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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『闇色の巫女』
39/53

2-5 始まりの音は流れ


 Pv4000、ユニーク1000を突破しました。

 お気に入り登録してくれた5名の方、そして読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!

 歩みの遅い小説ではありますが、今後ともよろしくお願いします。

 



「…っ!?」

 ぞくりと悪寒を感じて、ティアは飛び起きる。

「この嫌な感じ…魔物か!?」

 窓を開け放ち、魔力の流れを手繰る。低く緩やかに、流れる一筋の魔力の流れ。『これだけは俺以上』とレヴィンをして言わしめたほど、ティアは魔力に敏感だ。底冷えするようなその魔力を、ティアが間違えることなどない。それは、夕方魔物が現れた時に漂っていた魔力だ。

 天には未だ、皓々と光を放つ月。ロゼを起こしてしまわないように、窓を半分だけ閉めて光を遮る。

 マントを羽織り、剣を腰に下げ、フードをしっかり被ってから、ティアは窓枠に足をかける。軽く窓枠を蹴り、道に向かって飛び降りて、全身を使って落下の衝撃を殺し、着地。ほぼ無音で、ティアは道に降り立つと、休むまもなく走り出す。魔力の流れを追って。

 その先にあるのは、夕方魔物が現れた港。


 しばらく走ると、魔力の流れと共に、妙な音が聞こえてきた。

「笛、か?」

 夜も更けた時間にそぐわないその音は、重苦しい魔力を孕んで流れる…と、唐突に笛の音が止まった。それと同時に、ティアは音の源のあった場所に走り出る。


「あらあら。こんな夜更けにこんな所まで。危ないですわよ?」

 闇を染め上げる蒼い月と、海を彩る細波。それらを背後に従えて、一人の女が立っていた。

 その髪は、月光に染まった銀に似た色。銀-終焉属性と思うには、彼女はあまりにも堂々としすぎているから、本来の色は白-光属性、だろうか?

 目の色は、わからない。女は、目元を薄いベールで覆い隠していた。

 上品なブラウスに、大きなリボンタイ。足を完全に覆い隠す長いスカートは、膝の辺りで一旦は窄まって、そこからまた開くという動きづらそうなもの。全てが黒で統一された装いは、死者の安息を願う意味を持つ服、喪服を思わせた。そして、その手には、服には不似合いな横笛。

「お前こそ、こんな所で何してる?」

 ティアは、女に向かって一歩詰め寄る。穏やかそうな外見を裏切って、あの嫌な感じの魔力は、彼女から出ている。

「わたくし、この時間にしか外に出られないのですわ」

 女は、洗練された所作で笑ってみせる。しかし、ティアは鋭い声で返した。

「嘘付け。お前、魔導士だろ!? オレは魔力を追ってきた。魔物が現れた時感じたのと同じ魔力をな。これは、お前の魔力だろう!?」

 ティアがそう言っても、女は微笑みを浮かべたまま、小さく首を傾げて言う。それは、むしろ楽しそうであった。

「あら? とても頭がよろしいのね。それに、とても鋭いわ。…そんな怖い顔をなさらないで下さいな。わたくし、あなたとはお友達になれると思っておりますのよ?」

「友達だと? ふざけるのもいい加減にしておけよ!?」

「ふざけてなどおりませんわ」


 その時、女が初めて動いた。

 動き難そうなスカートの裾を綺麗に捌いて、ティアの傍まで歩み寄る。

「わたくしとあなたは、よく似ておりますもの。…あなたも、この世界は生き難うございましょう? わたくしも、同じ」

 そして、その冷たい手が、そっとティアの胸に触れる。

「ですから…邪魔しないで下さいな」

 凍りつくような声で女が言った瞬間、刹那の硬直が解けて、ティアは女の手を振り払った。

 数歩、彼女から離れて、無意識に自らの体を抱きしめる。女が触れた瞬間、ティアが感じたのは…どこか懐かしい感覚と、寒気すら呼び起こす酷い嫌悪感。


「うふふ…では、ごきげんよう」

 女は、ひらりと身を翻す。

「待て!!」

 追おうとした、その瞬間…

 女の足元から、何とも言えない色の光が立ち上り、女の姿を隠した。後には、何も残ってはいない。ただ、平穏な夜の海が広がるだけ。

「何!? …まさか、空間転移? あの女、時空属性…」

 と、いうことは、見えなかった瞳は灰色をしていたのだろうか?




 あとから思えば、これが、あの巨大な陰謀の始まりだった。しかし、今はそんなことは誰も知る由もなく。

 警戒しながらも、ティアは帰路に着いたのだった。



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