表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
32/53

1-30 解放の光

 森は無残に焼け焦げて、大地は黒い煤の色。天に冴え冴えと輝く月が、妙に不似合いですらある。

 その天すら焦がすように、炎が吹き上がる。

 それを開戦の合図に、ティアは走り出した。

 自然と、その口元に笑みが浮かぶ。炎の魔人が繰り出す、火焔の玉や炎の波。爆散する焔が、舞い散る火の粉が、世界を赤く染めていく。

 それでも、ティアは一切手を出さない。ただひたすらにその全てをかわし、いなし、時には一瞬だけ防御呪文を発動させて弾いて、ティアはひたすらに『その攻撃』を待っていた。


 時折、どこからか呼ばれるような感覚があった。

 殺せ、壊せ、全てを無へ帰せ。それはとても痛快なことで、それこそがお前の望みなのだから…そう、ティアに囁きかける、甘美な誘い。

 これが、終焉の性なのだろう、と、ティアは頭の片隅で思う。

 それを振り払うように、ティアは咆えた。

「…性だとか、運命だとか…そんな曖昧なものに躍らせられてやるほど、オレは暇でも無意思でもないんで……ねッ!!」

 言い切って、炎が起こした爆風に乗るように、ティアは地を蹴る。

 宙を舞う体。風属性を持たぬティアは、空を飛べない。今どんな攻撃が来ようとも、避けることは出来ない。


 ティアは…誘うように、笑った。

(さあ、今のオレは隙だらけだぜ? だから……撃ってこいよ。『あれ』を)



 そして、炎の魔人が放ったのは…炎の奔流。

 避けることは、出来ない。いや…ティアは、最初から避ける気はなかった。なぜならば、これこそが、ティアの望んでいた攻撃だったのだから。

 そして、ティアは賭けた。


(思い出せ、あの感覚を。

 思い出せ、あの時の心を。

 思い出せ……あの、オレが望んだ魔術を!)


「終焉は我が思いを導く…」

 ティアの声がその魔術を呼んだ、その刹那…ティアの小さな体を、炎の奔流が包み込んだ。



 火とは、不思議なものだ。

 全属性中2位の攻撃力を持つというのに。その象徴は『闘争』なのに。その特殊能力は『浄化』。

 レヴィンはその『浄化』の能力の応用を得意とする。それを間近に見てきたティアだからこそ、気付いた。


 ティアは必死で魔術を制御しながら、うっすらと目を開く。

 煌めく銀の向こうには、一面燃え盛る赤の色。

 ――ティアは、賭けに勝った。


 あの瞬間ティアが発動させたのは、『銀が齎す誓約の盾』。終焉の防御呪文。落ち着いて考えてようやく理解したこの術の特性は、外から来るあらゆる攻撃や、それに類するものを消し去るという、非常に攻撃的な防御呪文であるということ。

 だから、ティアは今、炎の只中にいられるのだ。その周りの炎が、『魔術の構成と属性を燃やして、純粋な魔力を取り出す』という、浄化の応用攻撃に近いことをやっているにも関わらず。


 つまり、これこそが、炎の魔人が属性の違う魔力を取り込めるカラクリ。

(これって、師匠の対魔導士用の切り札と、ほぼ同じ原理なんだよなぁ…)

 暢気なことを考えている暇はないにも関わらず、ふと浮かんだ考えに苦笑する。『銀が齎す誓約の盾』は、そう長時間は使えない。ティアは、気持ちを切り替えて魔術を繰った。

 防御のために使っていた力を、攻撃へと傾け、ゆっくりと手を振りかざす。


 そして、今度こそ。

「終焉は我が思いを導く…呑み込みて、無に帰せ!」

 ティアは魔術を解き放つ。炎の魔人の中から、魔力ごと、その全てを消し去るために。




 その瞬間、炎の魔人を突き破り、銀の閃光が走った。

 それは、赤に濁っていた空を、一瞬にして染め替えていく。

 焼けた石に思い切り水をかけたようなその音が、魔人の最後の咆哮。

 銀光の中に溶けるように、魔人はあっけなく、その姿を消した。


 そして、ティアは…

「…ぅわぁっ!」

「ティアさん!!」

 着地のことを全く考えてなかったティアは、結構な高さから地面に叩きつけられる直前、セフィの操る風に受け止められたのだった。

 最後の最後でみっともないところを見せてしまったことに、若干の気恥ずかしさを覚えつつも、ティアはセフィの腕の中で、珍しく声を出して笑った。

「ハハッ……勝ったぞ」

 ティアは、セフィに向かって親指を立てて見せる。

「全く…あなたという人は…」

 呆れたように言うセフィの声も、さっきまでと比べると随分柔らかい。

「あんな無茶、二度としないでくださいね。本当に、心配したんですから」

 笑うティアにかけられる、柔らかな声。

「無茶…か。でも、言っただろ? 勝算のない賭けはしないって」

「でも、最後どうなったのか、僕には全然わかりませんでしたよ」

「まあ、簡単に言うと。外からじゃ、終焉属性でも無効化されそうだったんで、防御張って中に侵入して、中から魔力ごと消し飛ばした。あの『炎の奔流』くらいしか、攻撃してきてる部分と本体が繋がってるのがなかったから、あの攻撃を誘った。それだけだ」

 改めて考えると、確かに結構無茶なことをした…と思い、ティアはごまかすように、また笑った。


 焼け爛れた地面に座り込み、周りを見回す。

 そこには、もう何も残っていない。『白銀の炎』のアジトも、周囲に広がっていた森も……アジトにいたはずの、少なくない数の人々も。

 そこには、たくさんの終焉属性達がいて。きっと、そうではない人たちもいて。…皆、死んでしまった。亡骸すら残さずに。

 誰が悪かったか、などという問いは無意味だ。責任の一端はティアにあり、炎の魔人となったネルスにも…その後ろにあった、このファルマフォルクという国にも…その中枢にいる人にもある。


(なぁ、皆。名前も知らない、死んでしまった皆。

 オレは弱いけど。でも、そのことから逃げたりはしない。

 忘れないから。今という時間に、ここという場所で、起こった出来事を。

 逃げずに、立ち向かっていくから)


 そうして、ティアは小さく祈る。

 これは、彼らに捧げる誓い。

 そして、ティア自身に対する誓い。


「皆…安らかに眠れ」

 偽善めいた言葉だ。しかし、それが心からの気持ち。ティアはそう呟いて、白み始めた空を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ