3-1 船旅
明るい日差しが降り注ぐ甲板で、ティアはのんびりと海を眺めていた。優しい海風が髪を揺らし、頬に落ちる影の形を変える。昨日より大きくなった島影と、ゆらゆらと表情を変える白波に見入っていると、上から人の形の影が降ってきた。セフィだ。
「ティアさん、よく飽きませんね…」
「そうか? 見てると面白いぞ。…まともに見るのは初めてだしな」
そう言って、ティアは目を示す。『薄茶』のその両眼を。
船に乗ったばかりの時は半信半疑でフードを取っていたものの、今となってはもはや慣れたもの。マントを羽織らずにいるのも久しぶりのことだ。
鎧代わりに金属糸と防御の付加魔術を織り込んだチュニックもそこそこの重量があるが、いろいろと仕込んでいるマントは更に重い。久々に開放されたように背伸びをして、ティアは随分と柔らかくなった微笑を浮かべた。
「で、何か用か?」
「いえ、下船準備しなくていいんですか? もうそろそろスウォルですよ」
アクラルーシェの東端の町、船の寄港先の名を上げるセフィに、ティアは足元を示した。そこには、折りたたまれたマントと小さなバッグがひとつ。ティアの持ち物の全てだ。
「な?」
「参りました…って、このマント重っ!」
手を伸ばして荷物を持とうとしたセフィが、呻いた。
「あー…」
「一体何をどうしたらこんな重いマントが出来るんですか!?」
「いや、ほら…」
言いながら、ティアはマントの内側に手を伸ばす。手を引き戻したとき、そこには小さな皮袋が4つほど握られていた。
「こういうのが山ほど仕込んであるからなぁ」
そのうち1つの袋の口を緩めて、中身を少し手に乗せる。小指の先ほどの鈍い銀灰色の粒を見て、セフィは首をかしげた。
「これは?」
「オリハルコンの粒。こっちがミスリル、これがアダマンタイトで、こっちは金。あと宝石類も…セフィ?」
名称を聞いた瞬間顔色を変えたセフィに、ティアは説明を止めて首を傾げる。
「な…なんでそんな希少金属が普通に出てくるんですか!?」
「旅費」
一言で答えて、ティアはオリハルコンを袋に戻した。
オリハルコンは魔力を増幅する効果があり、魔導師には非常に有用なのだが、産出量が少なく非常に高価だ。
ミスリルは銀の変種で、魔力増幅の効果はないものの、素直に魔力を通す。これも魔導師や魔戦士にはありがたいが、やはり産出量は少ない。
アダマンタイトは魔力に対しては通常の金属と同程度の親和性しか持たないが、非常に硬く粘り気があり、しかも比較的軽いため、武器の材料に最適であるが、これも希少である。
金は言わずもがな、どれもこれも、換金すればしばらく路銀には困らない。
「あのな、前言ってたと思うが、換金できるもの持たずに旅する旅人がいるか!?」
「でも、ティアさん身に着けてないって…」
「身に着けてないだけで、隠し持ってないとは言ってない」
バッグを持ち上げ背負うと、ティアはその上からマントを羽織り、端を首から肩にかけて巻くようにしてマント留で止める。
そういえば、ティアが激しく動いても、マントが大きく靡くことは少ない。せいぜい裾がはためく程度だ、ということにセフィは思い当たった。なるほど、こういった理由があったのか、と、セフィはこっそりと納得する。
「おー、流石観光都市。綺麗だな」
船は、いつの間にかもう港につこうかとしていた。船の上から見える、白と青を基調とした美しい町並みに、ティアは楽しそうに声を上げる。
「少し観光していってもいいかもなー」
桟橋に停泊したのであろう、鈍い揺れを感じて、ティアはすたすたと歩き出す。セフィもそれに続いた。




