1-22 恐怖
流血描写があります。苦手な方はご注意ください
ギィィッ…と、重くきしんだ音を立てて、扉が開いた…ティアの魔術が、発動する前に。
「騒々しいぞ、無粋だな。そんなことしなくても、扉は開いておる。入るがいい…『アストランティア=クルストーラ』」
渋みを帯びた、低い男声。聞き覚えのない尊大な声が、ティアの名を呼んだ。
「ティアさん…」
セフィが、小声でティアを呼ぶ。
お前は来るな、と目で告げて、ティアはゆっくり歩き出す。開き直ったように堂々とした足取りで、ティアは部屋の中に入った。
そこにいたのは、ずらりと並んだ銀の色。意思なき終焉属性たちを従えて、一人の男が立っている。厳格な雰囲気を纏う、どこか尊大な印象の壮年の男。赤い髪と赤い瞳。それは、火属性の特徴。そして、その身に纏うのは、暗い赤の軍服。
最悪の予感が当たってしまったことを悟り、ティアはどこか諦めにも似た悲しさを覚える。
「…ご苦労なことだな。終焉属性集めて洗脳して。また、どっかに戦争しかけるのか? 答えろよ……ファルマフォルクの軍人さんよ!!」
「その頭脳、その力、まずは見事、と言おうか」
その言葉の意味は、ティアの言葉の肯定。
「ここは…『白銀の炎』は、宗教団体に見せかけた実験場だな!? 目的は、終焉属性の兵器化か!? 洗脳して、感情消して、意のままに動く人形にして! それで、生きた砲台にするか? それとも、敵国に送り込んで暴走させるか!?」
稲妻のような銀の火花が、ティアの周りで音を立てて爆ぜる。沸き起こる怒りが、魔術の制御を緩めていく。それは暴走の前兆。けれど、それを止められない。いや…わざと、止めずにいる。威嚇行為のようなものだ。
ティアの黒髪が銀の魔力を孕んで踊る。マントの裾がはためいて指先に終焉の輝きが灯る。
「全く、惜しい。アストランティア=クルストーラよ。そこまで解っているのなら、もはや説明は不要だろう。…自らの意思で、我らがファルマフォルクの旗の下へ下れ。さすれば、そなたは洗脳せずに置いてやろう」
「断る!」
一瞬たりとも時間を置かず、ティアはそれを拒絶する。
「望む富も与えよう。ファルマフォルクの国民として、認定してやってもよい」
「そんなもの、いらない! オレの望みは、お前らを倒すこと、終焉属性を解放すること、それだけだ!!」
目もくらまんばかりの怒りを、低く熾火に沈ませて。言葉は荒く、怒りに流されてるように見せながら。ティアは慎重に魔術発動を始める。
呪文は唱えられない。それでも、セフィを巻き込むわけにはいかない。だから、ティアは努めて冷静に、繊細に、魔力を織り上げていく。
「そうか…」
男は、深く溜息をつく。
「師弟共に、ままならん奴らめ」
「……え?」
(今、何て言った? 『師弟共に』?)
集中が途切れ、銀の輝きが消える。
男が、背後に何か合図を送った。それを機に、男の後ろに居た終焉属性の一人が、『それ』を放り投げる。
どしゃり、と、重い音がして。
『それ』が、うめき声を上げる。
赤い髪。
簡素で頑丈なのがとりえの、服。
その全てが…血で汚れていて。
右肩に、未だじくじくと血を流す大きな傷。
呼吸するたびに、ひゅう、ひゅう、と…おかしな音が、する。
うっすらと開いた瞳には、そこだけは変わらぬ、常と変わらぬ、鮮やかな金の光。
ティアの憧れる、不敵で凛とした眼差し。
ティアは、呼ぶ。
みっともないくらいに掠れた声で…その人を、呼ぶ。
「……し、しょう………」
その瞳がのろのろ動き、ティアへと向く。
そうして、苦々しげに目を歪めて、ティアの声に負けず劣らずの、掠れた声で言う。
「こんな所まで来やがって……馬鹿弟子が」
そうして、ごほりと噎せこんで……
その唇に、血の紅が散った。




