1-1 銀の少女と太陽の青年
森の静寂を切り裂いて、鈍い爆音が響く。その中心地、雑草の一本すら残らず消え失せた地面から身を起こし、少女は頭を押さえた。
「……ったぁ。また失敗かよ…」
短い黒髪を払い砂埃を落としつつ立ち上がると、綺麗な円を描いて消失してしまった元・森を見渡し、頭を抱えて溜息をつく。
「師匠にバレたら…」
「バレたらどうするんだ?」
突如、後ろからかけられた声に、少女は動きを止める。そして、そーっと後ろを振り返ると…いた。
一つに束ねられた長い髪は、緋色の絹のよう。金色の瞳は宝石よりも美しく。『地に降りた太陽』とさえ謳われる美青年は、呆れたように少女を見ていた。
「し…師匠…。相変わらずの無駄美形ですね…」
あはは、と笑ってごまかそうとするも、師たる青年の眼差しは変わらない。流石に十年以上同居している見慣れた顔ではあるのだが、やはり元が美形なだけはあり、ただ黙って立っているだけであるにもかかわらず、妙に迫力がある。
「ティア」
名を呼ばれて、少女-ティアはぴくりと震えた。それでも何も言わずにいると、青年は再び口を開く。
「アストランティア=クルストーラ。問いには答えろ」
滅多に呼ばれないフルネーム。そして、声に篭る僅かな苛立ち。これは、かなり怒っている。そうしてティアはついに観念して、口を開いた。
「魔術、失敗して…暴走しないように押さえつけたら、この通り…」
そして周囲を示す。ティアを中心とした数メルテが不毛の大地と化している様を見て、青年は溜息をつくように言った。
「『終焉』の力を使って、このザマか。…まだまだ未熟だな」
「それは…っ!!」
何かを言おうとするティアの声を遮って、青年の声が冷たく響く。
「俺にバレたら、何だったと言うんだ? 何を隠す? …これが、俺を殺す魔術か?」
「違う! これは…」
とっさに叫んで、ティアはしまった、と口を塞ぎ…しばしの沈黙の後、呻く。
「…相変わらず、性格悪ぃな。とっくの昔に、あんたを殺す気なんて失せてるって知ってて、それを言うのか? 師匠…レヴィン=クルストーラ」
久々に師の名を口に乗せて、ティアは思う。最初は、確かにレヴィンを殺すつもりで彼についていった。もう、十年以上前の話だ。その自分が彼を慕うようになったのは、一体何時のことだっただろう?
彼に連れられて世界中を旅して回っている時か。クルストーラの姓を貰って、彼の養女となった時か。それとも…彼を『師匠』だと認めた時からだったか。はっきりとは思い出せないけれど。
「まあ、いい。帰るぞ、ティア」
それだけ言ってきびすを返したレヴィンに付き従い、消失を免れた本日の戦果・野鳥と野草各種の入った籠を持って、家路を急ぐ。
森の奥。何もない、生活必需品にすら困るような場所ではあるけれど。師匠と二人、静かに学びながら暮らす生活に、ティアはそれなりに満足していた。
たった一つだけ…誰にも言えない夢を、押し殺しながらではあったけれども。




