1-23 絶叫
一歩、足を踏み出す。ティアのその行動は無意識のもので。隙だらけのティアを、それでも制止するように、男が小さく合図を送る。終焉属性たちが魔術発動を始めるのも、今のティアには見えていなかった。
「動くな」
「何で…あんた、当代最強の魔導士なんだろ? どうして、こんな…」
周りの状況も、何も、自分には関係ないかのように、ティアはふらふらと前へ進む。ただ、レヴィンの声が聞きたくて。いつものように、不敵な笑みを浮かべて、名を呼ぶ声が聞きたくて。
「答えてよ、師匠…」
僅かに潤んだ銀の瞳。薄霞の視界の中、赤い男が動いた。
「御主のせいだ、アストランティア=クルストーラ。破壊と破滅の担い手、呪われし終焉の娘よ」
滑り込んでくる、男の声。
「オレの、せい…」
「そうだ。御主を庇い、この男は傷ついた。御主のせいでなくて、何だという?」
「………」
視界が、だんだん白く染まっていく。
何も、考えられない。考えたくない…。ティアの視界はさらに霞み、すべてのものが現実感をなくす。
「助けてやろう、その男を。だから…こちらに来るのだ」
「そっちに、行けば…師匠は、助かる…」
ふらりと、手が持ち上がる。何かに操られるように、動く体。
レヴィンを助ける…そのためなら、何だってする。そうとしか、考えられない…。
「ティアさん!!」
「!?」
「取り押さえろ!!」
セフィの声が響き、ティアは夢の中にいるような感覚から覚める。
薄霞の視界を振り払い、混濁の残る意識を断ち切って、振り向く。
間髪開けずに男の声が響き、終焉属性のうちの二人が動く。
カツン、と、杖が地を突く音。セフィが魔術を発動する。同時に風が動き、飛び掛った二人の動きが鈍る。
しかし…
「ぅぐっ!」
セフィが、頭を押さえて呻く。
ティアが目を走らせると、祈るように手を組む、菫色の髪の少女の姿。
(紫…霊属性。精神支配!)
即座に思い当たったティアは、先ほどの不自然な意識の混濁の原因を悟った。
「させるか!!」
瞬間、ティアはその少女の元に走りこみ、手刀を首筋に叩き込む。
あっさり意識を失って倒れこんだ少女をそのままに、再びセフィの方を向くと…
「そこまでだ」
悠々と立つ男と。
「…っ」
先ほどの精神ダメージが残っているのか…青白い顔をして、二人の終焉属性の男に押さえつけられたセフィ。
内、一人の手には、認められた銀の光。
そして。
ぐったりと横たわるレヴィンに手を向けて、魔術発動を始めている、男。
その髪は銀。発動する力は…終焉のもの。
男が言う、
「やれ」
その一言が。
放たれる、銀の光。
約束される、絶対の『死』。
(どうして…! オレは、誓ったのに…)
ティアを襲うのは、無力感。
(『護る』って…もう、何も失わない、って、誓った。なのに…!)
ティアを苛むのは、恐怖。
(それなのに………!!)
「……イヤだ…」
零れ落ちる、声。
あふれ出す、魔力。
(暴走するのは…)
(夢を諦めるのは…)
(『オレ』の意思を失くすのは…)
(セフィと師匠を失うのは…)
「絶対に、イヤだぁっ!!!!」
それは、確固たる意思。揺らぐことのない願い。
その叫びは、高く木霊して。
そして………
…銀の輝きが、溢れる。




