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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
25/53

1-23 絶叫

 一歩、足を踏み出す。ティアのその行動は無意識のもので。隙だらけのティアを、それでも制止するように、男が小さく合図を送る。終焉属性たちが魔術発動を始めるのも、今のティアには見えていなかった。

「動くな」

「何で…あんた、当代最強の魔導士なんだろ? どうして、こんな…」

 周りの状況も、何も、自分には関係ないかのように、ティアはふらふらと前へ進む。ただ、レヴィンの声が聞きたくて。いつものように、不敵な笑みを浮かべて、名を呼ぶ声が聞きたくて。

「答えてよ、師匠…」

 僅かに潤んだ銀の瞳。薄霞の視界の中、赤い男が動いた。

「御主のせいだ、アストランティア=クルストーラ。破壊と破滅の担い手、呪われし終焉の娘よ」

 滑り込んでくる、男の声。

「オレの、せい…」

「そうだ。御主を庇い、この男は傷ついた。御主のせいでなくて、何だという?」

「………」

 視界が、だんだん白く染まっていく。

 何も、考えられない。考えたくない…。ティアの視界はさらに霞み、すべてのものが現実感をなくす。

「助けてやろう、その男を。だから…こちらに来るのだ」

「そっちに、行けば…師匠は、助かる…」

 ふらりと、手が持ち上がる。何かに操られるように、動く体。

 レヴィンを助ける…そのためなら、何だってする。そうとしか、考えられない…。


「ティアさん!!」

「!?」

「取り押さえろ!!」

 セフィの声が響き、ティアは夢の中にいるような感覚から覚める。

 薄霞の視界を振り払い、混濁の残る意識を断ち切って、振り向く。

 間髪開けずに男の声が響き、終焉属性のうちの二人が動く。

 カツン、と、杖が地を突く音。セフィが魔術を発動する。同時に風が動き、飛び掛った二人の動きが鈍る。

 しかし…

「ぅぐっ!」

 セフィが、頭を押さえて呻く。

 ティアが目を走らせると、祈るように手を組む、菫色の髪の少女の姿。

(紫…霊属性。精神支配!)

 即座に思い当たったティアは、先ほどの不自然な意識の混濁の原因を悟った。

「させるか!!」

 瞬間、ティアはその少女の元に走りこみ、手刀を首筋に叩き込む。

 あっさり意識を失って倒れこんだ少女をそのままに、再びセフィの方を向くと…


「そこまでだ」

 悠々と立つ男と。


「…っ」

 先ほどの精神ダメージが残っているのか…青白い顔をして、二人の終焉属性の男に押さえつけられたセフィ。

 内、一人の手には、認められた銀の光。


 そして。

 ぐったりと横たわるレヴィンに手を向けて、魔術発動を始めている、男。

 その髪は銀。発動する力は…終焉のもの。


 男が言う、

「やれ」

 その一言が。


 放たれる、銀の光。


 約束される、絶対の『死』。




  (どうして…! オレは、誓ったのに…)

 ティアを襲うのは、無力感。


  (『護る』って…もう、何も失わない、って、誓った。なのに…!)

 ティアを苛むのは、恐怖。


    (それなのに………!!)




「……イヤだ…」

 零れ落ちる、声。

 あふれ出す、魔力。



(暴走するのは…)

(夢を諦めるのは…)

(『オレ』の意思を失くすのは…)

(セフィと師匠を失うのは…)


  「絶対に、イヤだぁっ!!!!」


 それは、確固たる意思。揺らぐことのない願い。

 その叫びは、高く木霊して。

 そして………


 …銀の輝きが、溢れる。




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