「それにしても…いつもどこかと戦争してるって評判のファルマフォルクにも、静かな場所はあるんだな…」

 あまりにも静かな道行に、ティアはぽつりと呟いた。これまで暮らしてきた場所は、ファルマフォルクに近いとはいえ一応クラウンヴィーレだったため、戦争とは縁が無かった。なにしろ、二国の国境はほとんど山である上、『交易国家』クラウンヴィーレは小さいとはいえ豊かで他国とも仲がいい。攻めるといろいろ厄介だと、ファルマフォルクも手出しを控えていた。

 物騒だと聞いていたファルマフォルク。いきなり襲われてもいいように心構えしてきたティアとしては、何となく拍子抜けしたのだった。


 そんなとりとめもないことを考えながらも、足は確実に前へと進む。

やがて、夕暮れの紅い光の中、見えてきた大きくはない村。人々のざわめきや生活の匂いに、久しぶりにレヴィン以外の人を見た、なんて思いながらも、ティアは一夜の宿を求めて村に入った。



  *  *  *



 それほど遅いとは言えない時間ながら、村で一軒だけの宿屋はほぼ満員だった。何とか一人部屋に泊まれたのは、運がよかったからとしか言えない。

(ここ何もなさそうなんだけどな…。こんなに賑わうなんて、何かあったのか…?)

 そう疑問に思い、ティアは夕食をとりながら、宿屋の女将に声をかける。

「なあ、この村、何かあったのか?」

 恰幅のいい女将は、フードを被ったままのティアを怪しそうに眺めながら、逆に聞き返す。

「何だい、ボウヤ。剣提げてるってことは剣士なんだろう? なのに知らないのかい?」

「…? 有名な話なのか?」

「有名も何も、今はその話題で持ちきりだよ。首都のリーフォルクの近くにね……大きな声じゃ言えないけど、邪神信仰の宗教団体が住み着いてさ」

 声のトーンを落としていう女将。その中にあった一言に興味を引かれて、ティアもまた声を低くして聞いた。

「邪神信仰? …破壊神ブリーティス、か」

「そうだよ。その宗教団体が終焉属性を集めてる、って噂でさ。実際に被害も出てるらしいよ。それで今、リーフォルクで討伐隊の人員を募集してるんだってさ。それに志願する人が、続々とリーフォルクに向かってる、ってわけなのさ。ここからリーフォルクまで、あと一日って所だからねぇ」

「………」

 到底無視できない言葉を並べられて、ティアは沈黙した。

 世の中には、変なことを考える奴もいる。そうして、時々邪神信仰というものも現れるのだが、大体は無茶苦茶なことを言っているだけだ。しかし、それが変に組織力をつけてしまうと、大変なことになる。そして、今回。実際に終焉属性を集めてるとなると…ティアは胸がむかつくような感覚を覚えた。

「ボウヤも剣士なら、それが目的かと思ったんだけど…違ったみたいだね」

 女将はそう言って苦笑いした。ティアは沈んだ低い声のまま、彼女に問う。

「…その討伐隊に入るのって、何か資格でもいるのか?」

「別に何か必要だとは聞いてないね」

「ふぅん…。じゃ、オレも行ってみるかな!」

 そう言ってティアが立ち上がると、女将は慌てて言った。

「お待ち! 討伐隊でももう何人もやられてるんだ。ボウヤみたいな小さい子が行くのは、死にに行くようなものだよ!」

 ティアは、思い切り溜息をつく。男だと思われているのは別にかまわないので放っておいたのだが、流石に『小さい子』は頂けない。

「あのさぁ。オレ、これでも一応16歳。立派に成人してるの!」

 そういうと、女将は呆気にとられたような顔をした。次いで、ごまかすように笑い始める。

「あ、あら?そうかい。それは、悪かったわねぇ。お、おほほほほほ…」

(あぁ…オレって、どうしていつも年齢より幼く見られるんだろう…。絶対に身長のせいだ。ひいては師匠のせいなんだっ!!)

 ここにはいないレヴィンに全責任を押し付けて、ティアは客室へと向かった。


「邪神信仰で、終焉属性集めてる宗教団体…か」

 部屋に入って、閉ざした扉にもたれ、ティアはぽつりと呟いた。

「よくあるパターンだと…あれか」

 終焉属性の象徴は『変革』。今の世の中は腐りきっている。だから今こそブリーティスの加護の元、終焉の力を持って世界に革命を起こし、新たな世界を創るのだ…と。勿論、そう言ってる自分達こそが新たな世界の指導者となるべく選ばれた存在である、って続くのは、まあお約束。

 こういう奴らがいるから、終焉属性が余計悪く言われることになる。だから、ティアは宗教が大嫌いだ。

 扉から背を離して向き直り、その扉に手を翳し、言う。

「闇は我が思いを導く。この戸を不可侵の領域に」

 一瞬、扉が闇に包まれる。闇属性魔術の特殊能力、気配消失と感覚霍乱。これで、この扉は見つけようと思っても見つけられないし、万が一見つけられたとしても、開ける気は起こらない。

 魔術は、攻撃・防御・回復の系統があり、各属性ごとに得意、不得意がある。闇属性なら、攻撃はやや苦手、防御はそれなり、回復はやや得意といった感じだ。そして、地属性と光属性以外には、その他に特殊能力というものがある。今使ったのは、その特殊能力に属するものだ。後は、発動する速度が属性に依存する。

 唱えた言葉に深い意味はない。その気になれば、思うだけで魔術は発動できる。けれど、こうして何かしら発動のきっかけになる動作を決めておくと、精神集中もしやすいし制御も楽だ。ティアはレヴィンを真似して『呪文』と称する言葉を唱える。他にも色々な方法があるらしいが、ティアは知らない。

 そうして、人目を気にしなくて良くなった後、ティアはマントを脱ぐ。そう重くはないのだが、視界を遮るものがなくなり、ほっと一息ついた。せめて、銀色なのが髪だったなら、染めて隠すこともできただろうに、と、こういったときは特に思う。

 明日にはリーフォルクに着く。そうしたら、もっと気が抜けなくなる。今日のうちにしっかり眠っておこうと思い、ティアは早々にベッドに潜り込む。


 そうして、ティアは眠りに着いた。


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