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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『闇色の巫女』
42/53

2-8 茶番劇


 生ぬるいですが流血描写があります。

 苦手な方はご注意ください。

 



「く……ッ!!」

 口元を押さえて座り込む。げほり、と、湿った咳と共に込み上げてきたものを吐き出せば、それは信じられないほど大量の血で。

 ティアは、そのまま地に伏せた。

「ティアさん!?」

「ア……ぐッ…!!」

 次いで訪れる、耐え難い痛み。

 ティアの中で蠢く『何か』が齎すのは、体の中をぐちゃぐちゃにかき回されるような感覚。本来あるべきものを食い破り、壮絶な痛みを与えながら這い回る『何か』。そのあまりの気色悪さに、ティアは思わず腹を掴んだ。

 ロゼが駆け寄ってきて、ティアに手を当てる。一瞬、痛みが和らぐ。だが…

「…ァ!!」

 びくりと、ティアの体が跳ねる。ロゼの流し込む癒しの力に抵抗するように、『何か』の抵抗が強まった。

「ロ…ゼ……っ!! やめ…ろ……」

 痛みで霞む視界の中、ティアは手探りで剣の鞘を探る。そこに仕込まれた、細く薄いナイフを引き抜いた。

「ッ!」

 一瞬。ほんの一瞬だけ、ティアは強引に痛みを払いのけた。そして…『何か』が蠢いているのを感じる、左の脇腹に…思いっきりナイフを突き刺した。


「ティアさん、何を!?」

「ぅあぁっ!!!!」

 思わず漏れる絶叫。『何か』が一層大きく蠢く。でも、その場から動くことはない。そのまま、ナイフを捻ると…一瞬、びくりと震えが走り、『何か』は沈黙した。


「…もう、大丈夫、だ……」

 震える声で、ティアはセフィ達に言う。セフィは真っ青な顔で、起き上がろうとするティアを支えてきた。

「何だったんですか、一体!?」

「さあ…? 何か、仕込まれたみたいだ…」

 小声で回復魔術を唱えながら、ナイフを抜こうとして…


「しゅ、終焉属性…」

 怯えた声が、聞こえた。


 港の方から出てきたのは、そろそろ壮年の域に入ろうかという男性。ティアを見て、震え、腰を抜かしている。

 その時になって、ティアはやっと気付いた。視界を遮るものがない。いつのまにかフードが脱げてしまっているという…その、事実に。


「ば…化け物め! お前が、お前が…魔物を呼び寄せたんだな!?」

「ちょ…ティアさんは、そんなのじゃ…!!」

 セフィの声が届く前に。


「何だ…騙してたのか!?」

「終焉属性…破壊の化け物め!!」


 男の叫びを聞きつけた町の人々が、手に即席の武器を持って、集まってきた。



「離れてろ、お前達」

 ぽつりと言って、ティアは立ち上がる。全身を走る痛みのせいで、かえって麻痺してきた体は、意外にもしっかりと動いた。

「おねぇちゃん、ダメだよ…」

 ロゼが見つめてくる、その瞳には、うっすら涙が溜まっている。ティアは、うっすらと笑みを浮かべた。

「何か、予知したのか?」

「いったら、ダメ。そんざいしないはずのいろが、おねぇちゃんをつかまえにくるよ」

 必死で言い募るロゼを見ながらも、ティアの心は、もう決まっていた。

「ゴメンな、ロゼ。…セフィ、ロゼを頼む」

 セフィの返事は聞かずに、オレは2人から数歩離れる。そして、にんまりと、できるだけ悪役に見えるように、嗤った。その間にも、叫びを聞きつけた人々が集まってくる。

(…馬鹿だな、オレが本当に『悪い奴』だったら、全員纏めて消し飛ばされるぞ!? やっぱ、平和ボケしてるんだなぁ…)

 場違いなことを考えながら、もう一度ごふ、と咳き込む。手に散る赤い色を見ない振りして、口の中に広がる鉄錆の味も無視して、ティアは銀の瞳を細めた。


(さてと…茶番劇を始めようか)

 血で粘つく口を動かし、ティアは言葉をつむぐ。

「…ったく。揃いも揃って馬鹿ばっかだな。こんなフード1枚で誤魔化されてくれるんじゃ、世話ないぜ」

「化け物! この町から出て行け!!」

 声と共に飛んできた石を、ティアは終焉の魔術で消し去った。

 町の人が、どよめく。

「騒ぐなよ。出ていけってんなら、出て行ってやるさ。

 まあ、それで平和になるなんて思ってんだったら、とんだお笑い種だがな」

 言い置いて、そのまま後ろに倒れこむ。

 後ろには、海。

(ああ…傷、絶対痛いだろうなぁ。でも、他に逃げ道もないし)

 大きな水しぶきを立てて、ティアは海に落ちる。

 泳ぎ方を教えてくれたレヴィンにひっそりと感謝しながら、ティアは水中で反転する。薄れそうになる意識を必死で繋ぎとめながら、シルドラの外目指して泳ぎだした。


 最後に見たのは、セフィとロゼの蒼ざめた顔。

 二人の無事を祈りながら、ティアは水をかいた。



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