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破壊者は絆を断ち切らない  作者: 唐紅 那智
『銀の少女』
27/53

1-25 貫く思い

 流血・死亡の描写があります。苦手な方はご注意ください。



「馬鹿な…終焉属性に防御呪文などあるわけが無い!」

「じゃあ、目の前にあるこれは何だよ?」

 揺るがぬ薄い光の壁を見て、男は苦々しげに呻く。それがどんな術であれ、終焉属性の攻撃を受けきって小揺るぎもしないということは、男にとって…いや、誰にとっても信じがたいことであった。

 苦悩の表情で呻く男。隙だらけの彼を前にして、ティアは何もせず立っていた。…いや、何も出来なかった。

(何だよ、この術…精神負担、半端じゃねぇ…)

 背中にじっとりとかいた嫌な汗が気持ち悪い。ひそかに流れた冷や汗を、何気ない動作で拭いながら、ティアは思った。

 多分、そう長い時間は発動させ続けられないだろう。下手したら倒れる…と。その前に、決着を…。

 そう思っても、ティアの体は動かなかった。精神を全力で術の制御に傾けていないと、暴走してしまう…!

「ティア、もういい。術を解け」

 涼しげな顔をしながらも、焦るティアの後ろから、レヴィンの声がした。必死で魔術の制御を保ちつつ、何とか後ろを振り返る。

 レヴィンは、立っていた。まだ、顔色は悪いが、しっかりと大地を踏みしめて。

 右肩の傷口に当てた手に、黄金色の光。地属性の回復術だと、ティアは悟る。地属性は発動が全属性中最も遅い代わりに、攻防回復、全て並以上の強さを誇る。時間さえあれば、傷の回復は容易い。

 その更に後ろでは、セフィも立ち上がって、杖を構えて魔術発動を始めている。

 ティアは、ふと微笑んだ。もう大丈夫だと、そう思って。

「はい…師匠」

 魔力の放出を止め、構築していた術を放棄する。最後の一瞬まで、制御に手は抜けない。光の壁が空に溶け消え、ティア達を護るものが消えた、その瞬間…

「〈焼き清める紅蓮の大輪〉」

 レヴィンが魔術を解放する。決して大きな声ではないのに、何故だかよく通る声。それと共に炎が地を舐めるように広がり、それに触れた終焉属性たちがばたばたと倒れていく。

 火属性の特殊能力、浄化魔術の応用。『浄焔』のレヴィンの二つ名の元となったその術は、終焉属性たちを戒めていた洗脳術すら焼き払う。

 守る者たちがいなくなった男に向かって、ティアは抜き身の剣をぶら下げて歩み寄る。

「お前さ、もう諦めたほうがいいぞ」

「まだだ!」

 諦め悪く、男は腰のサーベルを抜き放ち、ティアに切りかかる。それは、それなりに素早いものではあったが、今のティアにとっては軽くいなせる程度のもの。

 一瞬だけバスタードソードで受け止め、すぐに打点をずらして、刀身の上を滑らせる。勢いがついている分、受け流した後に出来る隙は大きい。体制を崩した男の手に、ティアは剣を突き刺した。

「ぐぁ…ッ!」

「終わりだ」

 冷ややかな声で宣告し、彼の手から剣を引き抜く。今度こそ急所を狙い、振り下ろそうとした刃は…

「ティアさん! 殺すのはダメです!」

 セフィの声で、一瞬止められた。

「甘いな、セフィ。一旦、剣を抜いたんだ。殺し殺される覚悟は出来てるだろうよ。それに、こいつを生かしておいたら、また同じ事を繰り返すだろう。…ここで、止めないといけないんだ」

「原因は、この国なんでしょう!? それでしたら、この人も被害者です!」

「お前な…どこまでお人よしなんだよ…」

 呆れたような声で、ティアは言った。自分自身、奇麗事を貫こうとしているわけだが、ここまでではない、と思いつつ、気勢がそがれてしまったため崩れた構えを直し…


「そうだな。御主が正しい」

 気づけば、その数瞬のうちに、男はティアの刃の下から逃れていた。しかし、形勢は定まっている。終焉属性たちは倒れ、男の利き腕も潰した。ティアが読み取った魔力の流れからして、男が魔術を使える様子はない。

再び油断なく剣を構えて、ティアは言った。

「なら、大人しくしたらどうだ?」

 その声に、少々の苛立ちを込めて。しかし…男は嗤った。

「儂には、最後の任務が残っておる。ファルマフォルクの名誉を汚すわけにはいかん」

 何故か…ティアは、酷く嫌な予感がした。

 そう思った瞬間、ティアは走り出す。剣を構え、男の胸を貫き通し…

「…! ティア、やめろ!」

レヴィンが、気づいたように声を上げるも、もはや手遅れ。

「このネルス=デルハイトの命、くれてやろう。…御主らの命と引き換えに、な」


 ぞぶり、と。手に伝わるのは、肉を貫く鈍い感触。

 剣を伝う、生温い血。

 それが、床に滴った、その瞬間…


 男-ネルスの躰が、火を噴いた。




「…っぁ!」

 痛みに近い熱を感じて、ティアはとっさに剣から手を離し、距離を取る。次の瞬間、ネルスであった火柱が爆散し…『白銀の炎』のアジト全体が、大きく揺れた。

「何だ、一体…!?」

 全く訳がわからない、と、困惑もあらわにティアは叫ぶ。

「やられたな」

「師匠! 何が起こったんですか、これは」

 その呟きを聞きとめて、ティアはレヴィンに問う。レヴィンは、既に跡形もなくなった『ネルス』がいた場所を一瞥し、言った。

「命を魔術の対価とし、強引に暴走させた。すぐに、ここは爆発するぞ」

「…って、何ですか、それ!? オレそんなの知りませんよ!」

「言ってる場合じゃない。とっとと脱出するぞ。…おい、そこの。お前もだ。死にたくなかったら、逃げろ」

「は…はい!」

 放心していたセフィも、レヴィンの言葉で我に返る。慌てて走り出したセフィに、ティアも続こうとして……



「……は…っ…」

 唐突に、世界が揺らいだ。

 何だか、頭が痛い気がして。何故か、天井が見えている。

 倒れたのだ、とティアが理解するまでに、しばしの時間を要した。

「おいティア! 起きろ! この馬鹿弟子!!」

(馬鹿弟子は、酷いな、師匠……)

 軽口を叩こうとするも、唇からはか細い吐息が漏れるだけ。


(ああ、どうしよう…。体が……動か、な…い………)

 そして、ティアの意識は闇に飲まれた。



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