1-24 願いと誓約の魔術
「ティア…さん…」
「ティア…っ!」
遠く響く声が、届いた。
銀の光の中で、ティアは目を開く。
一つの、願いがあった。
幾つもの、誓いがあった。
たくさんの、護りたいものが…あった。
その全てを飲み込む、銀の光。ティアが放つ、その光。
絶望の…終焉の光。
「暴走したか…。始末しろ!」
若干の焦りを含んだ声が、更に遠くから響いた。
薄く霞がかった意識の中で、ティアは思う。
同じだ、と。かつて暴走しかけた『あの時』と同じ。今、自分は暴走しかけている。
けれど…
(…絶望なんてしてやるものか。オレは…まだ『オレ』だ)
茫洋とした瞳を、ゆっくりと閉ざす。次に開かれたその銀の眼差しは…意思を宿し、鮮やかな光を放っていた。
「…っざけんなよ……」
気力を振り絞り、掠れ押しつぶされた声で、ティアは呟く。
思い出すのは、レヴィンの教え。魔導士。『魔術を導く者』。魔術を確固たる意思の元制御し、その全てに責任を持つ者…そうであることを、誓った。
思い出すのは、捧げた願い。セフィを護ると誓ったこと。温もりを与えてくれた彼を、護りたいと…そう、願った。
「…オレの、力、だろ…?」
ゆらりと、ティアは立ち上がる。
絶対に負けない。全てに打ち勝ち、護り抜き、前に進み続ける。その願いを、誓いをこめて…
「だったら、オレに、従え…ッ…! 何一つ、失くしてたまるか!!」
ティアは、叫ぶ。確固たる意思を込めて。
暴走しつつあった魔力を、力ずくで繋ぎ止め、声なき声で命じる。
(傷つけるな、奪うな、何一つ。全部護って、護りぬけ!)
はじけそうになっていた魔力を、それ以上の魔力で押さえつけて。
そして…
ふと、ティアの脳裏に浮かんだ言葉。ティアが唱える呪文によく似たそれを、導かれるように口にする。
「新たなる時を切り開け。心に刻みし願いを込めて、破壊者は守護の刃を持つ…」
心に流れる言葉と、体に流れ込む力。それらを制御しながら、ティアは剣を抜き放つ。
「新たなる道を切り開け。深く沈めし願いを込めて、破壊者は絆を断ち切らない…」
剣を高々と振り上げて。
そして、ティアは唱える。
「終焉は我が思いを導く…銀が齎す誓約の盾…!!」
魔力が集束した、その瞬間。
キン、と、甲高い音を立てて、ティアと、レヴィンと、セフィ、その3人を護るように、薄い光の壁が生じた。
「…暴走を止めたその意志力は、見事だ。しかし、何をするかと思えば、防御魔術とはな。そのようなもの、終焉の力の前では無意味だと、御主自身も知っていように」
「それは、どうかな?」
男が嘲るように言うが、ティアは動じない。絶対の自信を宿す声で、答える。
男が、再び終焉属性たちに合図を送る。
「やれ」
一瞬後には、飛来する数多の光。男は、それがティアの防御術を破るのを想像していただろう。しかし…その期待は、裏切られた。
ばぢん、ばづっ、と、鈍い音が立て続けに響き…その後には、何の変わりもなく立つ、ティアと、光の壁があった。
「っな…!? 馬鹿な! 終焉属性は、終焉属性以外では防げぬはず…」
「そうだ。終焉属性は、終焉属性でしか防げない。その法則は、崩れてないさ」
ティアは、笑う。
鮮やかに、誇らしげに。凛と胸を張って。
ティアは、男に告げる。全てを防いだ、その術を。
そして、それは…ティアの願いの形。信じ続けていた、希望の具現。
「これは、終焉属性の術。
終焉の…防御魔術」




