2-6 とある朝の珍事
空が徐々に白んでいくのを瞼越しに感じて、ティアは瞳を開くと、溜息をついた。結局、一睡も出来なかった。
昨夜、海辺で出会った女の事。ロゼの言っていた言葉。街のどこにいるのかわからないセフィ。考え事だけが尽きず、寝そびれてしまったのだ。
「…やめやめ。どうせ、考えたって答えなんて出ないんだ」
これ以上考え込んでいるわけにも行かず、声に出すことで、強引に思考を断ち切る。そうして、ティアは横のベッドで眠るロゼを起こそうと寝台から起き上がった。
と…
がちゃ、と音を立てて、部屋の扉が開かれた。
「おはようございます。ティアさん、起きてますか?」
「………」
ティアは、無言のままその扉の向こうを眺める。それから、横で眠るロゼを見て、再び扉の向こうを眺めて。
「…何故、いる? セフィ」
抑揚なく、ティアは扉の向こうの彼に問う。
「今日は、早起きしてティアさんたちを探してたんですよ。食事、一緒にしませんか?」
答えを聞くと、ティアは無言のままこめかみに指を当てた。
「お前、オレ達が寝てたら、どうするつもりだった?」
「…そういえば、それは考えてませんでしたね」
ティアは、おもむろに枕元に手を伸ばす。そこに置いてあったマント留を鷲掴みにすると、大きく振りかぶり…
「デ……」
「で?」
「デリカシーって言葉覚えてから、出直してきやがれーっ!!!!」
叫びながら、全力でセフィに向かって投げつけた。
がつん、と、かなり痛そうな音がする。額を押さえて蹲るセフィを尻目に、ティアはつかつかと扉に歩み寄ると、転がっているマント留を回収し、扉を閉めた。
無言のまま、朝食を口に運ぶ。
「あのー、ティアさん…」
セフィが声をかけるものの、ティアは規則正しくナイフを動かすだけ。
「ティアさーん…本当にすみませんでした」
カップを手に取り、中身を一口。
「どうしても、早く伝えたいことがあったんですよ…」
そのカップを置くと、セフィの方を見て、一言。
「食事は、黙って食え。解ったな!?」
「……ハイ…」
満足げに頷いて、再びナイフとフォークを手に取り、ティアは再び食事を再開する。
食事も終わって一息ついて、ティアはやっと口を開いた。
「…で、何を伝えようと思ったんだ?」
「その前に…許していただけますか?」
「何を?」
「いえその…怒っていたんじゃないんですか?」
一瞬、流れた静寂。
「何でオレが怒る必要があるんだ? 呆れはしたが。謝るなら、ロゼにだろ?食事を静かに食べることくらい、常識だ」
横で静かにジュースを飲んでいるロゼを見る。
「寝てるところ乱入されたロゼならともかく、なんでオレが怒ってるなんて思ったんだ? …まあいい。で、何の用だ?」
セフィは、しばらく何ともいえない顔をしていたのだが、やがて気を取り直したように顔を上げた。
「ええと…領主さんの頼み、受けてきました。ティアさんには、しばらく迷惑をかけてしまいますが…」
「別に、構わないさ。そういうことなら、協力もする。ただし、今回、オレは戦力にならないからな。サポートはするが」
「へ? ティアさん、強いのに…」
「あのなぁ…」
ティアは辺りに誰もいないことを確認すると、声を潜めて言う。
「闇属性は、攻撃は苦手なんだよ。それとも何か? 終焉の魔術を、街中で使えってか!?」
「あ! そうでした。すみません…」
ティアは一つ溜息をつくと、マントの裾を払って立ち上がる。
「まあいい。とりあえず、今からどうする?」
「とりあえず、港の方に行ってみようかと」
ティアは小さく頷いた。そして、ロゼを見る。
「お前は、どうする?」
ロゼは、大きな目を向けて言った。
「ロゼもいく」
「わかった。じゃあ、オレはロゼの護衛でもしてるよ」
そうして、宿に荷物を置いて、3人は港へ向かった。




