1-2 破壊神の娘
本日の夕食、野鳥の丸焼き野生ハーブ風味を黙々と平らげた後、ティアは食器を片付けながら、魔術書を読み始めたレヴィンを横目で見た。黙々と本を読み進める顔に表情はなく、ティアはまた視線を逸らす。洗い物が終わっても、何となくその場を動きづらく、汚れた水を捨てた後、桶に溜まっていく澄んだ水を見ていた。
やがて波紋が収まると、薄い水鏡の向こうに、少女の顔が映る。肩につくかつかないか程度の黒髪、年よりもやや幼く見える顔立ち。そして両眼の、銀の瞳。不吉なその色は、ティアが終焉属性である証だ。
『世界を…スティライルを守護するのは、10柱の神。魔術は、持って生まれた神の加護に依存し、人は皆1柱か2柱の神の加護を受けて生まれてくる。そして、1柱の神に対して、一つの属性があり、加護を受けた神の支配する属性の魔術のみが使える。』
魔導士でなくても、誰でも知ってるような有名な話。10の属性が存在し、10の系統の魔術がある。
地、水、火、風、光、闇、霊、創世、終焉、時空。これら10の属性に、それぞれ対応する色がある。そして、人はほぼ例外なく、加護を受けた神の色を纏って生まれてくるのである。だから、髪と目の色を見れば、属性がわかってしまう。
例えば、師であるレヴィン。彼は地属性の『金』の瞳に火属性の『赤』の髪。ティアの髪は黒、闇属性の色。そして、瞳は銀色。
銀…それは、終焉属性を表す色。忌み嫌われる、破壊の力を宿す証。
終焉属性は、破壊神の加護を受ける属性。銀の輝きを纏うその属性は、ただ破壊することしか出来ない、最悪の属性。全ての属性の中で最強の攻撃力、最速を誇る発動速度。そして、とても不安定でいつ暴走するとも知れない…生きた災害。終焉属性に生まれた子が癇癪を起こしただけで、町ひとつが消え去ったこともあるという。
「ティア」
レヴィンに呼ばれて、ティアは水面から視線を離し、彼に向き直った。視線を魔術書に落としたまま手招きをされ、ティアはゆっくりとレヴィンに歩み寄る。
「何ですか?」
「お前、俺のところに来てから何年になる?」
唐突な問いかけに、ティアは首を傾げつつも思い出す。
「ええと…確か、そろそろ10…いや、11年になります。けど、それがどうかしましたか?」
問いかける声には答えず、レヴィンは魔術書を閉じた。
「お前も、そろそろ独り立ちすべきだろう。お前ももう16歳、立派に大人だ」
「え…?」
一瞬、ティアの頭の中が真っ白になった。
「師匠…あの、オレ…」
「何だ、鬱陶しい。はっきり言え」
「……オレ、『ブリーティスの子』ですよ?」
ティアは、どこか諦めたような、自嘲的な笑みを浮かべた。
『ブリーティス』とは、終焉属性の神の名前。邪神とすら呼ばれる、最強最悪の破壊神。その名を冠する『ブリーティスの子』という言葉の意味は、二つ。一つは、そのまま『終焉属性』という意味。そして、もう一つは…『魔物』という意味。
魔物については、実のところまだよく解ってない。確かなのは、魔物は人を害するもので、魔術に似た力を使うという事くらい。数が少ない上、そのほとんどは北の最果て、毒の大気と草木の生えぬ土壌の国ともいえぬ国、ヘルブリーティアにいるだけのため、目立った被害はない。しかし、現れたなら到底太刀打ちできないバケモノ。
そんなものと同じ呼び方で呼ばれるくらいに、終焉属性は忌み嫌われている。それ故に、終焉属性の子供は、誰もいないような場所に捨てられるか、殺される。
ティアは、運が良かったのだろう。何も解らなかった彼女を…災厄として殺されるはずだった彼女を、レヴィンは引き取り、育てた。しかし。
「師匠、オレを監視してなくていいんですか?」
きっと、そういう意味もあったのではないかと、ティアは思う。そのくらいあってもおかしくない、と。
だから…ティアは、自分からそう言った。肯定されることを、疑わずに。




